「黄金の液体」レッスン

December 12, 2013

スコットランドが世界に知らしめたものはスコッチウイスキーなのか?

Report:チャールズ・カウダリー

スコットランド人とアイルランド人が集まると、誰がウイスキーを発明したかという議論がよく持ち上がる。実際はスコットランドでもアイルランドでもなく、ビールを製造していた他の国である可能性が高いのだが、それをウイスキーとも呼ばず、つくり続けもしなかった。現在、ウイスキーと呼ばれているものを誰が発明したか、という点については疑う余地も議論の余地もなくスコットランド人だ。だが、それだけでは真実の半分もわかったとは言えない。自国の地酒を海外に売り込む方法をブレンデッドのスコッチウイスキーによって世界中に知らしめたのだ。

全ては、1820年代に発明されたコラムスチルから始まった。この技術でグレーンウイスキーの製造が可能になったのだ。1850年代にウイスキー業者はグレーンウイスキーとモルトウイスキーをブレンドし、初めてのブレンデッドが誕生した。それが様々な経過を経て、今では極めて一般的な手法となっている使用済みのバーボン樽を使って熟成させる方法が取り入れられ、現在のスタイルに到達したのである。ブレンデッドスコッチウイスキーが、世界中で売られているウイスキーの中でも群を抜いて最もポピュラーなスタイルとなったため、今では世界中でこのスタイルのウイスキーを意味するようになっている。

バーボンウイスキーやライウイスキーなどがつくられているアメリカでさえ、単純に「ウイスキー」と注文すると、大抵のバーや居酒屋ではブレンデッドスコッチが出てくるほどだ。

だがブレンデッドスコッチウイスキーを誕生させた技術や理念は、それよりも遥かにたくさんのものを私たちにもたらした。それは日本やカナダ、アメリカのブレンデッドウイスキー、ミックスドテキーラ、インディアン「ウイスキー」、そして様々な世界最高級のラムなどの原点となったのだ。

ここで言う理念とは何か? ブレンドの手法はスコットランド人が発明したわけではない。フランスでは、1850年代以前に既にブランデーがブレンドされ、またワインに至っては1000年も前からブレンドされていた。1853年アンドリュー・アッシャーが発明したブレンドでさえ、コニャックベースのものだった。彼は今で言うブレンデッドモルトを生み出したのだ。現在のようなブレンデッドが登場するのはもうすこし後だが、このウイスキーが世界中津々浦々に広がっていったのであろう。コラムスチルに改良が加えられ、スコットランドでより広く使われるようになると、それは北アメリカでも導入されるようになった。カナダやアメリカの蒸溜所は、さらにコラムスチルに頼るようになり、ポットスチルでつくられるアルコール度が低く風味が豊かなウイスキーと、コラムスチルでつくられるアルコール度の高いウイスキーのブレンドがさらに普及した。

そのうち、アメリカの様子が少し変わってくる。ウイスキーにニュートラル・スピリッツがブレンドされるようになったのだ。風味と色が加えられ、ウイスキーの成分はますます減らされた。ついにウイスキーがまったく使われなくなったのに、名前だけはウイスキーと呼ばれ続けた。時には、ラベルに嘘の熟成年数が記載されるようなこともあった。一時、アメリカでウイスキーとして売られている製品の90%近くが、ウイスキーをほとんど、あるいは全く含有していないと言われたこともあった。

その一方で、誇り高く伝統を重んじる西ペンシルバニアケンタッキーテネシーなどのウイスキー製造者たちは、強く炭化させたホワイトオークの新樽を使ったりと、独自に発明した製品を売り出すようになっていった。彼らは、スコットランド人がグレーンウイスキーマッシュと呼ぶものを、風味豊かなトウモロコシや麦、ライ麦、そして大麦など(でもほとんどはトウモロコシ)を組み合わせてつくった。彼らがコラムスティルを使っていたのは、特にアルコール度の高い蒸溜酒をつくるためではなく、むしろマッシュや固形物などが扱いやすいという理由からだった。
品行方正なカナダ人は、単純にスコットランドの技術を模倣し続けた。ひとつだけ違っていたのは、彼らもまた安価で豊富に手に入る北アメリカのトウモロコシが、スピリッツのコクをつくり出すために最もよい穀物であると考えた、という点だ。風味についても、モルトよりもライを好んだが、それ以外は常にイギリスのスタイルを踏襲した。
繰り返すわけではないが、アイルランド人もまた、あらゆる点でスコットランド人を模倣していた。

アメリカではついに19世紀末頃にウイスキーが淘汰され、ふたつのタイプに絞り込まれた。ストレートウイスキーはアルコール80%以下で蒸溜し、チャーしたオークの新樽で2年以上、熟成させなければならなくなった。もうひとつのタイプであるブレンデッドウイスキーは、ストレートウイスキーを20%以上使用しなければならないが、それ以外の成分は未熟性のウイスキーかニュートラル・グレーン・スピリッツが使われた。

このふたつのうち、アメリカンブレンデッドウイスキーの方がスコッチに近いが、アメリカ人はストレートウイスキーを好んだため、現在売られているアメリカンウイスキーのほとんどはストレートウイスキーだ。唯一の例外で良く知られているのは、シーグラムのセブンクラウンだ。
日本ほど、スコットランド・プランを忠実に踏襲している国はない。ブレンデッドウイスキーも、フレーバーウイスキーも、ほとんどがモルトのみを使っている。

インドは別の道を選んだが、世界のウイスキー愛好家たちにとって、「いわゆる」という冠詞がつかなければ「ウイスキー」という言葉を使うことは出来ない。それはインドのウイスキーはほとんどがサトウキビを蒸溜したもので、漠然とスコッチに似せるために風味付け、色付けが行われており、スコットランド風の名前をつけスコットランド風のイメージのボトルで売られているためだ。

例外もある。アムラット・インディアン・シングルモルトウイスキーなどは、大麦麦芽が主原料となっているが、「インディアン・ウイスキー」市場でのシェアはごくわずかだ。

アメリカやヨーロッパの基準から言えば、ほとんどの「インディアン・ウイスキー」はラムと呼ばれるべきである。最高級のラムは、ブレンデッドスコッチに似た製造方法でつくられているのだ。ジャマイカでつくられ、アプルトンという名前で売られているラム酒が良い例だ。いくつか異なる等級の糖液を醗酵させ、ポットスチルとコラムスチルの両方で蒸溜し、アルコール度の高いものと低いものをつくり、全てを使用済みのアメリカンウッド樽で熟成させる。それから、別のラム酒をブレンドする。ブレンドには様々な品質と価格のものがあり、値段が高いほど、熟成度が高く、よりコクのあるスピリッツが多く含まれているのだ。

テキーラの地であるメキシコの蒸溜所でもまた、地元のスピリッツを世界的に売り出そうと、スコットランドの手法を取り入れ始めた。ここでは、コラムスチルが好まれている。また、グレーンやサトウキビなどからつくられた、ニュートラル・スピリッツを、風味豊かなアガヴェジュースとブレンドさせるのが彼らの好みだ。さらに、わずか30年ほど前から、彼らはスピリッツをオーク樽で熟成させ始めたのだが、アメリカを真似て新樽を使うのではなく、スコットランドやカナダ、ジャマイカを真似るようになり、ケンタッキーやテネシーから使用済みの樽を輸入し始めたのだ。

このように、スピリッツの市場が世界的に広がりを見せ製法の面でも、アイデンティティの基準が確立されるようになるかもしれない。そうなれば、将来スピリッツがどんな名前で呼ばれようと、基本的な製造方法によって「スコットランド製」というスタンプが押されるようになる可能性は大きい。スコッチウイスキーがスコットランドの誇るべき商品であるなら、ブレンデッドスコッチウイスキーは世界に誇るべく技術を生み出した事になるだろう。

カテゴリ: Archive, テクノロジー