ジム・スワン博士は引っ張りだこ【前半/全2回】

February 16, 2013

ジム・スワン博士はウイスキー業界で重要な役割を果たしつつイノベーションの最前線に立っている

Report:ドミニク・ロスクロウ

ジム・スワン博士はとても忙しい人だ」と言った場合、それは「ウサイン・ボルトはとても速いランナーだ」という程度の表現である。
読者がスワン博士の名前を聞いたことがないとしても、まったく不思議ではない。
スワン博士はウイスキー業界の裏方として働き、必要とされるところに現れては淡々と必要なことをして去ってゆくだけなのだ。
博士は宣伝もしなければ注目を求めることもないが、業界は彼が誰でどこにいるか知っていて、必要なときにその力を借りる。

会ったことがある人は幸運だ。私は9年間でたった1回。しかし多くの蒸溜所を訪れていればやがて、ちょうど博士が去ったばかり、あるいは間もなく来る予定のところに出くわすことになるだろう。

博士はウイスキー業界の「サンダーバード」。隊員ひとりの国際救助隊として、困っている蒸溜所に手を貸すため、あるいはウイスキーの製造を志す人に目標を達成する最良かつ最も現実的な方法をアドバイスするために、世界中を飛び回っている。

したがって、博士は多忙を極める。本当に忙しい。事実、このインタビューの日取りが決まるまでにも数ヵ月かかったほどの忙しさである。会えそうだったのにも関わらず、時間的な余裕が少なすぎることが判明した。博士がインドに向かう前にヒースロー空港では? だめだ。ヒースロー空港に戻ってきたときは? 無理。
結局のところ、電話インタビューの運びとなった。

「あなたは特に運が悪かった」
やっと話せたとき、博士はこう言って笑った。「アイスランドからの火山灰で私のスケジュールも相当な影響を受けた。そのとき延期されたミーティングがどれもキャンセルにならず、ただ先送りになったので、こなさなくてはならないことが溜まってしまった」

私がここしばらく、博士と話したいと思っていたのは、博士が関わった仕事に感銘を受けたことが近年中に3、4回あったためだった。

先ずはウェールズのペンダリン蒸溜所。ここではポットスティルのようでもありコラムスティルのようでもあるユニークなスティルを使い、スコッチとは明白に異なるシングルモルトを製造している。スピリッツはマデイラカスク、バーボンカスク、そしてノンピーテッドのシングルモルトが充填されていたカスクで熟成する。その結果、4年足らずでボトリングされる独特なモルトができあがる。

そして最近で一番のショックが、ためらわずに言ってしまうと、中国ウイスキーとラベリングされていたふたつのサンプルのテイスティングだった。結局、台湾のカバラン蒸溜所のものと判明したのだが、ひとつは明るい黄色でバーボンカスクから、もうひとつは濃い赤茶色でシェリーカスクからだった。いずれも素晴らしかく、両方ともわずか2年モノであった。

最後にキルホーマン。甘く、ピートの香り豊かなシングルモルトで、わずか3年でリリースされたにもかかわらず、その若さにしては驚くほどまろやかで調和が取れている。これをシェリーカスクでフィニッシュしたものが意外にも成功したのだ。

以上のサクセスストーリーすべてに欠かせない要素がジム・スワン博士である。蒸溜業界40年の経験で培われた伝統と適正な技術に対する配慮、そしてビジネスチャンスを見極める眼識にイノベーションとオリジナリティを求める強い情熱、そのすべてを兼ね備えているからだ。
とてつもない組み合わせと言えるだろう。厳密に管理されたウイスキーづくりという世界でユニークな活路を見いだし、それをたどる技術と才能を持った人物ということだ。

例えば年数。祖国の偉大な年代モノのモルトには明らかに敬意を払っているスワン博士だが、先ほどの3例が証明しているように、良いウイスキーを飲むには21世紀になった今でも10年待たなくてはならないという考え方には賛成していない。

「ウイスキーをつくりたいという人が接触してきても、最初から心が踊るというわけではない」と博士は語る。「ウイスキー製造を目指す人は数多いが、十分に考え抜いていなければ、どんなことが必要なのかもまったく知らない。私が先ず工程全体を詳しく説明すると、その時点で多くの人が考えを変えることになる」

「中には、10年モノや12年モノのウイスキーをボトル詰めするまでの完全な計画を立ててくる人もいて、あらゆる問題が解決済みだと考えている。しかし現実的には12年も待つことはできず、その計画に固執すれば倒産することになるだろう。ウイスキーがまだ若いうちに出さざるを得なくなってしまう」

「投資について、また本当に必要なものについて、私が言わなくてはならないことに耳を傾けてもらえない場合は、確実に成功しないので手を引くことにしている。今では若い良いウイスキーをつくるための技術がある。10年や12年、あるいは8年でも待つ必要はない。キルホーマンを見れば、スコットランドの風土でさえ若いウイスキーを製造できることは明らかだ

ジム・スワン博士は引っ張りだこ【後半/全2回】→

カテゴリ: Archive,