ウイスキーの風味に深みを加えてくれるタンニン成分は、度を過ぎると欠点にもなりうる。イアン・ウィズニウスキが味わいへの影響を徹底検証。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

タンニンは、とても皮肉な存在だ。存在感を増すほど舌で確認しやすくなるが、はっきりと感知できるようなタンニンはおおむねウイスキーに好影響を与えていない。明確に存在を主張しなくとも、タンニンはたくさんの重要な働きをしている。だがタンニンの量が多すぎると渋みが増して、ウイスキーをドライすぎる風味にしてしまうのである。

加えていうなら、タンニンがもたらすポジティブな影響は、タンニンそのものの感触には現れない。むしろ風味の構造を強化したり、モルトウイスキーの骨格を支えたりといった全体的な意味合いで貢献することが多いからだ。つまりタンニンの存在を感知するより、味わいへの寄与を総体的に評価すべきものなのである。

タンニン成分は、ウイスキーの貯蔵中に樽材から引き出される。その分量の度合いはオーク材の伐採地によって異なり、また貯蔵する年数が長いほど多くのタンニン成分がスピリッツに加わる。ヨーロピアンオークがウイスキーに授けるタンニンの量は、時にアメリカンオークの数倍にも及ぶ。樽の種類は大きく2種類あるが、バーボンバレルはアメリカンオークで、シェリー樽はアメリカンオークかヨーロピアンオークのいずれかである。

樽の来歴によってもタンニンの量は変わってくる。来歴とは、つまりスコットランドで樽詰めされる以前にシーズニングしたアルコール飲料の種類や期間のこと。ケンタッキーでバーボンバレルに入れられるのはアルコール度数62.5%くらいまでのスピリッツだ。度数の高いスピリッツは、度数15%程度のシェリーに比べて樽材から引き出すタンニンの量が多い。

以上を総合すると、シェリー樽の方に多くのタンニンが残存することになるため、ヨーロピアンオークで熟成したモルトウイスキーは一般的にアメリカンオークで熟成したモルトウイスキーよりもタンニンの含有率が高い。

 

甘味とのバランスが命

 

オークの種類やシーズニング工程の違いに関わらず、モルトウイスキーの熟成でもっともタンニンが引き出されるのは最初の3年間である。その後は引き出されるタンニンの量が大幅に減少する。

タンニンの主要な特徵であるドライな感触は、甘味とコントラストをなして全体のバランスに寄与する。風味のスペクトラムで対局に位置する甘味とタンニンが拮抗することで、味わいの骨組みや構造がしっかりまとまるのだ。ロッホローモンドグループでマスターブレンダーを務めるマイケル・ヘンリー氏が説明する。

「モルトウイスキーは、最初の印象からフィニッシュに至るまで風味が変化します。この変化全体のことをウイスキーの構造と呼んでいるのですが、構造の基盤を作ってくれるのがタンニンです。タンニンのドライな感触は、舌の上でウイスキーの風味が変化していく様子を強調してくれます。ドライな味わいと他のフレーバーによる相互作用も重要なポイントになります」

ドライなタンニンが、バニラのような甘味とよく対比される。そしてドライな味わいは、熟れた果実のような風味も強調してくれるのである。

相互作用を考えるにあたって、重要なのはフィルの種類だ。フィルとは、樽がこれまでモルトウイスキーの熟成に使用された回数を示す用語。初めてモルトウイスキーの熟成に使用されるファーストフィルは、セカンドフィルよりもタンニンの含有率が高く、サードフィルと比べれば差は歴然だ。これは樽が使用される度に、タンニンの含有率を含む樽材の影響力が減少していくからである。

ただしこの減少率も各フィルの貯蔵期間によって異なるため、樽ごとに大きな差が生まれてくる。そしてタンニンの含有量だけでなく、樽がウイスキーに授ける成分全体としての影響力を検証しなければならない。マイケル・ヘンリー氏が語る。

「ファーストフィルのバーボンバレルは、豊富な甘味とバニラ香でタンニンの存在を覆い隠しています。一方、セカンドフィルやサードフィルのバレルではバニラ香や甘味が減退しているため、タンニンがむしろ知覚されやすくなるのです」

 

ファーストフィルのシェリーバットは12年が限界

 

フィルの回数にもよるが、シェリー樽熟成の際には慎重なモニタリングが必要だ。特に原酒がティーンエイジャー(13年)に近づいた樽は気を使う。インバーハウスでマスターブレンダーを務めるスチュアート・ハーヴェイ氏が説明する。

「スパニッシュオーク材で作ったシェリーバット(容量500L)は、ファーストフィルなら約12年が熟成期間の上限だと考えられています。それ以上ウイスキーを熟成すると、口をすぼめるような味が強まり、ドライな感触が度を越して、タンニンの影響が他の風味を支配してしまうからです。このようなスタイルのウイスキーは『シェリー爆弾』などと呼ばれて一部の人に愛好されていますが、それ以外の層には大雑把でドライすぎる味として受け止められます。モルトウイスキーを20〜30年熟成したいなら、最初からセカンドフィルやサードフィルのシェリーバットを使ったほうがいいでしょう」

モルトウイスキーの風味構成を語るとき、それぞれの風味が舌の上でどのように感じられるのかも重要な問題になる。要するに「口当たり」だ。グレンモーレンジィ蒸溜所長のアンディ・マクドナルド氏が語る。

「タンニンは、グレンモーレンジィらしくビロードのように豊かなテクスチャーを加えてくれます。さらに液体の粘度を強調するはたらきもあるので、常にシロップのような舌触りが表現できるのです」

この口当たりの問題については、スチュアート・ハーヴェイ氏にも一家言ある。

「モルトウイスキーの口当たりは、タンニンと他の香味成分との相互作用によって決まってきます。なぜならバニリンなどの香味成分もまた口当たりに影響を及ぼすからです。モルトウイスキーに含まれるタンニンや香味成分は銘柄ごとにさまざまなのでで、モルトウイスキーはそれぞれに口当たりが異なるのが面白いのです」

タンニンは樽材から引き出される成分。適切なタンニンはウイスキーの風味に骨格やバランスを付与するが、多すぎると渋みのもとになる。

ウイスキーの多様性は歓迎すべきことだ。だがタンニンの含有量がうまく計画できなかった場合はどうなるのだろう。アンディ・マクドナルド氏が答える。

「モルトウイスキーにタンニンが及ぼす影響のうち、避けるべきなのは舌や余韻に残る渋味です。ドライな感触が行き過ぎて他の風味を圧倒したら、ウイスキーは台無しになります。そんな意味でも取り扱い要注意の成分ですが、使用する樽の来歴をしっかりと把握していればタンニンの管理はさほど難しくありません」

通常の熟成や後熟にさまざまな種類の樽が使用されるようになり、熟成樽の選択はウイスキーづくりでも特に重要なポイントになってきた。スコットランド到着前におこなう樽のシーズニングも、オークに含まれるタンニンの量を左右する。アンディ・マクドナルド氏が説明する。

「例えば赤ワイン樽を使用すると、樽材に残存していた赤ワイン由来のタンニンが追加されることもあります。結局は樽の影響とウイスキーとのバランスなのですが、うまくコントロールするには変わり種の樽を最初から使わず、もっぱら後熟(フィニッシュ)に使用するのがひとつの見識です」

マイケル・ヘンリー氏はそんな実例をひとつ教えてくれた。

「当社の『インチマリン マデイラウッドフィニッシュ』は、まずバーボンバレルで熟成してからマデイラ樽で後熟したもの。マデイラ樽からはナツメヤシやイチジクなどの甘味が得られましたが、同時に舌先で心地よく感じられるドライなタンニンも加わっています。これはマデイラワインの原料となるブドウに由来するもので、甘味と拮抗してうまくバランスをとるのに役立ちました」