スコッチウイスキーの後継者計画【第2回/全3回】
名門ブランドの要職を偉大な先人から引き継ぐ。後継者に求められるのは、謙虚で強固な本物のプロ意識だ。
文:マーク・ジェニングス
後継者の育成には、実務的な判断力の養成も含まれる。ウイスキーづくりの要素としてはさほどロマンチックではないが、おそらくもっと重要な側面だ。ウイスキーを片手に、詩的な言葉を語り継ぐだけがリーダーの仕事ではない。
ときには生産のペースを落としたり、不要な樽の使用を却下したり、着色料の誘惑を拒んだり、受け継いだ風味を守り抜いたりすることも必要だ。一貫性を保つことが単調な作業ではなく、ウイスキーづくりに不可欠な姿勢であると見極める瞬間もある。そんな実践的な規律こそが、前任者から受け継がれるべき知恵なのだ。
蒸溜所の功労者として一人の人物に光を当てる考えにも、ワトソンは慎重に距離を置いている。やはり世間では、ワトソンが最大の功労者であると語られることも多いかもしれない。だがウイスキー製造の実際は、そうではないのだ。
製麦、蒸溜器の操作、生産管理、在庫計画、何千もの原酒のサンプル評価などに、多くの人々が携わっている。ワトソンはそんなひとつひとつの仕事を等しく重視しているのだ。
「結局のところ、どんな蒸溜所でも一人の功績で品質が維持されるわけではありません。グラスに注がれたウイスキーは、チームの努力、正しいプロセス、そして全員が共有する哲学の結晶なのです」

ハイランドパーク蒸溜所で27年間にわたってマスターウイスキーメーカーを務めてきたゴードン・モーション(左)と新任のマーク・ワトソン(右)。メイン写真は、力強く複雑な香味を生み出すハイランドパークのポットスチル。
人気テレビドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』では、一人の強大な人物が王座を去り、別の誰かがそれを引き継ぐというファンタジー的な後継物語が描かれている。だが実際の継承には、もっと複雑な事情が絡みついているものだ。
肩書きも味わいも重要だが、判断力の継承はもっと重要だ。ウイスキーを支えているのは、それよりも大きな何かである。蓄積された職人技、繰り返される決断、発売時の宣伝写真には決して映っていない人々の静かな力量こそが、素晴らしいウイスキーをつくる決定的な要因となる。
それでも後継者には、独自の行動も求められる。単に過去を称賛しているだけではいけない。まずワトソンは、ハイランドパークをオークニーに根ざした存在として定義し直した。ヒースの花の香りがするピート、フロアモルティング、シェリー樽熟成、着色料なしの液色、バランス、テクスチャー、複雑さ、そしてブランディング以上の「オークニーらしさ」を見つめることだ。
ワトソンの仕事は、ハイランドパークを別の何かに変えることではない。しかしただ漫然と惰性でウイスキーをつくり続けることでもない。
「ハイランドパークで受け継がれてきたスタイルは、偶然の産物ではないということです」とワトソンは言う。
後継者となる者は、何を継承すべきなのか。この問題を考える上で、最も有益な視点のひとつがワトソンの言葉には含まれている。
ハウススタイルとは、単なる風味プロフィールのことではない。それはこれまでに下された一連の決断の連鎖のことだ。そのような決断は意図的に下され、その後で再検討され、守られたり、調整の対象になったりしてきたはずだ。
ここで難しいのは、柔軟に変えられる部分と決して変えてはならない部分を見極めることだ。
ワトソンは、ハイランドパークの定番品と新製品の開発をはっきりと区別している。定番品の代表である「ハイランドパーク12年」と「ハイランドパーク18年」の理想は、変化がまったく目につかないことだという。
「私がリリースする12年とゴードン時代の12年の違いに、人々が気づかないのが理想です」
これは野心の欠如ではない。むしろ定番品をつくる職務にふさわしい種類の野心なのだ。
庭師タイプのリーダー
定番品を離れれば、自由な裁量の余地が増えてくる。たとえば新製品のリリースによって、ワトソンはストックの原酒から新しいアイデアを模索できる。そのようなアイデアでウイスキーファンを魅了し、独自の判断を少しずつ示すことも可能だ。
それでもワトソンは、自分の爪痕を残すような大改革がしたいわけでもない。指紋のように目立った結果を残さなくても、自身の足跡を残す方法はあるという。その方法は「まず耳を傾けること」だとワトソンは言う。
ウイスキーづくりのリーダーにも、表現者タイプ、編集者タイプ、管理者タイプなどさまざまな対応があるだろう。ワトソンに自己認識を尋ねると、まったく別のイメージを例に挙げてくれた。
「自分は庭師タイプだと思っています」
それは実に素晴らしい比喩であり、ウイスキーの世界にありがちな誇大表現よりもワトソンらしい。庭師は土壌や天候を作り出すわけではなく、木の成長を急かすこともできない。
だからといって、庭師がまったく受動的なわけでもない。完全には見通せない未来のために、草木の世話をして、無駄な枝を剪定して、守るべきものを守り、小さな存在を養い、ときには実験精神も発揮しながら新しい可能性を植えるのだ。
ワトソンが個人的に力を入れている改善点のひとつは、テクスチャー(舌触り)なのかもしれない。
ワトソンに聞いてみた。これから5年後や10年後のハイランドパークをゴードン・モーションにテイスティングしてもらったときに、自分のどんな仕事を認めてほしいのか。ワトソンは、新しい時代や革命的なスタイルの転換といった評価を望んでいない。
「僕がつくったウイスキーを味わったゴードンが『あのテクスチャーは見事に表現できたな』と思ってくれたら嬉しいなとは思います」
ウイスキーの味わいのなかで、テクスチャーがあまりにも見過ごされがちだとワトソンは言う。ハイランドパークの特性で関心があるのは、甘み、シロップのように滑らかな口当たり、ヒースの花のようなハチミツ風味、スモーク香、果実感、樽由来の影響といった要素が口の中でどのように調和するかだと答えてくれた。
これはワトソンの本質を如実に表す言葉だ。少なくともウイスキーの品質を守る立場にあるワトソンは、自分の仕事が完全に新しい伝統を始めるようなものではないと考えている。それはハイランドパークというウイスキーが、ハイランドパークならではの個性をさらに獲得できる道を見つけることなのだ。
(つづく)





