樽の内側を直火で焦がすチャーリングの技術は、さまざまなウイスキーの香味に影響を与えている。ややマニアックな視点から、ヨーロッパとアメリカの風土や産業史を辿ってみよう。

文:クリス・ミドルトン

 

米国連邦議会が、初めてアメリカンウイスキーの条件を定義したのは1935年7月のこと。ストレートアメリカンウイスキーは、すべてチャー(直火による焼き付け)を施したオーク新樽(バレル)に貯蔵されなければならない。それまで慣例的に実践されていたチャーリング工程は、このルール制定によって公的に義務化された。

主にバーボン樽の処理として知られる直火のチャーリング工程。「チャー(char)」とは「炭化」を意味し、内部の樽材を焦がして木炭に変質させるのが目的である。メイン写真もチャーリングの最中。

この義務化によって、チャーリング工程の価値はようやく揺るぎないものになった。アメリカでバーボンウイスキー、ライウイスキー、ウィートウイスキー、ストレートモルトウイスキーをつくる際は、現在でも必ずチャーを施した新樽のバレルにスピリッツを貯蔵しなければならない。

アメリカの代表的な樽はバレルと呼ばれるが、これは特定のサイズと形状のウイスキー樽(容量200リットル前後)を指すこともある。アメリカンストレートウイスキーは、新しいオーク材を組み上げた新樽で熟成しなければならない。世界各地のウイスキーで、新樽の使用を義務づけているのはアメリカンウイスキーだけである。樽のチャーリングを義務化しているのも米国だけだ。

樽にチャーを施す技術は、18世紀にヨーロッパ人がアメリカに持ち込んだと言われている。もともとヨーロッパでは、ライ麦やトウモロコシを原料とする蒸溜酒の製造者が実践していた技術だ。樽内に炭化膜を生成させることで、スピリッツを濾過処理するのが目的だったようである。

だが19世紀の米国では、実際にチャー済みの樽を使用するウイスキーメーカーがごく少数に限られていた。内国歳入庁の記録を紐解くと、1870年代には「バーボンのスピリッツを容れる樽は、加熱していないものが一般的」という記述も残されている。その代わり、北米のほとんどのスピリッツ蒸溜所では、樽に貯蔵する前に蒸溜液から不純物を濾過する目的で、粉砕した木炭を詰めた濾過槽にスピリッツを入れるのが一般的だった。

そして時が過ぎ、冒頭で言及した連邦アルコール管理法が1935年に制定される。この条文では、オーク樽の内部にチャーを施すことがアメリカンウイスキーにとって不可欠であると謳っている。その理由も2つ明らかにされているのだ。
 

ヨーロピアンオークのチャーは熟成に不向き

 
チャーリングが必要な第一の理由は、アメリカンウイスキーのスピリッツにフーゼル油(特にイソアミルやブタノール)が多く含まれるから。このフーゼル油は、トウモロコシやライ麦を原料としたウォッシュ(もろみ)によく含まれている物質だ。

英国のウイスキー蒸溜所は、大麦モルト原料のウォッシュをポットスチルで蒸溜する。そもそも大麦モルト原料のスピリッツは、フーゼル油があまり含まれていない。そして英国の蒸溜所は、伝統的にホグスヘッド、バット、パンチョンなどといった大きめのシェリー樽を広く使用してきた。バーボン樽もアメリカ同様の新樽ではなく、ファーストフィルやセカンドフィルの中古樽だ。

ヨーロピアンオーク樽の活性化には、チャーリングよりもトースティングを採用する場合が多い。直火で焦げ付かせるチャーリングとは異なり、遠火で樽材の奥まで熱を通す方法だ。

つまり英国流の大麦モルトを使用せず、コーンやライ麦を主原料とするアメリカンウイスキーには、木炭による香味の清浄化が必要なのだ。

チャーが必要な第二の理由は、アメリカンホワイトオークの成分がヨーロピアンオークとは異なること。アメリカンオークは、直火のチャーを施すことで優れた香味が得られる。一方のヨーロピアンオークは、遠火で加熱するトーストが適している。

ヨーロッパの伝統的な樽職人は、まず樽板を遠火の炎で熱し、外側に膨らんだカーブ状に樽材を曲げてからタガで固定する。この遠火の加熱によって樽板がトーストされることで、木材内部の糖分がカラメル化し、同時に他の化合物もアロマティックな揮発性物質や熱処理されたタンニンに変化する。これらの成分が、ワインの風味を向上させてくれることはよく知られている。

ヨーロピアンオークをトーストすると、苦味のあるポリフェノールが木から溶け出す。このポリフェノールが、スピリッツのボディ、口当たり、色彩を向上させる。ヨーロッパ産のセシルオーク(フユナラ)やリムーザン地方で有名なペダンキュレートオーク(ヨーロッパナラ)は、どちらもアメリカンホワイトオークの2倍のタンニンを含んでいる。

ヨーロピアンオークをミディアムトーストでマイルドに処理すると、表面のタンニンの90%が十分に分解され、その他の揮発性フェノール類が著しく増加する。だが同じヨーロピアンオークにチャーを施して炭化させると、木のフレーバー化合物が著しく分解されるため、ワインやスピリッツの香味をむしろ台無しにしてしまう。

つまりヨーロピアンオークにチャーを施しても、お酒の熟成には貢献しない。ここがアメリカンオークとヨーロピアンオークの大きな違いである。
(つづく)