Lost Distilleries―タムデュー蒸溜所
操業休止となった蒸溜所タムデュー。2013年5月4日にスペイサイドウイスキーフェスティバルで復活する愛されるべき蒸溜所の歴史を振り返る
Report：ガヴィン・D・スミス
タムデューを「失われた」蒸溜所と言うのは正しくないかも知れない。同蒸溜所は2010年にウイスキーの製造を中止し、「ケアとメンテナンス」状態だ。とはいえ、現在、同蒸溜所は前オーナーであるエドリントン・グループから、イアンマクロード・ディスティラーズに売却された。
エドリントン・グループの製品の中で華々しく高い人気を誇るシングルモルト、マッカランとハイランド パークに較べると、確かにタムデューは知名度が下がる。だが、それは同蒸溜所が主にブレンド用、それも特にフェイマスグラウスの原酒を供給するという、やや地味な役割がメインだったからだ。
タムデューという名前は、「黒い丘」を意味するゲール語に由来する。同蒸溜所は、スペイサイドの中心部に位置している。スペイ川の北側だ。また、すぐ隣はノッカンドゥ蒸溜所で、カードゥ蒸溜所にも近い。タムデューは、スコッチウイスキー産業の拡大傾向が最高潮に達していた19世紀後半に設立された。設立に際しては、ザ・ハイランド･ディスティラー社のディレクター、ウィリアム・グラントが同業15社から建設費の総額1万9,200ポンドを募り、エルギンの建設家チャールズ・ドイグが設計を担当した。スペイサイドの風景をなす蒸溜所の大半は彼の設計によるものだ。
製造開始は1897年7月。最初は水源の権利をめぐっての議論があったものの、1年後の1898年6月までにはトータル21万4,476ガロンのスピリッツを生産した。同年後半、タムデューはザ・ハイランド・ディスティラー社に買収される。その主な理由は、同社のブレンド用のモルト原酒づくりを担っていたグレンロセス蒸溜所が火災事故により大量の被害に遭い、その代わりとしてタムデューに白羽の矢が立ったのだ。
その後、タムデューは1911年から1913年まで、さらに1928年から1948年までの20年操業を停止する。その再操業の2年後、既存のフロアモルティング製法に代わってサラディン式モルティングを導入した。これは、区切ったフロアに大麦を入れ、下から空気を送って攪拌するというもの。後にコンピュータ制御方式に代わった。
今回の操業停止の何年も前から、タムデューはスコットランドで唯一、サラディン式モルティングで操業を続けている蒸溜所として知られていた。さらに、タムデュー用だけでなく、エドリントン・グループの他の蒸溜所にもモルトを提供していた。一時は全体量の3割近くをカバーしていたほどだ。
1970年代はスコットランドにおける蒸溜所拡大が再開した時期だが、タムデューでも1組だったスティルを1972年には4組に、その3年後に6組に増やしている。最終的に、数字上では年間生産高400万リットルを誇る一大蒸溜所だったタムデューだが、1999年にはエドリントン・グループに買収された。操業が中止される頃には、年間の生産量が200万リットルを超えない規模となっていた。
2009年末に同蒸溜所の閉鎖が正式に決定され、同社のスポークスマンは「国際市場におけるエドリントン・グループの製品のパフォーマンスは良いが、現在の不景気により、ここ数年の売り上げは停滞している。確かに安定に向けた初期の兆候はある。しかし、この景気の動向により、タムデューの生産量の見直しを余儀なくされた」との声明を発表した。
スペイサイドのその他多くの蒸溜所と同様、タムデュー蒸溜所も鉄道に近く、部分的ではあるが恩恵を受けていた。その路線はノッカンドゥ駅を通っていた。同鉄道は1960年代には閉鎖されたが、ノッカンドゥ駅は後に、タムデュー蒸溜所への訪問客のレセプションセンターとしてオープンした。
タムデューのウイスキーは1976年に8年モノのシングルモルトとして初リリース。その後2005年に、18年モノと25年モノがそれぞれ新たにシリーズに追加された。年数表記のないボトリングが出回っていたこともある。
エドリントン社によるボトリング以外もある。8年モノと30年モノ、そして1962年及び1966年ビンテージがゴードン&マクファイルから。また、ダグラスレインから29年モノ、ダンカン テイラーからはロナックシリーズから39年モノのボトリングがある。
惜しまれながらも蒸溜所が操業停止となり残念な気持ちでいたのだが、2011年にイアンマクロード・ディスティラーズが買収し、2013年5月4日のスペイサイドウイスキーフェスティバルで復活を果たすというニュースが飛び込んできた。再スタートを切るタムデュー蒸溜所の今後に期待を寄せて、春の訪れを待つ事にしよう。
