アメリカンウイスキー新時代 3 / バルコンズ蒸溜所

February 2, 2013

デイヴ・ブルームがレポートするアメリカンウイスキーの最終回。今回はテキサス州のバルコンズ蒸溜所を訪れ、テキサス産ウイスキーのこだわりを訊ねた。

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テキサスの頑固者

チップ・テイト (バルコンズ蒸溜所、テキサス州ワコ)

チップ・テイトが蒸溜に目覚めたのは、学んでいた醸造研究所の卒業に向けて家で勉強しているときだったという。
試験委員が、最終試験の一項目として「蒸溜」の項目を追加したのがきっかけだった。それまではずっと発酵という現象に魅せられながら、ビール醸造所を開業する夢に思いを巡らせていたテイト。そこに蒸溜という新しいテーマが現れ、啓示を受けたような気分になった。
「自分の人生を台無しにしたくはなかったから、挑戦することに決めました。でもそれから最初の結婚に失敗して、結局は台無しになっちゃったんですけどね」
テイトと話し始める者は、誰でもすぐにマニアックな世界へと引きずり込まれる。専門的なテクノロジー、エンジニアリング、スチルのデザイン、製造技術などへのこだわりは、尽きることがない。
バルコンズ蒸溜所は、そのへんにある型にはまったありきたりの蒸溜所とは違うんですよ。私はウォツカもつくれるような万能の設備じゃなくて、自分が欲しいものだけをつくるための設備が欲しかったのです
蒸溜を深く学ぶために、テイトはスコットランドを旅した(ちなみにコルセア蒸溜所のダレク・ベルもブルイックラディの蒸溜学校を卒業している)。
その後、彼は自分用のスチルを手に入れ、すぐに自分なりの改良を施した。
「ポットスチルはとてもよかったのですが、調整が必要でした。他の人が一度やった仕事を、元に戻してやり直すのが大変なことだとわかりましたね」
彼は蒸溜所のほとんどを自分の手で建築した。蒸溜所を一から手づくりすることが、工場の働きをより本質的に理解するために役立つと信じていたからだ。 同様に重要だったのは、彼のスピリッツを正真正銘のテキサス生まれにすることだった。
「ブリムストーン」のスモークに使われている木は、地元のバーベキュー用木材。ラムへのオマージュを表現した「ランブル」は、地元産のハチミツがベースになっている。「ベイビーブルー」で使用されているのは、テキサス産のブルーコーンだ。

本格的なコーンウイスキー

「私は世界中の色々な土地のウイスキーが大好きですが、まずもってテキサスの蒸溜者でもあります。そこで米国にはコーンウイスキーがありますが、飲んでもトウモロコシの風味がするわけではないというところに目をつけました。
モルトウイスキーをつくるのと同じような考え方で、しっかりしたコーンウイスキーをつくったらどうだろう。高品質のトウモロコシを使って、まさにトウモロコシの味がするようなウイスキーをつくったら、うまいのではないだろうかって」
そのコーンウイスキーは、かなり短期の熟成で出荷されている。ちょっと早すぎではないかと訊ねると、テイトは事情を説明する。
「自転車操業だから、10年も待ってはいられないんですよ。その辺の問題を解決するためには、ぜひマスコミの皆さんにも協力してほしいものですね」 最善のバランスを達成するため、樽に使用する木材について厳格なポリシーが必要であるとテイトは信じている。それは単にファーストフィルを用いるといったことだけに留まらない。
「カスクは単なる色づけではなく、熟成のためにこそある」と彼はいう。フレンチオーク、アメリカンオークの他に、テキサス産の木材を細かく使い分けているのだ。 バルコン蒸溜所の事業は、なかなか堅実なように見える。現在のクラフトブームについてどのように見ているのだろうか。
「まだまだブームのピークは来ていませんね。でも間違いなく、これから5年のうちに淘汰は始まると思います。いくつかの蒸溜所はさらに良くなるだろうし、そうならないところもある。
今のまま生き残るスタイルもあれば、発展するスタイルもある。自分自身のウイスキーだと思えないウイスキーを、市場に合わせてつくろうという誘惑には乗らないようにしています。ニュートラルなスピリッツを買って樽に詰め込み、それを自前のウイスキーだと称して売りさばく輩がいるのは恐ろしいことですよ。でも我々のように、本当に自分たちのウイスキーをつくり、すべてのリスクを引き受けているメーカーもいるということを知っていただきたいと思います」 バルコン蒸溜所のウイスキーは本物だ。その証拠に、テイトの投資はいまや着実に回収されつつある。

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