様々な樽の再利用方法
ウイスキー業界で用済みとなったカスクやウォッシュバックは、革新的な方法で再利用されている
Report:イアン・バクストン
ウイスキー業界は折に触れ、環境に配慮し、ドラフやポットエールのような蒸溜カスを再利用していることをアピールしている。だが蒸溜所では、カスクやウォッシュバックなどに大量の木材が使われている。蒸溜所での寿命を全うしたとき、これらの木材はどうなっているのだろうか?
最も典型的な例は、古いカスクをプランターとして使用したり、もっと創意に富んだ方法としては庭園用家具にしたりすることが挙げられる。クライゲラヒ蒸溜所とグレンフィディック蒸溜所の中間という便利な場所に位置するスペイサイド・クーパレッジには、その代表的な製品が揃っている。グレンフィディックには、突然の雨を避けるための巨大なピクニック用の小屋まで作られているのだ。その他にも、ノッティンガム近郊のコットグレーブにあるキルグラニー・レイルウェイ・スリーパーズ(www.kilgraney.com)というガーデン・ファーニチャー・メーカーなどがよく知られている。古い樽の再利用を思いつくまで、同社は何を材料として使っていたのだろう?
大抵のガーデンセンターでは、古い樽の廃材がプランターに使われている。だが、もっと独創的なものはないだろうか? どちらかと言えば簡素な屋外用家具に古いカスクを使うのは、昔から行われていたことだが、それをもっと洗練させ、屋内での使用にも耐え得るものを作っている会社がふたつある。
デビッド・ゲアリー・アストンは、長年にわたり、廃材を再利用したものづくりを行ってきた。彼は今、その経験をビジネスに生かし、使用済みのカスクから魅力的な椅子やテーブルのみならず、ワインラックや燻製器まで作ってしまうオーク・バレル・ファニチャーという会社を設立した。同社のホームページ(www.oakbarrel-furniture.co.uk)には、テラスで使える椅子やテーブルを自分で作る方法を指導する「DIYガイド」が掲載されている。
木製の燻製器というアイデアに興味を持った私は、早速デビッドに詳しい話を聞いてみることにした。
「古いウイスキー樽を使った一番最近の作品が、コールドスモーカーとホットスモーカーなんです」と、彼は教えてくれた。「プロトタイプが予想以上にうまく出来たのです。実はちょうど今日、初めてスコティッシュ・サーモンの燻製を作ってみたところなんです。2週間ほど前にはニシンの燻製を作ったのですが、素晴らしいできばえでした。魚が好きではない娘でさえ、2切れも食べたんですよ」
これと似ているが、デビッド・トゥルリオ・ファーレイが立ち上げたポスタートファクト・プロジェクト(Luminous creative在籍 www.luminouscreative.co.uk/)はこれをもっと哲学的な面から捉え、「持続可能なデザインエコロジー」で、リサイクルの環境的かつ倫理的な利点を提唱している。ポスタートファクトは、それまでの無骨なフォルムとは異なり、極めて軽量でエレガントな作品を作った。
デビッドのボウモア・チェアは、2006年度のエコトラストのエコ・クリエイティビティ賞を受賞している。この椅子はアイラの地元産業の廃棄物を使った、持続可能なビジネスを立ち上げる可能性の追求を目的としている。審査員の言葉を引用すると、「使用済みのウイスキー樽から回収した高品質の廃材と最小限のエネルギーを使い、後に生分解可能であり、かつ見た目も美しい主力製品であり、持続可能なデザインの精神を体現している」
だが、ウイスキーファンとしては、これら廃材の本来の用途にもっと関連したものを期待してしまう。例えば、古いウォッシュバックだけで出来たバーなどはないのだろうか、と。
実は、それがキースにあるシーバスブラザース社のVIP用ブランドホームであるリンハウスのガーデンバーにあるのだ。残念ながら、ここには招待状がなければ入ることが出来ないのだが、幸いにも中に入るチャンスが得られたら、ロングモーン蒸溜所から回収したウォッシュバックでできている内装を目にすることができるだろう。
シーバス社のジム・ロングは、こう説明してくれた。
「シーグラムがロングモーンのウォッシュバックを一新した際、全てステンレス製のものに取り替えられたのですが、不要となった古いウォッシュバックは集められ、様々なプロジェクトに使われました。醗酵工程を表わす展示用として、グレンバーギーのビジターエリアに設置されたりもしていますが、中でも最も独創的なのがガーデンバーなのです」
マッシュタンを素材にしたエコロジカルな作品は建物にまで及ぶ。
フィンドホーン・コミュニティのルーツは、1962年にまで遡る。その当時としては型破りなコンセプトを持っていたため、最初は胡散臭いという目で見られていたものの、今では世界的に有名なエコビレッジとなったこのコミュニティは、持続可能な事業であり、日常生活に精神的な理念を適用するための教育機関の模範とみなされている。
ここには「エコロジカル」な建物が90棟も建てられており、そのうちの5棟は古いウォッシュバックやマリイングバットの廃材で出来ている。フィンドホーン財団におけるウイスキー樽で家を作る「パイオニア」は、長年フィンドホーンに居を構える、“リストア・ジ・アース・プロジェクト”の国際プログラムオフィサー、ドクター・ロジャー・ドゥグナだ。彼は、1986年に自分で建てた「ウイスキーハウス」に住んでいる。
最初の家は、ファイフのマーキンチにあるヘイグ&ヘイグ社のブレンド工場から回収した、古いマリイングバットを使い、建設に1年かかった。その後、ロジャーはさらに数軒の家を建て、これを「ウォーター・オブ・ライフ群」と呼んだ。3軒は独身者用、そして2軒は家族用の家屋だ。また、古いウォッシュバックの廃材を使ったサマーハウスもある。
「素晴らしく住みやすい空間ですよ」と、ロジャーは言う。「聞かれる前に言っておきますが、ウイスキーの香りはとうの昔になくなっています。しかし」と、彼は切なそうに付け加えた。「木材の中にしみ込んでいるのですね。木片が剥がれ落ちたり、釘を打とうとすると、かすかにウイスキーの匂いが漂うんです」
ウイスキーハウスは、維持費がほとんどかからない。紫外線による劣化を防ぐために、3年から5年ごとに油性のペンキでコーティングするだけですむ。またエネルギー効率も比較的優れており、多少の断熱処理をするだけで、一年中快適に過ごすことが出来るのだ。暖房は(コミュニティ独自の風力タービンによる)電気やプロパンガス、あるいはもっとこの家にふさわしい、木の暖炉が使われている。
他にも、76歳の元教師、オリオール・デ・シュミットや、アーティストで陶芸家であり、更にエコビレッジのトレーナーでもあるクレイグ・ギブソンらがここに住んでいる。ギブソンもまた、自分の家を1986年に建て始めたのだが、まるでガウディのミニチュア版のように、彼の家は常に進化し続けている。家の核を成すのは八角形に組み立てたふたつの樽で、「決して完成しない」部屋と廊下がいくつも連なって出来ている。
ここには重要なポイントがある。樽の家の住人たちは、単なる頭の古いヒッピーなどではない。それどころか、彼らは私たちに未来を示してくれているのかもしれない。私たちが皆、ウイスキーハウスに住むようになるわけではないが、フィンドホーンの「エコハウジング」が極めてうまく機能することが判る。サスティナブル・デベロップメント・リサーチセンターが独自に行った調査では、イギリス全体及びスコットランド、並びに数々のベスト・プラクティスの例を出している最近の持続可能なコミュニティ事業“ベディントン・ゼロ・エネルギー・デベロップメント(ベッド・ゼッド)”の、ひとりあたりのエコロジカル・フットプリントの分析を行ったところ、フィンドホーンがイギリスとスコットランドの平均を大幅に引き上げていることが判明した。同調査は、次のように報告している。
「フィンドホーン財団並びにそのコミュニティの住民のエコロジカル・フットプリントは、ベッド・ゼッドのそれよりも低く、加重平均は更に低い。これは、フィンドホーン財団並びにそのコミュニティの事業の、環境に与える影響が他に比べて低いことを意味する」
以上が、古い廃材を使って出来る数々の事例だ。楽しいものもあれば、非常に意義深いものもある。