市場の低迷期を乗り越える戦略【第3回/全3回】
文:ティス・クラバースティン
ポート・オブ・リースは、都市型の蒸溜所とあって多くの来場者を集めている。しかも2024年にはウイスキー蒸溜所のビジター集客数でトップクラスとなり、新進のシングルモルト蒸溜所としては驚異的な実績を上げた。

エディンバラの港湾地域で、限られた敷地面積を活用するポート・オブ・リース蒸溜所。必然的に設備を何階層にも積み重ねた珍しいスタイルの生産拠点となる。メイン写真も朝靄の港に聳えるポート・オブ・リース蒸溜所。
そもそもポート・オブ・リース蒸溜所は、建設用地の選定でかなりの苦労を強いられた、しかし限られた敷地面積も、結果的には幸運をもたらしている。それは用地があまりにも狭かったので、スコットランドで唯一の垂直型蒸溜所という選択肢に行き着かざるを得なかったからなのだとスターリングは言う。
「私たちの蒸溜所の立地と建物の構造そのものが、ブランド認知度を高めるために計算し尽くされていたかのようなデザインに見えます。人里から遠く離れた田舎にポツンと蒸溜所を建てるより、ずっと有利な形でウイスキー製造を始められたと思っています」
都市型のポート・オブ・リースとは対照的に、田園地帯の真ん中に位置するのがロッホリー蒸溜所だ。だがその立地ゆえに、強力なアイデンティティを確立している。
ロッホリーは、ウイスキー製造の全工程を単一の敷地内で完結させる「シングルエステート」の蒸溜所に分類される。この得意性は、ウイスキー市場が厳しい状況にあってもロッホリーに独自の優位性をもたらしているのだと営業担当役員のデービッド・ファーガソンが語る。
「彗星のように現れて、ブランドを作って、ウイスキーを売り込もうとしているブランドではありません」
ロッホリーの精神や哲学は、伝えやすい性質の物語であるとファーガソンは信じている。飲料業界における新進ブランドとロッホリーの違いは、「クールなストーリー」の作為性にあるのだという。
「ほとんどのウイスキーブランドは、クールなストーリーを持っています。でもそのほとんどが、作り上げられた架空の物語です。それはそれでまったく問題ありませんが、ロッホリーのストーリーは違います。私たちが何をしているかをただ伝えるだけのこと。だから宣伝の仕事はとても簡単です。何も飾り立てる必要などありませんから」
伝統への回帰も未来への道
キングスバーンズとウィームス家にとっても、そのようなストーリーの脚色はまったく必要なかった。なぜならローランドという立地を心から受け入れてきたからだ。
現在のローランドは、スコットランドで最も活気のあるウイスキー生産地域のひとつとなっている。それでもキングスバーンズ蒸溜所が最初に建設を計画しはじめた当時は、必ずしも現在のように楽観的な状況は想定されていなかった。
だが長年にわたる家族の絆を考えても、ウィームス家がローランドに蒸溜所を建設する機会は逸するわけにいかなかった。ファイフにあるウィームス城は、12世紀以来ウィームス氏族の長(クラン)が居城としてきた場所だ。
蒸溜所の生産責任者を務めるイザベラ・ウィームスが言う。
「私たちは古いスコットランドの家系です。しかもファイフ出身の氏族なので、一族のルーツと蒸溜所の建設地には忠実でありたかったのです」
現在のウイスキー業界で、 率直なローランドスタイルのウイスキーを生産する蒸溜所は多くない。当のローランド地域にある蒸溜所でさえ、現代人の嗜好の変化を意識してさまざまな変更を加えている。ウィームス家の人々は、伝統に追随することをリスクと見なさなかった。むしろ伝統の古さこそが、キングスバーンズのアイデンティティの一部となったのだとイザベラ・ウィームスは説明する。
「キングスバーンズのアイデンティティとは、ルーツに忠実であり続けること。私たちにとって、それは自然な決断でした」
このように土地や伝統に根ざした感覚こそが、新世代のスコッチウイスキー蒸溜所に見られる特徴だともいえる。だからこそ変動する市場環境に直面しても、急速な成長に固執して慌てたりする場面が少ない。逆境に負けないレジリエンスこそが大切だと理解しているのだ。
それぞれに手法は異なるが、スコットランドの新進蒸溜所たちには共通点がある。それは透明性を重んじ、野心を慎み、強固なアイデンティティを保とうという姿勢だ。これは誇大な宣伝と過剰な販路拡大の限界を露呈したウイスキー市場の現実をふまえ、あくまで現実的な対応に徹している態度とも見てとれる。
スコッチ業界全体が再編期に入るなかで、新しい小規模な生産者たちはサステナブルな成功のモデルを示している。彼らにとって生き残ることは、一時の嵐を耐え忍ことではない。これからどんな状況が訪れても、うまく対処していく術を学ぶことなのだ。






