ワークライフバランスの観点から、職住一体は批判の対象にもなりやすい。だが僻地のウイスキー製造では、そんな常識が覆される。

文:アナ・ラーキン

敷地内に居住するウイスキーづくりには、実用性とロマンチシズムが共存している。私のような多くのウイスキー愛好家にとっても、生活と一体化したウイスキーづくりは夢のようなイメージさえある。

そのようなロマンチックな空想を恥じるつもりはない。グランタウン・オン・スペイにあったオリジナルのトーモア蒸溜所も、まさに同じ考えの運営チームに恵まれているからだ。

別名「スペイサイドの真珠」として知られるトーモア蒸溜所は、ロマンチシズムを設計の根幹に据えて建設され、敷地内のコミュニティがその鼓動の源となっていた。

商品化まで長い時間のかかるウイスキーづくりは、日々の暮らしと自然にリズムが重なってくる。大自然に抱かれたトマーティン蒸溜所では、特にそんな実感が深い。メイン写真もトマーティン蒸溜所の貯蔵庫。

蒸溜所の美しい建物は、1959年に建設された。設計者のアルバート・リチャードソン卿は、優雅なジョージアン様式の対称性を取り入れて美観を追求している。光が溢れる建物や緑地には、カーリング用のリンク、村の集会所、従業員用コテージなども加えた。地域社会全体が楽しめるように設計された蒸溜所なのだ。

トーモア蒸溜所は2022年にエリクサー・ディスティラーズの傘下となり、最近3種類の記念すべきシングルモルトを発売したばかりだ。かつての蒸溜所の特徴を反映した軽やかでフルーティーな味わいで、伝統的なトーモアの精神を受け継いでいる。

ヘッドブレンダーのオリバー・チルトンは、現在も蒸溜所の敷地内に住む数少ないチームメンバーの一人だ。ウイスキーそのものの品質が、この建物自体に深く結びついていると考えている。

「桃や洋梨を思わせるフルーティーなスピリッツには、設備の仕様だけでなく建物のデザインも深く刻み込まれています。トーモアにはどこか気まぐれな魅力があり、それをウイスキーの中に引き出すことを目指しているんです」

敷地内での生活体験は楽しかったが、チルトンと家族と一緒に住居を移す予定だ。

「これまでは個人的なウイスキーへの愛や献身が、仕事と完全に一体化していました。どこからが仕事で、どこからがプライベートかわからない生活です。だからこそ、敷地内での居住はまたとない学びのチャンスでもありました。ウイスキー製造が地域社会もたらす意義を理解できたし、世界中からスコットランドにやってくる人たちの熱意を直接受け取ることができましたから」

はたらく幸せはどこにある?

ワークライフバランスを適切に維持することが、人生を幸福にする鍵だとされている。現代社会にあって、職場で暮らすことは時代の逆行と見なされるかもしれない。もちろん仕事と私生活の間には健全な境界線を引いたほうがいい。アードナムルッカン蒸溜所のアラステア・マッケイも次のように指摘する。

「ワークライフバランスに対する現代の期待は、当然ながら以前の世代とは大きく異なっています。現場に住むからといって、常に待機状態であるべきとまでは思いません。それでも職住一体の生活は、実際に多くの点でワークライフバランスを改善しえるのです。毎日の通勤がなくなり、人々の結束の固い地域社会で暮らし、自然の中へもすぐに出られます。これらすべてが、生活の質を向上させる要因になりますから」

移動に費やす時間が減れば、家族と過ごす時間も増える。つまり時間の使い方もより柔軟になるということだ。

職住一体の暮らしは、現代的な人間生活と両立できるのか。この問題に答えるには、私たちの「現代的な人間生活」を問い直し、そこに潜んでいる先入観について理解する必要がある。

私たちは慌ただしい都市生活に慣れすぎて、その長所と短所を無条件に受け入れすぎてはいないだろうか。トマーティン蒸溜所のジェイミー・ミュアは、次のように語っている。

「私自身が辺鄙なジュラ島の出身なので、趣味の多くはアウトドアです。ハイキング、ランニング、フライフィッシング、射撃が大好きですが、ここではすべての遊び場が、文字通り家のすぐそばにあります」

辺境で働くユニークな体験

現代の人間社会にも、ゆったりと暮らせる余地はまだ残されている。ペースを落とし、周囲とのつながりを重視したライフスタイルだ。スコットランド以外にも、このような地域社会との絆を意図的に築いた蒸溜所が存在する。

ノルウェーのマイケン蒸溜所の所在地は、ノルウェー海の沖合32キロに浮かぶマイケン島だ。この離島で実践される職住一体は、単なる利便性をはるかに超えた意味を持つ。

年間を通して、現地のマイケン島で暮らす島民はわずか13人。そのうち8人が、蒸溜所で働いている。敷地内の宿泊施設「ザ・スティル・ハウス」は、島外の人々がここで暮らし、働けるようにと建設されたものだ。広報責任者のジュリー・リューネボルは次のように語ってくれた。

「島の立地は本当に辺鄙なので、ここで働いてもらう人たちを募るには工夫が必要でした。ただ雇用を創出するだけでなく、この島の生活に取り込めなければいけません。短期であれ長期であれ、ここに定住できるような環境を用意しなければならなかったのです」

ウイスキーの品質や特徴は、周囲の自然環境と一体で語られることも多い。風土とともに生きる働き方は、不便な僻地にとって逆に大きな特徴や利点ともなりうる。

離島は、まさに辺境だ。だが辺境での暮らしは、日々の苦難として我慢するものではなく、積極的に受け入れて溶け込むべきものなのだとリューネボルは言う。この特別な場所は、チームの生み出すウイスキーや物語の一部だからだ。

「私たちのウイスキー製造にまつわるストーリーには、強い個性があります。これほどまでユニークな背景を抱えた製品として売り出せるのは、まさに私たち全員がこの環境に深く根付いて、ウイスキーづくりを大切に思っているから。これは単なる仕事ではなく、生き方そのものです」

現代人は、日々の生活に流されやすい。だからこそ他者との関係が濃いコミュニティでの生活が、理想的な人間社会の形成に向けた一歩ともなり得る。居住地とのつながりを実感し、自分の仕事に誇りを持てれば、きっと人間も製品も幸福になれるだろう。

この誇りという感情は、日々の会話から滲み出てくる。それは自分たちがつくったものに対する深い愛着でもある。そんな意味でも、ウイスキーは実に人間的な製品だとアードナムルッカン蒸溜所のアラステア・マッケイは言う。

「結局のところ、ウイスキーは人によってつくられるものですから」

人間は、いつもどこかの場所に存在している。自社を「家族のような職場」とアピールする会社は眉唾ものだが、共通の目標を持つ同僚たちの絆は強い。住まいを共有し、土地との独特な関係によって強められる根源的な価値だ。

マッシュタンのそばで寝起きしなくても、ウイスキー製造への当事者意識は持てる。だが職住一体のライフスタイルは、細部に注がれる手間を深く個人的な出来事にしてくれる。

このような手間こそが、すぐれたスピリッツを生み出す力にもなる。今回紹介した蒸溜所は、奇想天外な偶然と実用性の交差点に位置している。それは物語と風味が交わる場所だ。職住一体の生活には、想像を超えた充実と希望がある。