ケイデンヘッド×マッシュタン×WMJ クロストーク
新生ケイデンヘッド ファン待望のカスクストレングスを引っさげゼネラルマネージャーのマーク・ワット氏が来日。目黒 ザ・マッシュタンのオーナー鈴木徹氏を交え、到着したてのボトルをテイスティングした。
9月末某日。前日までの秋晴れの空は打って変わり、時折小雨がぱらつくまさにスコティッシュ・ウェザーの中、マッシュタンを訪れたマーク・ワット氏(以下、マーク)。落ち着いた雰囲気の中、店主の鈴木徹氏(以下、鈴木氏)が温かく迎えた。
初期のウイスキーマガジンライヴ!から10年来の知り合いの両者は公私ともに親交があり、双方の国を訪れる際は必ず、鈴木氏はマークを、マークはマッシュタンを訪ねるのが常となっている。今回も例に漏れずマークがマッシュタンを訪れたわけだが、彼らがどんな会話を交わすのかウイスキーファンなら興味を持つことだろう。というわけで、そんな彼らのウイスキークロストークにウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ)もお邪魔させていただくことにした。
【今回のテイスティングボトル】
・ケイデンヘッド グレンアラヒ1994 54.4%
・ケイデンヘッド ハイランドパーク1988 ダークシェリー 55.7%
・ケイデンヘッド コンバルモア1977 58.2%
・ケイデンヘッド キャパドニック1977 50.2%
WMJ:それでは早速始めましょう。鈴木さん、よろしくお願いします。それじゃあマーク、この4種類なら飲む順番はどうしたらいいですか?
マーク:そうだね、まずはグレンアラヒ、そしてコンバルモア… うーん。トリッキーだね。…(無言でそのあとにハイランドパーク、キャパドニックの順でボトルを並べる)
鈴木氏:ははは、僕もその順番だと思うよ。
マーク:(ハイランドパークとキャパドニックを指さしながら)この二つはビッグシェリーだから最後が良いだろうね。
鈴木氏:それぞれハーフショットでいいかい?
マーク:Yes, ハーフショットで。シェアしようか。
グレンアラヒからテイスティングスタート。
WMJ:グレンアラヒですか。グレンアラヒは味わいにいろいろなスタイルがありますよね。驚くほどおいしいものがあったと思ったら、かなり変わった味のものがあったり。
マーク:そうだね。グレンアラヒは…「安定している」とは言えないかな。とてもユニークだね。
鈴木氏:香りに少しニューポットのニュアンスがあるけど、舌に乗せると…うーん、プラムやちょっとラズベリー。
マーク:このウイスキーは香りが開くには数分かかりそうだね。
鈴木氏:少し加水してみたんだけど、ニューポットの香りはきれいに消えたね。でも個人的にはこのモルトはストレートで飲むのが好きかな。
マーク:僕もだよ。
鈴木氏:いいウイスキーだね。で、価格も良い。
マーク:アリガトゴザイマス。僕はできるだけ適切な価格で製品化しようと心がけてるから。だから豪勢な木のカートンとか過剰なパッケージングは極力しないようにしているんだ。それで価格が倍になったりするのは馬鹿げているし。僕らはウイスキーを『飲んで』欲しいと思っているんだ。それがウイスキーがつくられる理由だと思っている。
WMJ:そうですね。大切なことですね。ウイスキーは飲むためにある。WMJも大いに賛成します。というわけで、飲みましょう!(笑)それでは次は…コンバルモアですね。
鈴木氏:コンバルモアは…ちょっとオイリーで、ドライだけど、味は…ショートブレッドだね。
マーク:Yeah! ショートブレッド!まさにそれだ。ショートブレッドは良い例えだ。特にショートブレッドを作っているときの雰囲気。アベラワー蒸溜所の近くを通った時、こういう香りがするだろ(笑)
鈴木氏:ははは、そうだそうだ。アベラワーの近くのウォーカーズの香りだ!間違いない!(※アベラワー蒸溜所の並びには英国で最も有名な菓子メーカーWalkersの工場がある)
マーク:その通り!僕もそう思うよ。メンソールと言っても薬っぽくはない。クリーミーなメンソールだね。
鈴木氏:開けたての時より断然旨い。びっくりするぐらい。
WMJ:短時間でそんなに変わりました?
鈴木氏:開けたてをさっき飲んだときはちょっとウッディすぎるから放っておこうと思ったんだけど、もう今はすごく旨い。すごく変わった。
マーク:そうかい?それは良かった。気に入ってくれて嬉しいよ。次のハイランドパークはどうかな?ビッグだろ?
WMJ:すごく強いですね。骨太でがっしりとしている。ウッディさが凝縮している。ぜひマークのコメントを聞かせてください。
マーク:ビッグシェリーで、少しだけサルファー(硫黄)のタッチがあるけどまったく悪いものではない。ブルーベリーやレッドカラントのフルーティさ。クリーミーさがバックグラウンドにしっかりある。それと灰。きめの細かい灰。
WMJ:ああ、なるほど。確かに灰っぽさはありますね。こういう灰っぽいフレーバーはどこから来るのでしょう?
マーク:それは分からないけど…、たぶんピートから来るんだろうね。そして同時に味わいには『石』のような鉱物感を感じないかい?少し硬い感じだね。
WMJ:う~ん。美味しい(日本語で)。
マーク:オイシイis good!(笑)
WMJ:それでは最後にキャパドニックを試してみましょう。見るからにすごいカラーですね。
マーク:シェリーの風味を強く帯びているけど、アップルみたいなフルーティな味わいはまさにキャパドニックだね。
鈴木氏:まるでコニャックのように葡萄のニュアンスが強いね。
WMJ:これもまたボリュームがありますね!パワフルでありながらキャパドニックのフルーティさもしっかりある。これもまだまだ固いですね。時間が経つと変わりそう。
マーク:タニック(Tannic=樽由来の渋み)だからね。しばらくはナイフとフォークが必要かな。(笑)もしまだボトリングせずにさらに熟成が進むと、そういうシェリー樽由来のフレーバーがより一層強くなりすぎてバランスが悪くなるだろうね。だから僕はこのタイミングでボトリングしたのがベストだと思っているよ。
鈴木氏:気持ち多めに加水するとバニラやまた違ったキャラクターが出てくるね。
マーク:長期熟成だけど驚くことにまだ55.7%もある。加水しても大丈夫。まだ強い。ただ、僕は普段はヘビーシェリーのモルトはだいたいニート(ストレート)で飲むことが多いんだ。長期熟成のシェリーカスクに加水し過ぎるとすべて味が飛んでしまってフラットになってしまうことがあるからね。シェリーカスクのモルトに加水するときは慎重にしなければならない。フレーバーが台無しになっちゃう恐れがあるからね。とはいっても、個人個人が自分の好きなスタイルで飲むのが一番かな。正解とか間違いとか、ウイスキーにはそういうものはないと思うよ。
鈴木氏:最近加水に凝っているけど、注意深くやらないとね。ただ、加水がばっちり決まった時の味わいがガラッと変わる瞬間は本当に面白い。少しずつ加水して良いポイントを探すのは、また新しいウイスキーの楽しみ方だと思うよ。
マーク:世界的に有名なブレンダー、リチャード・パターソンはノージングするときはアルコールが20%になるまで加水するらしいね。その度数が一番香りを掴みやすいと言っていたよ。ただ味わいは平坦になってしまうから、あくまで香りをかぐ時だけらしい。僕個人的には、味を見るときはやっぱり40~46%くらいがベストだと思う。
WMJ:それは興味深い話ですね。何かそういう業界の裏話みたいな話をもっと聞きたいですね。せっかくの機会ですから。
マーク:いいよ。ただしここからはオフレコだ。さあ、そのボイスレコーダーの電源を切って。
というわけでテイスティングとクロストークはひとまずここで終了となった。
この後どのようなウイスキー談義に話が咲いたかはご想像にお任せするとして、読者の皆様にはマークの思いが詰まったケイデンヘッドのボトルをぜひお試しいただきたい。今回のマッシュタンをはじめ、すでにウイスキーの品ぞろえが豊富なバーには並んでいるとのことなので、ぜひ今回のトークを参考に最新のケイデンヘッドの味わいに迫っていただければと思う。同じような印象を得られるとは限らないが、マークの言う通り、ウイスキーには正解も間違いもないのだから。