崇高な蒸溜所 バルヴェニー【前半/全2回】
バルヴェニーのVIPツアーは間違いなくスコットランド最良のものである。魅惑のレポートをお届けしよう。
もしグレンフィディックとバルヴェニー蒸溜所がミュージシャンなら、喩えられるのはリアムとノエルのギャラガー兄弟だろう。
明らかに同じ家族の一員なのに、それぞれの個性がある。グレンフィディックは自惚れた目立ちたがり屋で、バンドの表の顔として露出し、世界で膨大な売上を誇り、スポットライトの中でファンの前にその姿を晒すことに無上の喜びを感じる奴だ。
一方、バルヴェニーは崇高な兄弟だ。物静かで、目立たず、一般にそれほど有名というわけでもない。しかし真に純粋な熱狂者達からは大いなる敬意を集める。リアムは目立つし、うまくやっている。そしていくつかの真に素晴らしい作品も見せてくれるが、音楽愛好家たちにとって一貫性と品質を保ってくれているのは実はノエルの方なのである。
2者の間の対比は厳然として存在してきたが、とりわけ世界中のウイスキー熱狂者の一群がグレンフィディックの最新リリースに関心を寄せる。
バルヴェニー蒸溜所はグレンフィディックと同じ場所にある。ウイスキー界の注目を横目に見ながら、控えめに佇んでいるようだ。静かでもあるが、これは好都合である。なぜなら我々がすべてを独占できるからだ。これはたとえばノエル・ギャラガーと4時間にわたって1対1のインタビューに参加させてもらえるようなものだろう。しかもこの「ノエル」は何でも喜んで話してくれようとしているのだ。
ここで、この4時間がどういう内容になるのか、事前には全く予想できなかったということを告白しておきたい。蒸溜所で足を棒にしてどれだけ歩きまわることができるだろうか。
しかしそうした心配をする必要は全くなかった。親会社であるウィリアム・グラント&サンズはこのVIPツアーの内容を熟知していて、私はガイドの存在を考慮していなかったのである。
ヒュー・トンプソンはウイスキー業界で40年以上の経験をもつ。
1968年にシーバスブラザースでキャリアを開始した。以来スペイサイド地方の蒸溜所で働き管理を行ってきたのである。関わった蒸溜所はグレン・キース、ロングモーン、グレン・グラント、キャパドニック、など。そしてオルタベーンが1970年代に設立されたときにも関わった。彼の会社は見るべき価値があるものばかりである。現在は引退し、いまや知識豊富なガイドのひとりである。誇り高く、内容が濃く、そして整然とした、スコットランドのどこよりも優れたツアーをここでは経験することができる。
さて、今はツアーの基点に使われる古い醸造オフィスの中で簡単な導入説明が行われ1、2杯のバルヴェニーが振る舞われた。トンプソンはピートの水や、ストラスアイラでグレンドロナックからのモルトを用いて行われたヘビー・ピーテッドウイスキーづくりの実験など、本格的なツアーを始める前に、ウイスキー世界への窓を開く話をしてくれた。
しかし、それらはすべて後で役立つものだった。我々のツアーは古い蒸溜所マネージャーのオフィスから始まった。ここはVIPツアーのテイスティングルームであるが、雰囲気を盛り上げる役を十分に発揮している。その60年代の意匠は、美しく細工された小物たちと相俟って、最新鋭のグレンフィディック蒸溜所と労働集約型で伝統的な操業を続けるバルヴェニー蒸溜所との間に横たわる1,000万リットルの違いを際立たせている。