人生のスパイス【後半/全2回】
ロンドンのコヴェント・ガーデンにあるインド料理店、「モティ・マハル」で料理長のアニ・アロラ、ディアジオのコリン・ダン、ブッシュミルズ・ブランド大使のダンカン・マックラエ、ソムリエのリチャード・ワイスが5品のコースメニューを考案した。
「私達は意識的に、料理とウイスキーのつながりが複雑になり過ぎないようにしました。ですから、いちいち舌と相談して味を確かめる必要がなく、感覚的に味とフレーバーだけを楽しむことができました」と、ダンカンは言う。
「今回のフードとウイスキーのマリアージュ(組み合わせ)の成功は、ひとつの蒸溜所だけをとりあげることによって、すべてのウイスキーが同一主題をもつバリエーションだったことだと思います。ブッシュミルズのウイスキーには、全ての人の関心を惹き付ける十分なバリエーションと個性がありますが、ブランドとしてのフレーバーがあっちこっちへと飛び回ることはないのです。そんなことになったら、味覚にとって大変なことになります」
この軽さと単純明快さは、ブリン湾の車エビの前菜とブッシュミルズ・オリジナルとのマリアージュによってはっきりと証明された。その車エビは、素材が持っている純粋な味を保つために蒸してあった。添えてあった餅とチャツネは、エビやウイスキーを殺すことなく料理に質感と少しの香りを付け加えた。これはリチャードが大好きな組み合わせだ。「ウイスキーとエビの両方から新鮮な海の香りが得られ、ライトで芳しく爽やかな組み合わせになります」
2品目は、鹿のケバブ、アスパラガスのイチジク添えがブラック・ブッシュと組み合わせられた。
この一品はシェリーっぽいブラック・ブッシュの深みのあるフレーバーを引き出しながら、結果的には、長いフィニッシュにおけるウイスキーのリッチさと質感を究極まで強めてくれた。焼いたイチジクが主たるフレーバーの架け橋の役割を果たし、ブラックブッシュに見出されるスモークっぽさとイチジクっぽいドライフルーツの特徴を少しずつ引き出した。コリンは、鹿肉のリッチな質感もまた舌の上でウイスキーと共に最高の効果を発揮したと感じた。
3品目では、再び質感を味わうものが登場した。
ブッシュミルズ16年と組み合わせたパラク・パニール(ほうれん草とチーズのカレー)とフィロの包みだ。ダンカンにとって、この料理は、口の感触とフレーバーの感覚を対応させることが、料理とウイスキーをつなぐ架け橋としていかに働くかを明らかにした。「この料理から、ほうれん草のクリームっぽさとえんどう豆の甘さが得られ、ペストリーの風味も少し感じます。それから、口の中はレーズンチャツネの新しいフレーバーが溢れて、ワインっぽいフィニッシュがきます」と、ダンカンは説明する。「私にとって、これは16年をテイスティングしたときと似ています。16年からはクリーミーな甘さ、少しのナッツっぽい麦芽っぽさ、次にポートフィニッシュのフレーバーに似ているワインの爆発が得られます」
メイン料理に移ると、インド料理のひねりを加えたアイルランドの伝統的な料理が給仕された。アイリッシュ・ラムシチューのゴアソーセージ添えで、ウイスキーはブッシュミルズ1608アニバーサリー・エディションである。ここでは、ウイスキーはラムのリッチな質感を突き抜けて、ニンジンの甘さを表に出す。私にとってこれは5品の中ではあまり好ましくはなかったのだが、ウイスキーのアルコールとナッツっぽさがスパイシーなソーセージに心地よく立ち向かう様子が気に入った。
メインは私にとっては一番好きになれなかったマリアージュだったとしても、デザートはそれを補って余りあるものだった。
フルーツサラダとマスカルポーネがブッシュミルズ10年と一緒に出された。新鮮なフルーツを10年と組み合わせるアイデアは、ダンカンがチーズの盛り合わせの中にあったブドウとリンゴを食べていたときに、偶然思いついたものだった。ウイスキーの柑橘系フルーツとバニラが生き生きしたフルーツと心地よく合い、口に残るマスカルポーネ・シャーベットの少しの苦さを和らげる助けになる。
このマリアージュは、文章を読んだだけでは明らかに最も素晴らしい組み合わせには思えないかもしれないが、予想外の魅力がコースの最後に爽やかな輝きを添えてくれたのだ。
この予想外の魅力という言い方は、私がこのマリアージュのメニューから受けた全体的な印象を要約するものでもある。
アイリッシュウイスキーは、食事と共に出すウイスキーの最初の選択ではないかもしれないが、多くの魅力を持っている。アイリッシュウイスキーで食事に少し刺激を与えてみてはいかがだろう?