オーク樽の木目に注目【前半/全2回】
文:イアン・ウィズニウスキ
ウイスキーづくりに関心のある人なら、「ウッド・マネジメント」や「カスク・セレクション」という言葉を耳にしたことがあるだろう。スピリッツを熟成する樽の品質にこだわれば、当然のように樽材の品質も重視することになる。
この「ウッド・マネジメント」や「カスク・セレクション」は、シンプルなビジネス用語のようにも聞こえるかもしれない。だがその内情はとても複雑で、戦略的な意思決定のプロセスに関わってくる。
ウイスキーメーカーは、もれなくこの樽材選定のプロセスに本腰を入れて取り組まなければならない。なぜなら、樽の細部の特徴がモルトウイスキーの熟成に大きく影響を与えるからだ。
ここで問題となる意思決定には、樽の内側に施されたトーストやチャーのレベル、樽のサイズ、新樽でない限りは直前まで貯蔵していた酒の種類(バーボン、シェリー、ワインなど)、そしてオーク材を調達した地域とオークの植物学的な品種といった問題も含まれる。
オークの品種については、アメリカンオークやヨーロピアンオークなど、かなり大雑把な地域的呼称で分類されることも多い。だがさらに細分化されたオークの品種や産地は、熟成への影響を決定づけるほど重大な意味を持っている。
例えば、熟成中に樽がどう作用するのかを決める要因のひとつとして、樽材の木目が挙げられる。いわゆる年輪の目幅が大きい(間隔が広い)樽材を使うのか、年輪の目幅が小さい(間隔が狭い)樽材を使うのかによって、熟成の効果やスピードに違いが生じてくるのだ。
この違いについて語られる機会は意外なほど少ないものの、重要性は決して無視できない。
年輪の幅に差が生じるわけ
オーク材を伐採すると、その木口で年輪が確認できる。春から夏にかけて形成される春材(または早材)は目幅が大きくて白い。夏から秋にかけて形成される夏材(または秋材や晩材)は目幅が狭くて色が濃い。この濃淡が年輪と呼ばれるものだ。春材は淡色で木細胞が大きく粗いため材質も粗く、秋材は木細胞が小さく密度が高いため材質は硬い。
年輪の目幅は、樹木の大きさや春材中の導管(孔)の多さによって異なってくる。年輪の密度によって木目が広め(オープン)であるか、または狭め(クローズド)であるかが判断されるのだ。つまりクローズドなオーク材は、オープンなオーク材よりも年輪の間隔が狭い。
一般的にいうと、木目がオープンなオーク材には太めの導管(孔)がたくさんある。このような木材の導管は、目で見ても確認できるほどだ。一方、木目がクローズドなオーク材は導管自体が細いため、ぱっと見ただけでは孔が見えないことも多い。
よく言われるのは、アメリカ産のオーク材がクローズドで、ヨーロッパ産のオーク材がオープンであるという説明だ。だが実際には、導管の太さや年輪の間隔もオークの品種によって変わってくる。
さらには土壌の状態、日照時間、降雨量などの条件によって樹木の成長のスピードは変わる。つまり同じ品種のオーク材であっても、生育した地域によって導管の太さや木目の間隔に大きな違いが生まれることもあるのだ。
アメリカンオークを例にとってみよう。ジョージア州やアラバマ州などの米国南部で生育した樹木は、高い気温や豊富な降雨量によって成長が早まり、その結果として木目の間隔が広くなる(オープン)。それとは対照的に、北のミシガン州やミネソタ州では気温が低く、降雨量も南部に比べて少ないために成長がゆっくりになるため木目の間隔も狭い(クローズド)。
これはわかりやすい南北の比較であるが、その間にあるオザーク高原やアパラチア山脈などの森林では、同じ地域内でも気候が多様だ。そのため木目がオープンなオーク材もあれば、クローズドなオーク材も伐採される。
樽に使用するのは心材のみ
このような生育地の気候の違いも、木材を特徴づけるさまざまな要因のひとつに過ぎない。気候と同じくらいに大きな影響を与えるのは、樹木の植栽密度だ。同じ森の木々は競争状態にあるため、隣の木々との間隔によって土壌から吸い上げる水や養分の量も違ってくる。
土壌から十分な水分が得られない場合は、樹木の成長もゆっくりになる。だがこの成長のスピードも、樹齢によって異なってくるのだという。ブラウン・フォーマンのウイスキーイノベーション部門でバイスプレジデントとマスターディスティラーを兼任するクリス・モリス氏は、次のように説明する。
「干ばつが数年間も続いたら、若い樹木の成長には大きな悪影響があります。でもすでに大きく成長した樹木には、それほど影響が見られないんです」
樹木が成長するに従って、樹皮の直下には新しい辺材(白太材)が形成されてくる。この辺材部分には、水や養分を運ぶ活性細胞も含まれている。その辺材よりもさらに内側の幹には心材があり、こちらは死んだ細胞で形成されている。
樹木の細胞が死んでいくプログラムの詳細については、いまだ解明されていない部分も多い。また今年の辺材が来年の心材になるかといえばそんな単純な話でもなく、一定の法則も見出されていない。樹齢100年のオークを調べると、20年分の辺材と80年分の心材でできている場合もある。唯一断言できるのは、樹齢を重ねるごとに心材の割合が増していくこと。そして樽材として使用されるのは、心材の部分だけである。
辺材から心材に変わる時、木の導管を閉塞させる填充体のことをチロースと呼ぶ。このチロースが細胞内に充填されることで、心材は水の侵入を防ぎ、養分の流れも閉ざされる。さらには辺材の中にあるリグニンとタンニンの量が大きく増してきて、閉塞された細胞壁に堆積する。これによってさらに木材の中を水や養分が通りにくくなる。
同時にタンニンは小動物が嫌う苦味を発するため、木材を食い荒らす害虫の侵入も防いでくれる。このような心材の働きは、樹木が高い強度を保ちながら長生きするのに不可欠なものだ。そして同時に、ウイスキーメーカーにとっても魅力的な特徴となるのである。
リグニンはバニリンの前駆物質であり、熟成中のウイスキーにバニラやカスタードプリンのような香りを授ける主要な原料となる。またタンニンは、ウイスキーの風味に骨格を与えてくれるといわれている。
(つづく)
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カテゴリ: 風味