テイスティンググラスの成功

December 20, 2012

象徴的なグラスを支えている家族に会う
Report : ガヴィン・D・スミス

スコッチを飲むほとんどの人にとって、「グレンケアン・グラス」のない生活を想像するのは難しい。どこの蒸溜所のビジターセンターでも、どこのウイスキー関連のイベントでも、このグラスが使用されていて、特別のエッジングがされているのに気づくだろう。
ウイスキーライヴと『ウイスキーマガジン』の公式のテイスティンググラスでもある。 驚くべきことに、グラスゴー近郊のイースト・キルブライドのグレンケアン・クリスタル・スタジオが2002年にグラスを売り始めてから500万個以上のグラスが売れている。そこら中でテイスティンググラスとして使われていることが、このブランド名に対する人々の関心の高まりに一役買っているにせよ、グレンケアン・クリスタルはそれだけのものではない。

会社は1981年にエアドリー生まれのレイモンド・デービッドソンによって設立された。彼は環境試験技術者としての訓練を受け、飛行機部品を扱う仕事をしていたが、その後、人々との交流に対する情熱から、ガラス食器工場のエディンバラ・クリスタルにおいて販売担当の仕事をするようになった。

「クリスタルのデカンタにスピリッツを詰めて、それに合うグラスのセットを添えるのはどうですか、とウイスキー会社の重役たちに勧めようとしていました」とデービッドソンは振り返り、「このようにして、私はスコッチ・ウイスキーの業界と関わり始めたのです」と語る。 最終的に、デービッドソンは独立し、1981年グレンケアン・クリスタル・スタジオを設立した。
「私たちの成功の一端は、初めから小売には手を出さないで、法人企業だけを集中して相手にすると決めていたことにあります」
「私たちは最初から一貫したデザイン・コンセプトを提供しました。つまり、ひとりのアーティストが包装用の箱をデザインするところまで責任をもつというものです。私たちはお客様の負担を引き受け、最終的には、お客様が期待していたものよりはるかに良いものを提供しました。この考え方は今も私たちの仕事の核となっています」

「私たちはヨーロッパのすべての主要なクリスタル会社と強いパートナーシップ関係を形成しました。また、さまざまな原材料業者とも付き合いがあります。 専門的なことにとても詳しい業者もあるので、必要が生じれば彼らのところへ赴きます。ただし『仕上げ』はすべて自社工場で行います」

現在、レイモンドはこの同族企業の社長をしており、彼の3人の息子も彼と共にこの事業に関わっている。スコットは経理、経営戦略、商品開発、マーケティングを担当しており、ポールは商品生産に関する日常業務を指揮している。三男のアンドリューはグレンケアンのウェブサイトを管理している。「創業以来、スコッチ・ウイスキー業界は私たちのビジネスの50パーセントを占めてきました」とレイモンドは指摘する。しかし、グレンケアンは全体で1,000以上のクライアントとの取引を誇り、その中には英国の船会社であるキュナード・ラインや車のロールス・ロイスのような「優良企業」の名前も含まれている。 では、どのようにして「グレンケアン・テイスティンググラス」は登場したのか?

「私は昔からウイスキーを好んで飲んでいました」とレイモンドは説明する。「そして、バーに行くと、自分用にはウイスキーをワイングラスにいれてくれるよう頼んだものでした。ある日、『こんなのおかしい、クリスタルの会社のオーナーなのに』と思い、ブレンダーが使うノージング用のコピータをもとにしてグラスをデザインしました。でも、誇り高きウイスキー愛好家はワイングラスを求めません。だから、このアイデアは捨てて、より歴然としたウイスキー専用のグラスにするために底の部分を男性的に広げました。しかし17年間そのことを忘れていたのです! 17年後、息子のポールが倉庫で私たちがつくった試作品を見つけ、その日ホワイト&マッカイのリチャード・パターソンを訪ねた際にそれを持って行きました」

リチャード・パターソンはその時のことを次にように思い出す。
「そのグラスに本当に興奮しました。私の職業用のテイスティンググラスはさておいて、率直に言って、その他のすべてのグラスはウイスキーにはまったく不向きでした。このグラスは人々がウイスキーをテイスティングするのに使う申し分のないグラスの第1号だったのです

リチャード・パターソンが好意的に認めてくれた後、デービッドソン親子は他の多くのマスターブレンダーに彼らの革新的とも言えるウイスキーグラスを見せた。全体的な意見としては、グラスの「鉢の部分」はやや大きくしたほうが良いというもの。それを踏まえサイズを大きくした以外は、まさに今つくられているグラスのようなものだった。 さらにレイモンドは説明を続ける。「このグラスを使えば、必ずウイスキーをノージングすることになります。そういうデザインなのです。私たちは、ウイスキーをノージングして、好きかどうか、飲みたいかどうかを皆さんに決めていただきたい。私たちの目的は、皆さんが試すこと、バーカウンターを一巡したい気持ちにさせることです」

ウイスキー関連の専門的な仕事に関していえば、グレンケアンはレアなリミテッドエディション23年 ヴァン・ウィンクル・バーボンのシリーズ用に人目を引くようなデカンタとグラスのセットをつくった。
「私たちはヴァン・ウィンクル家のジュリアンとプレストンと共同作業をしました」とスコットは言う。
「彼らの考えは、こんなにスペシャルなバーボンを手にしたら、いつものボトルに入れるだけじゃだめだというものでした」
同社はジョニーウォーカー ブルーラベル1805を入れる最高級のボトルをつくる責任を負ったこともあった。このボトルにはジョニーウォーカーの署名がエッチングされていて24金で輪郭がとられているグラスがついている。

「私たちはこのような本当に玄人筋の仕事にチャレンジするのが大好きです」とスコットが述べる。 スコッチ・ウイスキーのテイスティンググラスで大成功を収めたのに続いて、新しい特注のカナディアン・ウイスキー・グラスが製造され、すでに25万個がオンタリオに向けて発送されている。これはリカー・コントロール・ボード・オブ・オンタリオ(LCBO)および一連のカナダのマスターブレンダーたちと連携してデザインされた。 レイモンドは次のように断言する。

「ウイスキー業界の人々と一緒に働くのは素晴らしい経験です。仲間とはいいものです」

ウイスキー業界の人々もデービッドソン一家のビジネスの成功を祝ってグレンケアン製のグラスを掲げることは確かだ。

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