蒸溜所ツーリング【1日目/全7日】
スコットランドの素晴らしい風景や町並みを代表的な英国のバイクで巡り、ひとつの特別なブレンドモルトを生み出す為の素材を選んでいこう。「ジャーニーブレンド」の始まりだ。
旅のチームは以下の3人。ウイスキーマガジンのロブ・アランソン(RA)、BBCスコットランド代表のトム・モートン(TM)、そしてカメラマンのケン・ハミルトン(KH)である。オークニーを皮切りにスコットランドで新しい蒸溜所のひとつ、アイラ島のキルホーマンへ渡り、次に南部のブラッドノックへ、そして北東部のグレンギリーへ。
これらの蒸溜所はスコットランドの蒸溜所地図の周縁に配置されたものである。この旅の終点はグレンタレット蒸溜所、フェイマスグラウスのお膝元で、最も古い中核蒸溜所のひとつでありコンパスの中心だ。
そこではウイスキーの導師にしてエドリントン・グループのマスターブレンダーのジョン・ラムゼイが、一行の到着を待ち受け最終的なボトリングを行うことになっている。
6月2日
リトルポートからフォートローズ
600マイル(ロブとケンの手記)
RA:およそ9ヵ月にわたった計画実行の第一歩は、素晴らしいカイゼル髭を蓄え、革のズボンを穿いた男と、A47沿いにあるキス・キス・ランジェリーという店の外で会うことだった。ここは実に興味深く、赤いネオンサインで場所も分りやすい場所である。
これこそジャーニー・ブレンドの愛でるべき非公式スタートであった。ちなみに公式スタートはまだ600マイル彼方、フェリーに乗って移動した先のハイランド パークである。
工場のご厚意により借り出したトライアンフ・ボンネビルSEは完璧な走りを見せ、私とバイクはお互いに馴染み始めていた。こうした旅には最適なバイクである。制限速度を守ってなだらかな道をクルーズするのも楽しいが、田舎の曲がりくねった道を走ることも同じように楽しい。大きなウインド・シールドと荷物入れを取り付けてもらっている。後部のケースと合わせてこの先の旅に向けて充分な容量を与えてくれるものだ。
途中、湖水地方への移動ではカークストーン・パスを通る機会を得た。滝の間を走り抜ける素晴らしい道である。くねりながら緩やかに頂上へと達する。大部分は一方に切り立った谷底を見ながらであるが、その眺めはとても印象的だ。
辿った道路は2台のバイクにその性能を発揮させた。とくにエンフィールドに対しては顕著である。2速から3速のギアでのスロットルは羊たちを驚かせる。ボンネビルは低く唸りながらこの贅沢な風景の中を進み、コーナーからコーナーへとバイクに身を任せながらバランスのとれたステアリングをとり続ける。
通る先々で何人ものバイク野郎たちに出会い、我々が乗るバイクについての話が弾んだ。もしこれが車だったらこのような経験はしないのだろうな、と私は思った。
およそ16時間後。オーナーであるジムと話してから4時間後に、我々は本日の宿アンダーソンに到着しパブの裏手で転げるようにバイクから降りた。
しかしこの宿は素晴らしい。アンダーソンはウイスキーとビール愛好家のための場所だ。
KH:さあ、出発だ! 走り出して間もなく一羽のノスリがミヤマガラスの一群に囲まれているのを見た。これを吉兆と思うことにしよう……。
走り出して110マイルに達したワークソップの付近で、エアフィルタのカバーが急に開いた。A1道路を降りてチェックする。ロックが剪断されていた。いかれたエアフィルタカバーをゴムバンドと紐で縛り上げて先に進むことにした。
ボルトンでの2マイルにわたる渋滞ではエンフィールドのフィルタの性能を試すことになった。不思議なものだ! 軽いステアリングは操縦容易性を意味している。しかし大きく轟くエンジン音は周囲に自分の存在を主張する。とても気分が良い。
カークストーン・パスを抜け、ウルスウォーターを過ぎた。時間を気にしていなかったわけではないが、日暮れの段階でまだ我々はイングランドの中に居た。しかしフライと紅茶と曲がりくねった素晴らしい山道が気分を良くしてくれた。
私は燃料が気になり始め、ロブと話し合った。ロブもまた気にしていたので、ナビの「ドリス」を取り出した。ガソリンスタンドの場所を教えてくれる点にかけてはドリスはとても役に立つのだが、残念なことに営業中かどうかは教えてくれない。ピトロッホリーに着いたのは21時55分で、なんとか給油することができたが、ギリギリであった(22時閉店だったのだ)。
果物とナッツをベル蒸溜所の前で食べた。夜は何も覚えておらず、何も考えられないまま、アンダーソンに到着した。ジム・アンダーソンの歓迎を受け、ベルギー・ビールで生き返った。いかしたパブだ! 3杯のデュバルと1杯のアードベッグですっかり酔っぱらい、呂律の回らぬ状態で話を続けた。
ここでゆっくり休み、次の目的地であるハイランドパークを目指す。