ハイランドの大地を駆け抜け、キャンベルタウンからアラン島へ。ウイスキーファンなら、大満足できる旅路がここにある。

文:マーク・ジェニングス

夜が明けて、新しい一日が始まる。今日はキンタイア半島へと向かう日だ。道路は海岸線に沿って走り、携帯電話の電波が届かなくなる。車の往来がまばらになって、1マイル進むごとに「地の果てにやってきた」という実感が強まってくる。

ウイスキーファンには名高いキャンベルタウンだが、旅人に媚びを売るような観光地ではない。道を行けば、ただそこに現れるのがキャンベルタウンという町だ。

かつては「世界のウイスキーの都」と呼ばれ、30軒以上の蒸溜所が軒を連ねていたが、今日まで残っているのはほんの一握りだ。往時の規模はもう見られないが、その個性はしっかりと生き残っている。

素晴らしい宿「ザ・ホール」にチェックインしたときから、キャンベルタウンの魅力がひしひしと感じられる。広々とした客室、細部にまで配慮されたデザイン。そこには静かな気配りが満ち溢れている。旅人に必要なものを、この宿はすべて完璧に理解しているようだ。

ここから通りをほんの少しだけ下った場所に、グレンスコシア蒸溜所がある。蒸溜所の扉は通りに面して開かれており、温かい空気が町へ漂い出ている。人通りに面した設計に、深い意味が感じられる。もったいぶった演出はない。キャンベルタウンという町の一部に、ウイスキーの魔法が織り込まれているのだ。

スプリングバンク蒸溜所を訪問するまで、ちょっと時間が空いている。その時間を埋めるのに、ちょうどいいバーが「キルブラナン」だ。もちろんランチが主目的なのだが、その目的を忘れてしまうほどに素晴らしい雰囲気である。早い時間帯から地元の人々が集まり、日常の会話が軽やかに響き渡る。

そんな市民生活の中心にあるのが、他でもないスプリングバンク蒸溜所だ。製造工程のすべてが敷地内でおこなわれる蒸溜所は、スコットランド全土を探しても数少ない。

スプリングバンク蒸溜所から外に出ると、再び町の景色が視界に入ってくる。通りには変わらぬ雰囲気が漂い、港の空気やキャンベルタウンらしい独自のリズムを感じる。この日の終着地は、賑やかなパブ「ブラック·シープ」だ。

ここで終わってもおかしくないほど、旅は充実のピークに達している。だがスコッチ裏街道の旅は、まだまだ続く。

アラン島で2つの対象的な蒸溜所へ

クラオネイグの手前で道を折り返すと港がある。小さなフェリーが、本土とアラン島を結んでいるのだ。車、歩行者、自転車など思い思いの方法でみんなが港に集まり、到着地の港で散っていく。フェリーの乗船時間は短いものの、旅の視点を変えるには十分な時間でもある。

アラン島は、「スコットランドのミニチュア版」であるという。実際に訪ねてみると、その言葉は本当だった。島の北部では険峻な山々が聳え立ち、南へ車を走らせるほどに山容は穏やかになっていく。それでも常に海が旅路のそばにあり、視界から遠ざかることはない。

ロックランザ蒸溜所(旧アラン蒸溜所)は、北部の山岳地帯の麓にある。その景観は、絵画のように周囲の自然と美しく調和している。そこから南へ進めば、ラグ蒸溜所にたどり着く。ここではロックランザとは異なるピート香の強いウイスキーをつくっている。

この2つの蒸溜所は、継続と変化の両方を体現していると言ってもいいだろう。過去の伝統を守りながら、未来へと進化する意欲を併せ持っているのだ。アラン島に渡ったら、どちらも欠かせない訪問先となる。

穏やかな南部と険しい北部。アラン島を旅するだけで、ハイランドの風土を体験できる。

旅路は、アラン島の主要な港町であるブロディックへと続いていく。ゆっくりと訪れる夕暮れを海辺で楽しむのがいいだろう。クライド湾を行き交うフェリー。町の背後で闇に溶けていく山々。そしてここには、ダグラス・ホテルがある。旅を締めくくるのに、これほど相応しいホテルもないだろう。

ブロディックの町には、港町らしいゆったりとしたリズムが流れている。ホテルから少し歩けば、島の社交場が見えてくる。ハイカー、旅行者、地元の人々が集まるパブ「ザ·フォールン·ゴート」だ。テーブルを囲むグループによって、その雰囲気もさまざまだ。

そこから遠くない「オーミデール」は、もっと伝統的な雰囲気のパブである。醸し出しています。ここでは隣の人と自然に会話が始まり、美味しいウイスキーが夜の楽しさを彩る。すべての出来事が、自然であたたかい。

エディンバラから始まった旅も、ここで振り返れば素晴らしい全貌が明らかになってくる。それは単なるチェックリストをこなす旅ではないし、有名なトレッキングコースが含まれているわけでもない。有名な観光地を巡るだけの旅とは異なるのだ。

立ち寄った町や場所が、それぞれに異なった物語で旅人の体験を形作ってくれる。ウイスキー蒸溜所はもちろん、道、部屋、会話など、言葉では簡単に言い表せないような細部が宝物なのだ。

スコットランドのウイスキーは、産地や製造の物語という枠組みだけで語られることも少なくない。だが点と点を線でつなげば、もっと広い視野を与えてくれるルートができる。

ウイスキーがつくられる場所は、もちろん重要だ。しかしそれだけでなく、出会いのプロセスによっても体験の質が変わってくる。そして予想通りの道筋をたどらないことが、限りない旅の魔法に出会う秘訣なのだ。