崇高な蒸溜所 バルヴェニー【後半/全2回】

March 28, 2013


前半ではバルヴェニー蒸溜所が小規模だというイメージを持たれたかもしれない。だが、隣接するグレンフィディックによりそう感じられるだけで、実際の規模は大きい。そして、この蒸溜所が提供するVIPツアーの内容は我々の期待を大きく超えて、深かった。

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前半ではグレンフィディックとの比較を多々取り上げたのだが、話を続ける前に事情を少し説明する必要があるだろう。バルヴェニーは決して「小物」ではない。実際には年間の生産量は500万リットルを超えるのだ。これはトップ10か、それに準ずる規模である。

とはいえ、ここでその巨大さを感じることはない。その操業方法によってここは農家の小屋の様な蒸溜所の雰囲気を保つことに成功しているのである。

少なくともその一部は、最初に見学する伝統的なフロアモルティングであることによる効果だろう。最近ではスコットランドでも見ることが珍しくなってしまった場面であり、それが実際にまだ使われていることを見られるのはさらに珍しいのだ
さすがにもうモルトは手作業では撹拌されていない。ここで働くことは体力の要る厳しい仕事である。しかし今日は技術的な問題が発生し、修理が行われているようだ。こうしたことは、この場所に対する楽しい乱雑さと緩い感覚をもたらしてくれる。

モルティングの完全な処理がここで行われる。麦を浸漬するところから、発芽させそして乾燥をさせるまでが行われる。

ピートは乾燥プロセスの最初の12時間に用いられる。このモルティングエリアは故ウィリアム・グラントの、最高のウイスキーだけをという遺言に応えるものであり、その遺志はこの場所で働く樽職人たちにも受け継がれている

我々は空の樽が積み上げられた沢山の棚にそって移動した。その沈鬱な存在に満ちた背景は、まるでSF映画の撮影セットの中に紛れ込んだような気にさせてくれる。

樽作りはこの静寂とは対照的だ。職人が働くときにはけたたましく叩く音や砕ける音で室内が満たされる。

この場所には、完成した樽やその一部がごろごろ転がっている。状態も様々で、いくつかはこれから修理を受けるものである一方、他の一群は利用の準備が整っているものであったりする。好ましい木の焦げる匂いがただようが、これはチャーリングの結果である。炎に晒されてまだ煙のくすぶっている樽もある。

これよりも、さらに伝統的で昔ながらの手法をとっている蒸溜所も他にいくらか見ることはできるが、こうしたやりかたは歴史に対して敬意を示すための慈善事業ではない。近年世界的な樽不足により、樽の購入コストが危険なほど急上昇しているのである。ウィリアム・グラントの投資は健全なものであったことがここでは証明された格好である。

蒸溜所ツアーの常として、最も良いものは最後にとってある。全ての蒸溜所の熟成庫は特別なものだが、ここのものはとりわけ印象的なものである。

様々なカスク達があるのは、始まりに過ぎない。たくさんのバルヴェニーの種類を一瞥すると、核となる特徴がそれらに巧妙に現れている。一方で、モルトマスターであるデービッド・ステュアートの屈指のスキルに対する賞賛の気持ちを抱くことになる。

また、ここには様々なカスクによる大いなる多様性が存在している。バーボンとシェリーカスクが異なるニュアンス表現の必要に応じて使われている。

我々は新旧のカスクのノージングをした。いくつかはトンプソンが業界に入る以前にまで遡るものだ。また他のいくつかはもっと若いものだ。それらは例外なくフルーティなフレーバーを持ち、またみな極めて美味しそうなものばかりだった。

是非とも希望すべきなのが、異なるカスクからサンプルを取り出し、そして自分のボトルに詰めることができるオプション(有料)である。私はバーボンカスクを選択したが、示された3つのサンプルからひとつを選べるのは至高の喜びだ。

ツアーはここで終了させることもできたが、我々はテイスティングのために最初のマネージャーの部屋に戻った。

バルヴェニーのVIPツアーは全てのレンジのテイスティングを行うことができる時間があっという間に過ぎていく。実際我々が4時間を費やし、空港への出発時間が迫っていることに気がついたときには驚いた。

バルヴェニーのVIPツアーは安くはない。他の蒸溜所では無料で案内してくれる場合もあることを思えば尚更である。

しかし、これは疑いようもなくその価格に見合う価値のあるものであり、他にはアベラワーとマッカランだけが深さと経験という点で比肩し得るものだ。

掛けられた期待の重さに、単に応えることのできない蒸溜所も存在するが、バルヴェニーは望みうるもの全てを持ち合わせた上に、それ以上ものも与えてくれるものなのだ。

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