市場の低迷期を乗り越える戦略【第2回/全3回】
キングスバーンズやトラベイグに見られる柔軟な経営方針は、ベン・オジャーズ(スピリッツ・ソーサリーの創業者兼CEO)が新進の蒸溜所に提唱しているアドバイスとも合致している。オジャーズは、ブランドの透明性を高めることが、消費者の忠誠心を築いてくれると信じている。ウイスキー愛好家はかつてないほど見識が深まり、支持するブランドに透明性と本物志向を求めている。だからこそ、生産者は製造方法、産地、サステナブルな取り組みの実態を広く伝えるべきだとオジャーズは訴えている。
「市場には、無数の商品が溢れています。場合によっては、ボトルの中身を正確に伝えていないブランドだってあります。そうなると、消費者は商品の内容物よりもマーケティングの代金を払っているような状況になりかねません」
そのウイスキーがいかに希少なもので、特別な個性を宿しているのか。それを正直に伝えることが、ウイスキー愛好家だけでなく、小売店のスタッフも味方につける方法なのだ。オジャーズいわく、小売店の店員はみな「ミニ大使」のような存在だ。ブランドに直接雇われているわけではないが、ブランドを代表して顧客の前に立てる唯一の人物になることが多いからである。
「だからこそ、そういうショップの店員さんたちに取り扱ってもらう努力が必要なんです。店員さんたちがなるべく簡単に商品を販売できるように、あらゆる手段を提供することが重要です」
だがそんなアドバイスも、ロッホリー蒸溜所にはあまり必要ないようだ。営業担当役員を務めるデービッド・ファーガソンは、ロッホリーの哲学を「やりすぎなくらいオープン」と表現している。
ロッホリー蒸溜所は、スコットランドでも数少ない農場蒸溜所のひとつである。そして製造工程のすべてを、良いことも悪いことも含め、残さず公表したいと考えている。たとえばトラクターが故障したり、穀物の収穫量が期待を下回ったりといった状況さえも、ファーガソンは公表するのにまったく抵抗がないのだ。
「私たちに起こったことを、そのまま伝えるだけです。ウイスキーファンのみなさんは、作り込まれたブランドストーリーの一部として蒸溜所のニュースを聞かされるより、脚色されていない端的な事実として知らされるのを好みます」
そういう正直なキャラが、一種の信頼関係を築いてくれるのだとファーガソンは言う。ロッホリー蒸溜所にはビジターセンターこそないが、ファンが現場を訪れた際にはどこでも見学できる。
「立ち入り禁止のエリアも一切設けていません。ちょっと不都合な事実があったとしても、隠したり、内緒にしたりするようなことはありません。すべての事実が、ブランドの一部だからです」
ありのままを見せることで共感を集める
ポート・オブ・リース蒸溜所にとっても、透明性を保つことは優先的な課題となっている。まだ販売できるウイスキーがない現在の状況では、ファンに試飲してもらえない。そんな時期から、ブランドに大きな期待を抱いてもらうのは難しいものだ。
共同創業者のイアン・スターリングは、ウイスキーファンを混乱させることなく、ポート・オブ・リースとそのウイスキーの本質を説明しようと試みている。そうやって自然な歩みを進めながら、熟成年数を表示したウイスキーを発売したいという思いからだ。
「それを実現する最善の方法が、可能なかぎり透明性を高めることなのです。華やかなブランディングのイメージで事実をごまかし、誰かを騙すようなことはしたくありませんから」
たとえ熟成期間が短めのモルトウイスキーであっても、その熟成年数、製造方法、原料などの情報をすべてオープンにすることで、人々がポート・オブ・リースの旅に引き込まれるとスターリングは信じている。これはまさにトラベイグが、ウイスキー生産を始める前から実践してきたことでもあるのだという。
トラベイグの親会社であるモスバーン・ディスティラーズは、独立系ボトラーとしての商品も展開している。モスバーンの初期のブレンデッドモルトには、ラベルに原酒の配合表が樽ごとに詳しく記載されていた。ブランドアドボカシー責任者を務めるブルース・ペリーは語る。
「私たちの声に耳を傾けてくれる全世界の人々に、徹底した透明性を示すという決意を表明したかったんです。ときには隠しておいたほうがいいことがある? そんなことは考えられない。伝えない理由など何ひとつないと信じていました」
トラベイグは、その約束を果たしてきた。初期にリリースされた全商品のラベルに、通常なら公開されないような詳細情報も記載されている。麦芽大麦のピートレベルを公開するのは珍しくないが、トラベイグは蒸溜後の残留フェノール量、大麦品種、酵母品種まで明記している。さらには熟成前のニューメイクをはじめ、各工程におけるフェノール化合物(クレゾール、グアイアコール、フェノール類)の正確な内訳までも公開しているのだ。
ペリーは、それがブランドの哲学なのだと語る。
「トラベイグの真のアイデンティティは透明性です。このアイデンティティは、スカイ島で約2世紀ぶりに誕生した蒸溜所であるという背景からも必然的に形成されました。ウイスキーの出自を語ることに、無理やりなこじつけは必要ありません」
発売当初に、ウイスキー市場が激戦だったのは確かだとペリーは言う。
「それでもスカイ島産のウイスキー同士で、パイを奪い合っていたわけではないのです。とにかく私たちの出自についてまっすぐに語ることが、アイデンティティの表明になりました」
(つづく)







