素朴さを食卓に届ける
最初の共著『ザ・ウイスキー・キッチン』がウイスキー界で大成功を収めた、ふたりの著者に会う
Report:ケイト・ポートマン
シェフのグラハム・ハーヴェイは、ウイスキーと食べ物を組み合わせる喜びを若くして知った。10代半ば、伝統的なバーンズ・サパーの席で実地訓練を受けたときのことだ。
「ハギスとカブとジャガイモが出されました。私は若さゆえの無知から、向かいに座っているもじゃもじゃ頭のグラスゴー人に『グレービー・ソースは付くのか』と訊きました」とグラハムは説明する。
「彼は立ち上がって、テーブル越しに手を伸ばし、自分のグラスに入っているウイスキー全部を私の料理にかけて、『お若いの、ハギスに必要なグレービー・ソースはこれだけだよ』と言いました」
この組み合わせは、心に強く残ったに違いない。というのも、それ以来ずっとグラハムはウイスキーと食物の組み合わせに情熱を持ち続け、飲食店業界で30年以上の間、さまざまな組み合わせを試してきたからだ。
彼は現在、スコットランドのウイスキー生産中心地、スペイ川沿いのグランタウンで、パートナーのシーラ・マコナチと一緒に「グラガン・ミル・レストラン」を経営している。このレストランでふたりは、スコットランドの最高の素材と産物をベースにした幅の広い料理を出しており、当然ながらスコッチがふんだんに使われている。
黒板に書く日替わりの特別メニューにいつもウイスキーを使った料理が出され、人気を博するようになったので、ふたりは『ザ・ウイスキー・キッチン』を執筆することにした。この新しい本にはウイスキーを使った100種類の刺激的な料理のレシピが載っている。
これまで『ウイスキーとフード』というテーマに関する多くの試みは、工夫をこらしたウイスキーディナーに関心が集まっていた。これはマリアージュ(組み合わせ)の究極の可能性を証明してくれたが、平均的な料理愛好家とウイスキー愛好家には少し近寄りがたいと感じさせた。
グラハムが最高レベルの料理技術の持ち主であることは、2007年のスピリット・オブ・スペイサイド・シェフ最優秀賞の受賞により、明示されている。シーラと共著したこの本は、素朴だが美味しい家庭料理を確固たる基盤に、家庭で気楽に作れるよう配慮されている。
紹介されている料理の多くは、十分に試行された家庭料理のレシピであり、端的にウイスキーを加えることでいっそう美味しくしたものである。これらの料理は、彼らのレストランでステーキバーガーに添えて出す、大人気のジュラ・ウイスキー・トマトソースから、ダルモアを使ったバナナと蜂蜜のティーブレッドまでに及ぶ。
「私たちは、料理のベテランであれ、初心者であれ、誰もが近づきやすい料理をつくりたいと思いました」と、シーラが説明する。
「材料のリストが長いものもありますが、レシピのほとんどは、非常に簡単です。また、料理の出し方にさまざまなアイディアを盛り込みましたので、ディナーパーティ用に、あっと言わせるような料理をつくることができるでしょう」とグラハム。
ふたりはこの本によって、広範囲にわたる人々がウイスキーの大いなる可能性を認め、ウイスキーが日常の料理の素材としていかに万能であるかをわかってほしいと思っている。シーラは言う。「私たちの店はスコットランドの最高の農産物を使うスコットランド料理のレストランですが、料理方法は当然ながらフランスとイタリアの影響を受けています。これらの国が自国料理に自国の酒を日常的に使っているなら、スコットランド料理にはウイスキーを使ってみようではありませんか」
レシピにスコッチを入れるもっともな理由のひとつは、スコッチが家庭料理に、限りない種類の多様な味とフレーバーを提供するからだ。問題はウイスキーを料理に使うことに対する人々の偏見を打ち破ることだ。
理解を得るのが一番難しかったのは、飲物としてウイスキーを好まない人々である。「多くの人はウイスキーっぽい味が強く出るだろうと思っていますが、それは事実でもなければ、そうしたいわけでもありません。もし料理がウイスキーに負けるなら、そのレシピは間違っているのです」とシーラは断言する。「もちろん、常にレシピは微調整可能で、好みに合わせてウイスキーを増減してもかまいません。ウイスキーは調理すると特徴が変わるので、強い味がなくなって新たに上品なフレーバーの層が加わるのがわかるでしょう」
グラハムが加える。「執筆の際に行ったブラインド・テイスティングでは、参加者は例外なくウイスキーが入った料理の方を好みました」
ウイスキー、とくにシングルモルトを使うと費用がかさみそうだということは、家庭でウイスキーを使って料理するのを阻害する別の要因だが、『ウイスキー・キッチン』のレシピでは1~2本のミニチュア瓶を使用しているので、安く試すこともできる。
「戸棚に隠れている飲み残しのウイスキーを試しに使ってみるのがちょうど良いのですが、いずれにせよ、ほんの少しで十分役に立ちます」と、シーラが助言する。
「だからといって、自分の味覚にあったウイスキーを見つけたら、一本買うことを止めないでください!」とグラハムは熱意をこめて訴える。そして、彼らが見つけた、さまざまな料理に効果を発揮するクラガンモア12年を、もっとも複雑で万能のウイスキーのひとつとして薦める。
フレーバーが強すぎることと価格に関する最初の先入観を一度通り越せば、問題は台所で使用するウイスキーの最大限の可能性を理解することだけである。「チョコレートやクリスマスケーキと一緒にウイスキーを飲むのが好きな人がいますが、それは彼らが以前この組み合わせを試したことがあるからです。しかし、料理にウイスキーを使うことには驚くようです」と、シーラは言う。
「初めて組み合わせに挑戦した私にとって最大の突破口は、ドランブイ・ウイスキー・リキュールがローストサーモンのソースに入っているオレンジと絶妙に合うことをみつけたことです。そのことから、美味しい料理に他のウイスキーを使える可能性に目を向けるようになりました」と彼女はそのときの感動を伝えてくれた。
このソースは今、アベラワーの柑橘系の特徴を活かすように調整された。これは初心者向けの素晴らしいレシピとしてストラスドン・ブルーチーズ・ウイスキーのソースと共に薦められている。後者は牛肉か豚肉、野菜、パスタ、そしてなんと魚介類にも添えて出すことができる。
もうひとつのシンプルな甘い料理に対する刺激的な発想には、フルーツケーキに入れるドライフルーツをベンリアック・ダークラムウッド14年に浸したり、少量の堅いフルーツをフライパンで炒め、そこにグレイヴァ・ウイスキーリキュールを少しいれて、火をつけてアルコールを飛ばすことも含まれている。
本でも紹介されているがグラハムの好きな組み合わせ、ハギス・ヴルーテを再現することもできるだろう。これは、彼の好きなスペイサイドモルト、グレンファークラスと、何年にもわたって忘れることなくウイスキーとの組み合わせを試みてきたもう一方の食材、ハギスとを組みあわせたものである。
グレアムのハギスにウイスキーをたっぷりとかけてくれた、あのもじゃもじゃ頭のグラスゴーの男だってきっと認めてくれるに違いない。