蒸溜所ツーリング【2日目/全7日】
バイクでツーリングしながらスコットランドの蒸溜所を巡り、ブレンデッドウイスキーを完成させる「ジャーニーブレンド」が本格的に始動する。
ウイスキーマガジンのロブ・アランソン(RA)とカメラマンのケン・ハミルトン(KH)が蒸溜所を巡る。二人の手記を紹介しよう。
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6月3日
フォートローズからカークウォール
150マイル
RA:ジムや興味を惹かれて話しかけてくる人たちと、バイクの写真を撮ってから我々はフォートローズを出発した。
ウィック北部の見通しの悪い道を抜け、サーソーに着いたのはフェリーの出航にちょうど良い時間だった。右へ左へのきついカーブ、上下するS字カーブそしていくつかの急勾配は、我々にはキツかった。非常避難レーンを使って少しばかりの休息をとろうかとも思ったのだが、それは避けた方が良いと考え直した。
遂にジョン・オグローツを過ぎ、スクラブスターからメインランドを離れる準備にかかった。この一帯は地図上で「危険地帯」と記されている場所である。ほぼ英国本島の端から端までを走り切ったことになる。ここまでは順調にやってきた。
オークニーに向かう途上でのケンの船酔い懸念にも関わらず、ノースリンクのMVハムナブー号の航海はとてもスムーズで、海はまるでガラスのようだった。全ての計画がうまくいきつつある興奮を感じていた。ストロムネス港に入るときには、この気持ちはますます膨らんでいた。
ストロムネスからカークウォールへの一走りは我々に最も古いスコットランドの姿を見せてくれる。子供の頃から読んできたストーン・サークルなど、風景は年代をまとっている。
しかし今夜は立ち止まる暇がない。時間が押しているし、ハイランド パークのジェリー・トッシュが出迎えの手筈を整えているのだ。
幸いなことに蒸溜所を見つけるのは簡単だった。屋根の上にパゴダが張り出している。我々はハイランド パークの文字を表した鉄のゲートを駆け抜け、中庭に入った。さあいよいよだ。1番目の蒸溜所、我々のブレンドのパート1である。
とりあえずのビールのあと、すばやく蒸溜所内を見学して、シングルモルトTVのスタッフのドレイパー兄弟(ロブとポール)に会った。彼等はこのツアーを撮影することになっているのだ。ジェリーは我々が選ぶべきサンプルを4つ並べた。これがこの日の一番大事な部分である。
ひとつは素早く退けられた。硫黄臭が強くほとんど無色のものである。もうひとつはリッチで深い色だったが、なにがしかの喜ばしくない香りがあったため取り除くことにした。実はこれらは熟成の繊細な部分を示すために、ラムゼイ氏によってわざと用意されたものだった。
そしてふたつが残されたが、正直なところこのふたつを明確に区別するものはそれほど多くはなかった。どちらも蜂蜜とヘザーの香りを持つが、一方が微かにより強いバニラ香を持っていたため、我々はこちらを選ぶことにした。しっかりと包んで、荷物入れの底に大事に大事にしまい込んだ。決して途中で盗み飲みしないと誓いながらだ。
近くのリンフィールド・ホテルにビールとベッドと食事が用意されていたので、バイクの運転を心配をする必要はなかった。
KH:8時に起きてシャワーを浴びた。ベッドにあるもうひとつの枕の上にはチョコミントが乗っていた。首に貼り付いていたのが溶けたようだ…。美味しいものだったのは確かだ。
昨日はロブの父親が用意してくれたパイとケーキのためにタインに立ち寄った。人々は立ち止まってはバイクを指差していた。特にエンフィールドを。こいつはとても見栄えするバイクで、音も良い。手を振って返したいが、ハンドルから手を離す気にはなれない。
ルートA9のベリエデール斜面は、エンフィールドの真の能力を引き出した。斜面の頂上で(20%という標識が出ている)エンジンブレーキをかけながら下り始めたが、景色が洋梨のように歪む。急勾配の上に不規則な出っ張りがあるヘアピンの連続に、ギアとブレーキの限界を気に留めず、バイクで慎重に進んだ。最後には這うほどに速度を落とし、メリー・ポピンズのように大回りで走ったが、救急車に乗り換えるよりはマシだろう。
フェリーは静かに進む。安心した。「ドリス(ナビ)は不要だ! 道なら知っているからな」と、フェリーの上でオークニーに関する知識を散々自慢したせいで、それが正しいようにと願いながらカークウォールまでの不安な30分を過ごすことになった。幸い、我が自慢の脆弱な正体は馬脚を表さず、我々は道に迷う事無く進む事が出来た。
ハイランド パークに到着したのは21時半頃だった。これで私が参加した蒸溜所ツアーの数は2倍になった。以前参加したツアーもハイランド パーク蒸溜所だったが。
ジェリーはスピリッツがスティルの銅と相互作用すると話してくれたが、具体的にどのように相互作用するかは説明できなかった「ジョン・ラムゼイに訊いてくれ。彼なら知っているから」というのが答えだった。
異なる樽からとり出されたウイスキーのそれぞれの違いには驚かされた。ロブとジェリーの説明する香りは必ずしも分からなかったが、確かに違いは分かった。ロブとジェリーは私が自分を無能な人間だと感じさせないように努力してくれて、私の意見を真剣に聞いてくれた。選ばれるべきサンプルに関して皆の意見が一致したことはとても嬉しかった。