ウイスキーの「口当たり」ってなに?
とげとげしい口当たり。滑らかなテクスチャー。ウイスキーごとに異なる口内感覚は、どのようにして生まれるのだろう。(文:イアン・ウイズニウスキ)
モルトウイスキーのテクスチャーは、シルキーでビロードのような軽いタイプから、クリーミーで舌にまとわりつくような重いタイプまでさまざまだ。口当たりの特徴を決める重大要素は、まずアルコールと水。さらにいくつかのフレーバー成分も関与し、それぞれの因子がわずかに変化するだけで大きな影響を及ぼす。
アルコール度数40%で瓶詰めされたモルトウイスキーは、もちろん40%がアルコールであり、残りの60%はほぼ水分。この「アルコール:水」の比率は重要だ。アルコールにはトゲトゲしくドライな感触があり、水にはクールダウンして潤いを与えるはたらきがある。この異質な2種類の液体が融合することで、大まかなテクスチャーが決まってくる。
しかしながら、水とアルコールが口当たりを決める最大の要因だとは言い切れない。グレンモーレンジィの蒸溜最高責任者、ビル・ラムズデンは語る。「同じ度数のウイスキーを比べてもこれほど多様なテクスチャーが存在するのは、タンニンなどのフレーバー成分が原因。これらの成分は微量でも非常に大きな影響力を持っています」。
タンニンの恩恵と限界
タンニンは熟成中に樽から引き出されるが、どれくらい引き出されるかは、樽のタイプによって異なる。シェリー樽の材料となるヨーロピアンオークは、バーボン樽の材料となるアメリカンオークの数倍のタンニンを含んでいる。タンニンは熟成直後の数年で多く引き出され、その後はかなり緩慢になる。つまり熟成年に比例してタンニンのレベルが上がるわけでもない。
ウイリアム・グラント&サンズのマスターブレンダー、ブライアン・キンズマンはこう説明する。「タンニンはビロードのように舌を包み込み、同時にドライな口当たりをもたらします。このドライさは厳密な意味でテクスチャーとは呼べないものの、口内を覆う残留物のように留まる後味となるので、口当たりの一要素と考えてもいいでしょう」。
タンニンの恩恵は、引き出される量にもよるというのがビル・ラムズデンの意見である。「適量のタンニンは口当たりをくっきりさせてバランスを整えますが、その程度にもはっきりと転換点があります。タンニンが多すぎると焦げたような熟成香が生まれ、渋味や苦味の原因にもなります」。
クリーミーなバニリン、シルキーなエステル
クリーミーなテクスチャーを含むバニリンもまた、口当たりに影響を与えるフレーバー成分のひとつ。このバニラ風味は、他のフレーバーを豊かで丸みのあるものに感じさせ、結果的に口当たりに影響を与える。ちょうど料理の味を整えてピントを合わせる塩のような役割だ。樽から抽出されるバニリンの量は最初の数年が顕著に多く、その後は目に見えて鈍化する。
リンゴや洋ナシのような風味のエステルも、テクスチャーを作る一因だ。発酵の期間中に大部分が形成され、蒸溜中と熟成中に少量が加わる。このエステルは、分子構造の複雑さから短鎖、中鎖、長鎖に分けられ、特に長鎖エステルは微量でも口内をコーティングし、オイリーで、シルキーで、リッチな感覚を生み出すという。
ブライアン・キンズマンいわく、ウイスキーの粘度を数値で示すことはできない。テクスチャーだけを、アロマやフレーバーから完全に分けて感知することも不可能である。技術が進歩しても、テクスチャーを最も繊細に感知できるのは人間の知覚。それ以上に正確な基準は、まだ発見されていないのである。