世界でひとつだけのバーボン

May 21, 2012

樽に使用される木の出自によって、熟成はどう変わるのか。バーボン史上もっとも野心的なプロジェクトが進行中。(文:マーク・ギレスピー)

たいていの蒸溜所は、貯蔵庫内に数十本程度の「実験樽」を秘蔵しているものである。しかしケンタッキー州にあるバッファロートレース蒸溜所の場合、この実験樽の数が1,500を超えているというから驚くほかない。

バッファロートレースが進めている「シングル・オーク・プロジェクト」は、それぞれの樽を1本の木から組み上げ、その特徴を多角的に分析する壮大な実験だ。意外なことに、マスターディスティラーのハーレン・ウィートリーや同社マーケティング部門が思いついたアイデアではないという。

「会議で熟成について話し合っていたときに、ロニーが樽木選択の重要性について説き始めたのがきっかけでしたね」。そう話すのは、バッファロートレースでCEOを務めるマーク・ブラウン。ロニーとは、長年にわたって同社の貯蔵庫責任者を務めたロニー・エディンズのことである。

「どこの地域で育った木だとか、斜面の高さではどの辺りだとか、土の湿り具合はどうだとか、年輪の数や間隔だとか、木の上半分から作った樽は下半分から作った樽と違うとか。このような違いが熟成に大きな影響を与えることを、ロニー・エディンズははっきりとわかっていたのでしょう」。

ユニークな192本の樽

1999年、エディンズはこのプロジェクトに必要となる一連の木々を選定するため、ミズーリ州オザークの森へと向かった。そこで選び出されて製材所に送られたのは、年輪の数や木目の広さに異なった特徴を持つ96本のアメリカン・ホワイト・オークである。

通常なら無作為に選別された樽板から樽を作るのが樽工房の役目だが、ここではまず材木を上下半分に切り、同じ木の同じ部位だけを使用した樽192本を作った。これらの樽で、それぞれ7種類の異なったレシピによるウイスキーが熟成されることになった。

木の持つユニークな特性が、熟成バーボンの最終的なフレーバーにどのような影響を与えるのか。それを解明するのがこのプロジェクトの要諦である。8年の熟成を終えた192本の樽は、外的要因の影響を最小限に抑えるため手早く1週間以内に瓶詰めされた。

ウイスキー史上もっとも詳細な製品情報

今までのところ、192種類のバーボンすべてを味見した蒸溜所スタッフはほんのひと握りである。この希少なボトルは、2015年までの四半期ごとに順次リリースされる予定だ。1ケースに12種類の樽から瓶詰めされたウイスキーが1本ずつ入っている。多くの販売店は1回のリリースにつき1ケースしか割り当てられないため、一般の消費者がすべての種類をコレクションすることは難しい。

この「シングル・オーク・プロジェクト」のバーボンを購入した人のために、バッファロートレースはウイスキー史上でもっとも詳細な製品情報を提供している。所有するボトルをウェブサイトに登録してテースティング・ノートを記入すると、原料、樽のチャー加減、樽木の伐採場所、アルコール度数、貯蔵庫内での熟成場所まで、あらゆるデータにアクセスできるのだ。

残念なことに、ロニー・エディンズはこのプロジェクトの結果を見届けることなく世を去ってしまった。初回リリースを半年後に控えた2010年の暮れ、ガンとの闘病の末に他界したのだ。彼の功績を讃えて、初出荷の際には蒸溜所の敷地に1本の苗木が植樹された。彼の人生を記念するに相応しい、アメリカン・ホワイト・オークの木である。

 

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