マイクロ・ ディスティラリーの 繁栄を願う

April 13, 2013

大手による買収が意味するのは米国のマイクロ・ディスティラリーが事業になるという事実だ

Report:チャールズ・K・カウデリー

米国のクラフト蒸溜の歴史が書かれることがあれば、序章の始まりは2010年6月4日になるだろう。これはどの産業界においても同じことが言えるが、米国のクラフト蒸溜所が大手蒸溜所に買収されるという最高の形で認知された日だった。

この日、グランツや、シングルモルトのグレンフィディックやバルヴェニーなどを手がけるウィリアム・グラント&サンズが、ニューヨーク州のクラフト蒸溜所タットヒルタウン・スピリッツのハドソン・ウイスキー部門を買収した。グラント社がこのブランドを買い取って、タットヒルタウン社に製造を委託する契約を締結した。

ハドソンの主力商品は、3ヵ月たっぷり寝かせたハドソン・ベビー バーボンだ。375ml瓶の価格は約40ドルでニューヨーク市の気が利いた路地裏のバーに置いてある。グラント社はこのブランドとハドソン・ウイスキーの残りの製品群を世界中に販売することを計画している。

また今年の始めには、米国で事業活動を行うディアジオ、ペルノ、バカルディ、ビーム・グローバルなどの大手が会員になっている業界団体ディスティルド・スピリッツ・カウンシル(Distilled Spirits Council; DISCUS)が別の形でクラフト蒸溜を認知した。DISCUSは2010年2月、年間生産量が4万ケース未満のメーカーを対象に、クラフト・ディスティラーズ・アフィリエイト・メンバーシップ制度を設立したのだ。

米国では小規模蒸溜は新しい存在ではない。サンフランシスコでライウイスキーオールドポトレロを製造するアンカー蒸溜所はほぼ20年前に設立された。カリフォルニアの高級ブランデーメーカーのなかにはこれより古いところもある。

しかしウオッカからバーボンまであらゆる蒸溜酒を製造する小規模蒸溜所の急増は過去10年ほどの現象で、毎日1社とも言えるような速いペースで当初の10数社から数百社に増えたと思われる。

2002年、ビル・オウエンズは自称「前進的な新世代専門的クラフト蒸溜業者の共通の声」を代表するアメリカン・ディスティリング・インスティテュート(American Distilling Institute; ADI)を立ち上げた。またオウエンズが数十年前の米国マイクロ蒸溜活動の創始者のひとりだったことは関係者全員が知っていた。

多くの醸造業者は次のステップであるウイスキーづくりに挑戦したいと考えており、多くの新規クラフト蒸溜業者は醸造業の経験を持っている。

今日では、ADIのメンバーは1,200社に上っている。この協会はカリフォルニア州北部とケンタッキー州のバーボンメーカーに地理的に近いことから選ばれたインディアナ州南部の持ち回りで年次総会を開催している。

偶数年はウイスキーが主体で過去2回(2008年と2010年)、クラフト蒸溜のウイスキーの品評会が行われた。記者は両方の会で審査員を務めた。

米国のクラフトウイスキーにはまだ課題も多い。最大の問題は、当然のことだが、その若さだ。ウイスキーを何年も熟成するのは財政的に大きな負担となる。従って、両方の品評会に出品されたクラフトウイスキーの仕上がりが雑だったと言うのは控え目な表現だろう。朗報は2008年モノより2010年モノの品質がはるかに良くなったことだ。

米国のウイスキーの主流はバーボンとその同種であるテネシーウイスキーで、いずれもコーンのマッシュと、チャーされた新樽で4年以上熟成するというのが特徴だが、ほとんどの米国のクラフトウイスキーはモルトベースで、熟成するにしても樽の影響は軽めだ。

米国のクラフト蒸溜も、どんな活動の初期につきものの産みの苦しみを味わっている。うまく機能しないことが多いADIの隙をついて、大手蒸溜所が2008年の品評会に入り込み、当然のことながらほとんどの賞を取っていった。2010年には規定を変更してこの状況を是正しようとしたが、規定がクラフト蒸溜所に自社製ではなく大手から購入した製品の出品を認可するようなお粗末なものになったため、これも失敗した。この年も大手がほとんどの最優秀賞をさらっていった。

こうした小さな問題点はあるものの、数種のウイスキーを含め最初から自社で製造したブランドを販売している本当に小規模な蒸溜所もたくさんある。

タットヒルタウンのハドソンに加え、確立され、広い販売網を持つクラフトウイスキーにはコロラド州のストラナハンオレゴン州のマッカーシーバージニア州のワスムンズなどがある。この3ブランドはすべてチャーした新樽で数年間熟成されたモルトウイスキーで、顧客や専門家の間で好評を得て今では新規商品というより定番商品となっている。

すべてのクラフト蒸溜所が伝統的な米国のスタイルを嫌っている訳ではない。ウィスコンシン州のグレート・レイクステキサス州のガリソン・ブラザーズニューヨーク州のフィンガー・レイクスは、熟成の状況に合わせて品数を増やせるようにバーボンの発売ブランドを押さえている。

「当社はバーボンウイスキーベースの酒類しか作るつもりはない」と今年のテキサス独立記念日(3月2日に数時間でテキサス・バーボンウイスキーを1,500本売り切ったダン・ガリソンは語る。

「当社の製品群でウイスキーが最も高いレベルの技術を必要とする。というのは生の穀物から瓶詰めまで全工程を管理するからだ」とフィンガー・レイクスブライアン・マッケンジー社長は説明する。

マッケンジー社長はウイスキーの愛飲家にも注意を向けている。「ウイスキーの愛飲家は新しい商品、特に小ロット商品を試すのが好きだ」と語っている。

伝統的に蒸溜酒業界では新しい商品は間接的に作り上げられる。バーテンダーが自社製品に関心を持つようにできれば、彼らがお客に紹介する。するとお客が酒屋に買いに行く。ほとんどのクラフト蒸溜所がこの伝統的で有効な販売戦略を採用している。

「地元のバーやレストランで選んでもらえる酒類のメーカーになる」ことがフィンガー・レイクスマッケンジー社長の目指す方向だ。

「当社の事業の大きな柱はワイン観光が盛んになっている地域で地場アルコール飲料へのニーズを満たすことだ」

ニューヨーク州のワイン製造地域には年間100万人の観光客が訪れており、観光の面では米国のほとんどのクラフト蒸溜所にとって、蒸溜所見学者への直接販売も含め大きな事業となっている。

「現在、16種類の製品を販売しているが、特に当社への見学者を対象にその数を増やしている」とマッケンジー社長は語る。

クラフト蒸溜所は観光の目的地にはならないかも知れないが、近隣地域への観光客(特にお酒に関心を持っている客層)には格好の立ち寄り場所となる。ガリソン・ブラザーズは、近くにワイナリーや大きな牧場がある。ミルウォーキーのグレート・レイクスの近くにはハーレイの博物館がある。ユタ州のハイ・ウェストはスキー場のスロープに位置している。

フィンガー・レイクスタットヒルタウンは両社ともニューヨーク州ファーム・ディスティラリーとして認可されている。ニューヨーク州は、地元の農業生産者の作った果実や穀類を主原料とする場合にのみクラフト蒸溜所を認可している州のひとつだ。生産者のひとりラルフ・アーレンツォによれば、「タットヒルタウンは地元農業生産者が現金収入を得る機会を増やし、宅地や商業地に転換せずに農地のままで土地を維持できるようにするため、地元の農産品を酒類生産に結びつける総合的な事業計画を作成している」

グラント社との契約にもかかわらず、タットヒルタウンや他のほとんどのクラフト蒸溜業者はディアジオのような大手になることを将来的にも全然考えていない。例えば、ガリソン・ブラザーズは、テキサス州以外での自社バーボンの販売は計画していない。

未だにホワイト・スピリッツと、月間10バレルほどのウイスキーを製造しているグレート・レイクス蒸溜所のガイ・リホースト社長は、5年後には「自社が少しだけ大きなクラフト蒸溜所に成長しているだろう」と語っている。

逆にストラナハン コロラドウイスキージェス・グラバー社長は少なくとも米国の全50州で自社製品を販売したい意向を持っている。「新しい設備を稼動させてから13ヵ月目になり、1週間の生産量は12から18バレルになっている。2011年後半までの当社の目標は、新しい初溜釜2基と再溜釜を1基購入し、週間生産量を約50バレルに引き上げることだ」と同社長は語っている。

追い風が業界全体を押し上げており、蒸溜酒事業の最近のような好調が続けば、相当数のこうした新興クラフト蒸溜所が数年後もまだ存続しているだろうと言われている。タットヒルタウンのような戦略に倣い、少なくとも大手と提携する企業も一部出てくるだろう。統合やクラフト蒸溜所のコングロマリットの出現もあり得るだろう。

そうなるにはウイスキーの品質向上が不可欠だが、これはメーカーがより長期に製品を熟成する意思と資金を持つようになればおのずから可能になるだろう。良いことを達成するには時間がかかる。

しかし読者がクラフトウイスキーを試す前にもう少し熟成するのを待っていたとすれば、そろそろグラスの準備をしてもよい時期だろう。

カテゴリ: Archive, 蒸溜所