スコッチ裏街道【前半/全2回】
スペイサイドやアイラをあえて避け、素晴らしいウイスキーと人々に出会う。スコッチ裏街道の旅に出かけよう。
文:マーク・ジェニングス
スコットランドには、ウイスキーファンに知られた人気のルートがいくつもある。だがそれは公的に定まったものではなく、誰かが簡単に定義できるものでもない。特定の地域や、馴染みのある地名に沿ったルートを設定してみてもいいだろう。同様のルートは、すでに多くのウイスキーファンたちが開拓済みのはずだ。
旅好きのウイスキーファンにとって、スコットランドは訪れる価値にあふれた場所である。国中を縦横無尽に駆け巡り、都市から山へ、港から島へと旅をすれば、きっと夢のような体験になるだろう。スコットランドの風土や人々の気質を知り、周囲の環境にはぐくまれたウイスキーを味わう旅に失望はない。
ウイスキー愛好家にとって、スコットランドには定番の巡礼地が2つある。そのひとつは、名だたる蒸溜所が谷間に沿って連なるスペイサイド。そして、もうひとつは、大西洋の潮気とピートの煙に包まれたアイラ島だ。だが今回は、あえてこの2つの地域を通らないウイスキーの旅をしてみようと思う。名付けて「スコッチ裏街道」だ。
旅の起点はエディンバラにする。地理的に考えても、合理的な選択である。エディンバラの空港は市内の北側に位置しており、車を数分も走らせればフォース海峡をわたる橋に出る。眼前にはフォース湾が広がり、旅の序盤から非日常に飛び込めるだろう。この町から、もっと広大な世界へと進んでいくのだ。旅路はここから内陸へと向かっていく。
グレンシーを経由して、ケアンゴーム山地へと高度を上げる。アルプスのような峰々ではないが、ヒースと岩に覆われた広大な山塊が果てしない地平線へと続いている。これから続く旅のスケールを予感させるような風景だ。
圧倒されるような壮観よりも、むしろその世界に没入していく喜びを感じさせる。スペイサイドをウイスキーの大聖堂に例えるなら、この道は広大な教区の周辺を巡るようなルートなのだ。
ハイランドの風土に溶け込む
遠くからブレーマーの村が近づいてくる。ハイランドの小さな村だが、自信に満ちた静寂が心地よい。村の中心には「ファイフ・アームズ」がある。ヴィクトリア朝時代の宿場町を再現したホテルで、内装やコンセプトが野心的だ。
ここでは数千種類のウイスキーが、産地ではなく味わいで分類されている。膨大な知識よりも無限の好奇心を尊び、地位の比較よりも探求心の発露を促してくれるような場所だ。一日中車を走らせた後、一夜の安らぎを得るのにぴったりの場所でもある。
明くる朝にブレーマーを出発すると、しばらく昨日の道を戻ってからハイランドのパースシャーへと高度を下げていく。西へ少し進むと、デューワーズが所有するアバフェルディ蒸溜所がある。ここも他の蒸溜所とはまた一味違った雰囲気だ。スケール感が大きく開放的でありながら、やはりその土地に根ざした魅力がある。
アバフェルディから、テイ湖(ロッホ·テイ)に沿って進む。このルートは、スコットランドでも特に静かで美しいドライブコースだ。道は水辺に沿って走り、光の当たり方によって湖面の表情も変わる。周囲の丘陵は、穏やかな起伏を繰り返している。
キリン村の中心には、ドチャート川の渓流がある。近くにある「フォールズ・オブ・ドチャート・スモークハウス」は、気軽に立ち寄れるスポットだ。水源のすぐそばで、流れ落ちる滝の音を聞きながらスモークサーモンを味わう。こんなささやかな幸せこそが、ハイランドの旅には欠かせない。
ここから道は再び西へと向きを変え、「レスト・アンド・ビー・サンクフル」という名の峠を登る。日本語にすれば「休憩して感謝する峠」といったところか。軍事道路として建設された時代に由来する名前のようだが、現在もなお相応しい名前であると感じられる。峠道の勾配は緩やかで、カーブを曲がるたびに景色が広がる。やがて道が海岸に向かって下り始めると、旅の雰囲気は再び一変する。
インヴェラレイの町に着く手前で、細い小道がファイン・エールズ・ブルワリーへと続いている。ここに立ち寄る計画がなくとも、抗いがたい魅力に引き寄せられてしまうようなビール工場だ。
インヴェラレイの町は、ファイン湖のほとりに白い建物が静かに並んでいる。ジョージ・ホテルは、こんな旅の宿泊に最適な施設である。バーにはたくさんのボトルが並び、静かな夜をウイスキーと共に過ごす環境も申し分ない。
(つづく)





