Lost Distilleries―パースシャーで失われたものたち

October 10, 2013

パースシャーの失われた蒸溜所を考察する

Report:ガヴィン・D・スミス

稼動中の蒸溜所となると、パースシャー(シャー/Shire=州)では現在6ヵ所が操業しており、その点ではかなり恵まれている。

歴史的には、スコットランドの同州ではかつて約140ヵ所で蒸溜が行われ、そのうちの数ヵ所は今でも当時の所在地が明らかだ。本誌寄稿者イアン・バクストンも、ピットロッホリーから1マイル半に位置し、トムダックイル蒸溜所を所有しているが、この廃蒸溜所は全体的にほとんど手が加えられていない。

今日、観光客が多数訪れるエドラダワー蒸溜所は、パースシャーでは生産量が最少かつ規模も小さな蒸溜所で、地元の農家が育てた大麦の直販所として設計されている。実際、エドラダワー蒸溜所は1825年頃、農家らの「互助」により設立されたものだ。後述の3蒸溜所も20世紀まで操業を続けていた。

最初に設立されたのはバレッヒェン蒸溜所で、バリンルイグの小村近辺に建設されたが、現在、その側をアバフェルディに向かう道路A827が走っている。バレッヒェンは1810年、農業同業者らにより設立され、1875年まで創業者の親戚が操業を続けたが、ロバートソン&サンズ社に買収された。

ピーク時には年間1万8千ガロンと、ほどほどの量のウイスキーを生産していた。アルフレッド・バーナードは1886年に同蒸溜所を訪問し、「旧式のポットスティルが2器あり、初溜器の容量は2,782リットル、再溜器は2,475リットル。ワームタブは、我々が見た中で最も古く、標準的なスマグラーワーム(小型のワームタブ)だったが、河川の氾濫で流れついてきたとおぼしき桶の中に置かれていた」と記している。

ロバートソン&サンズ社は製造を1910年まで続け、1923年から1927年までの一時期、新オーナーであるウィリアム・ローズの保護の下、製造を再開した。しかし彼の死後、1932年には残された樽は売却され、翌年に倉庫は空にされた。現在でもA827からは、荒れ果ててはいるものの、複数の建物を眺めることができる。バレッヒェン蒸溜所がかつて製造していた重厚なピート香の一連のシングルモルトにちなみ、2002年、エドラダワー蒸溜所がバレッヒェンの名称をリバイバルするなど、ウイスキーづくりとの関係は今も続いている。

オーフナギー・イースタータリメットと呼ばれることもあるオーフナギー蒸溜所は、バリンルイグ東部に位置し、バレッヒェン蒸溜所よりほんの数年後に、これも地元の農家らによって建設された。当初はジェームズ・ダフ社の名称で認可されていたが、1890年にジョン・デュワー・アンド・サンズ社に買収された。それまでに少なくとも6人、オーナーが交代している。パースに拠点を置くブレンダーたちは、最高でも年間2万4千ガロンしか生産できなかった。1898年にアバフェルディ蒸溜所が新たに立ち上げられる前の数年間で、オーフナギー蒸溜所がモルトの実用的な産地だと証明できたに違いない
デュワー社は1912年までオーフナギー蒸溜所の操業を続けたが、閉鎖され工場も取り壊された。

3番目はグランドタリー蒸溜所で、カルティロッホ川の土手に建設された。そこを流れる水は近くのテイ川に流れ込んでいた。A827アバフェルディ道路が交差するグランドタリー村から3マイルにあるグランドタリー蒸溜所は、1823年に物品税法が自由化されてから数多く誕生した蒸溜所のひとつだった。実際に建設されたのは2年後で、5人のオーナーの手を経て、1837年にトムソン一家が購入。一家は1910年頃に同蒸溜所が閉鎖されるまで操業を続けたが、ロイド・ジョージ卿が1909年に施行した人民予算(ウイスキー1プルーフガロンにつき、15シリング税率を引き上げる)により、その廃止が早まったことに疑問の余地はない。バーナードが訪れた際に、「グランドタリーは(中略)英国で最小の蒸溜所だ。(中略)これまで見たこともない最も原始的な作業をしている。“あらゆる秘策”がこの納屋に詰まっているに違いない。(後略)」と記している。

生産量は年間わずか5千ガロンだったが、バーナードが述べたように、グランドタリー「製品」はドナルド・カリー卿(国会議員)を始めとした近隣の傑出した(船舶やレストランの)オーナーらから非常に称賛されていたようだ。バーナードはめったにウイスキーの特徴にコメントすることはなかったが、グランドタリーは例外だった。「6年モノを試飲した。香りはデリケートで、のど越しはスムーズだった」と記している。

ハイランド、パースシャーで、失われた蒸溜所でのウイスキーの香りがどのようなものだったのかを知りたければ、エドラダワーを訪ねるといい。駐車場には大型バスが待機し、ショートブレッドを販売している店もあるが、ここのウイスキーは変わらぬ味と香りを貫いている。

カテゴリ: Archive, 蒸溜所