ザ・ソサエティ ― 限られたボトル、広がる組織
ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティはゆっくりと、しかし着実に進化と成長を続けている。新たな日本の蒸溜所もそのコレクションに加わったばかりだ。
あなたにとってザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(以下ザ・ソサエティ)とは? もしその名を聞いたときに思い出されるのが、素晴らしい興奮をもたらす刺激的なカスクストレングス・モルトなら、おそらくはソサエティの1ないし2本のボトルと幸運なめぐり逢いを果たしたウイスキーの飲み手に違いない。
あるいは、その名を聞いて、エディンバラの高級地として再開発されたリース港にある、格調と伝統あふれる素晴らしいボルツ(Vaults)を思ったり、クイーンズ通りにあるモダンでスタイリッシュなクラブルームのことを考えるなら、おそらくスコットランドの首都エディンバラにお住まいか、あるいは頻繁にこの街を訪れているのだろう。
そして、もしザ・ソサエティの名前が、時折特別なボトルの購入へと誘う、大げさでしかし楽しいテイスティングノート満載の季節毎のお知らせを意味したり、ザ・ソサエティ・テイスティングイベントを意味したりするのであれば、あなたは世界に約3万人存在する会員のひとりに違いない。
ザ・ソサエティは「広教会」(より自由な英国教会の一会派)のようなものであるが、最も困難な仕事は多様性と互いに矛盾する要素の間のバランスをとり続けることである。
プレミアム・モルトをプレミアム価格で売り、エディンバラでもっとも高級なふたつの場所を占める組織にとって、正しくバランスをとることは容易ではない。ウイスキーの世界は冒険小説よりは推理小説に似通っているのだ。
手の中にある全てのものを犠牲にすることなしに、進化し成長するにはどうすればよいのだろうか。ポール・マイルズがザ・ソサエティの最高経営責任者として着任したときに直面したのは、そうした問題だったのだ。そこでマイルズはチームと腰を据えて、ザ・ソサエティが元々目指していたものと、現在目指すものを吟味したのである。
「もともと目指していたことはふたつありました」とマイルズ。「第一に、とても珍しくてユニークなシングルカスクウイスキーを会員に届けるという会員制組織としての使命です。会員構成を考えて下さい、250本しかないモルトをどうすれば分け合うことができるでしょうか」
「そしてもうひとつは、シングルカスクウイスキーに関する世界最大で最良の供給者になるという使命です。ヴァッテッドウイスキーやブレンデッドウイスキーに対してでは無く」
「そこで、私たちはその当初の使命を果たすというコミットメントを再び主張してきたのです。どのように会員に価値を提供できるかに注目しながら会員構成を考えてきました」
「会員構成を変革したかったのです」と、マイルズ。「会員の募集は続けてきました。新しく珍しい経験を求めていて、テイスティングの幅を広げたいと思っている経験豊富な多くの男性ウイスキー愛好家たちを募集していました。しかし、現在は伝統的なウイスキーの背景知識は持たないものの、出会ったものに魅せられ興味をもった若い世代の数が、だんだんと増えているのです」
「また女性会員が過去2年で急速に増えています。新会員の2割が女性なのです」
ザ・ソサエティのアプローチはふたつの使命を見失わないようにしつつ、会員へ提供するものを改善していくことに向けられてきた。ウイスキーボトルそのものから、ザ・ソサエティが会員と交流する方法に至るまですべてが再検証されている。
「ボトルのそれぞれにテイスティングノートを貼っています。これまでは不可能なことだったのです」
「最新情報を掲載したウェブサイトもありますし、会員パックも変更しました。これによって新規入会時には色々なスタイルを楽しめる4本の100mlボトルが渡されます。季刊のニュースレターは、いまや正式な雑誌の体裁をとっているのですよ」
この様々な試みの中心にあるのもちろんウイスキーである。グレンモーレンジィによるザ・ソサエティの買収以来、ザ・ソサエティの独立性が損なわれて素晴らしいカスクの品揃えに偏りが生じるのではという懸念が囁かれてきたが、マイルズによると逆のことが起きたのだという。
「基準を高く保つことができたばかりではなく、さらに引き上げることもできたのです」
「以前よりも遥かにたくさんのカスクを入手することができましたし、今まで以上の本数をボトリングすることも可能になりました」
新しいボトルは、月に一度のイベントでリリースされる。リリース日に先立つ数日間は新しいボトルへの興奮と期待を高めるためのプレビュー試飲としてサンプリング会も度々開催される。
カスクの選択は、様々なバックグラウンドを持つ幅広いウイスキーの専門家たちによって構成されるテイスティング委員会によって行われている。委員たちは毎週集まっては6から7つのカスクサンプルをテイスティングする。どれかを選択するようにという圧力は受けないし、必要ならすべてのサンプルを拒否することもできる(そうなることはないが)。
「もしすべてが拒否されたとしても、委員会に何かを合格させるよう無理強いはしません。もし委員会が6つすべてを受け入れたなら、ふさわしいものを選ぶことができたという意味で成功なのです。なにより重要なことは品質が高く保たれることです」
さらにたくさんのものがザ・ソサエティからやって来るようだ。世界中のモルトウイスキーを視野に入れ、ウイスキーを宣伝するためにユーモアかつ大胆な手法も採用する。そして慣習にとらわれずウイスキーを色彩の炸裂と味わいの贅沢として広めていこうとする機運に満ちているのである。