ミックスとマッシュ

December 27, 2012

「マッシュビル」の意味とは? そしてそれがバーボンづくりにどれほど大切な意味をもっているのかを検証する

マッシュビルというのは、バーボンを蒸溜する際の穀物の「レシピ」である。伝統的には、トウモロコシ、ライ麦、そして大麦麦芽を混合したものであり、大半の有名バーボンはこの3種の穀物を使い続けている。しかしマイナーなブランドの中には、(ライ麦に代わって)小麦をトウモロコシと大麦麦芽とともに使うものもある。「ウィーテッド(小麦)」バーボンとして有名なものには、メーカーズマークオールド・フィッツジェラルドなどがある。

「マッシュビルがフレーバーの基礎になります」
こう語るのは、ブラウン・フォーマン ウッドフォードリザーブのマスターディスティラー、クリス・モリスだ。

マッシュビルの中には最低51%のトウモロコシが含まれていなければならず。これに蒸溜所ごとに自由に選択することにできる「穀類」が適宜配合されている。トウモロコシの割合に上限はないが、一般的にはマッシュビル中での割合は80%までである。

通常は、ある特定の品種のトウモロコシ「イエロー・デント No.2」が用いられる。他の品種に比べて優れたフレーバーとたくさんのアルコールを産生するものとして認知されているのだ。トウモロコシは、主に近場のケンタッキーやノースダコタのいずれかから供給され、さらに二次的にはサウスダコタとインディアナのものも使われている。

いずれのマッシュビルにおいても、トウモロコシが一番大きな割合を占めているが、そのフレーバーへの影響は蒸溜したてのときが一番大きく、熟成されたバーボンになるにつれ、だんだんと影響は薄れていく傾向にある。

「トウモロコシはスピリッツの味の方向を決めています。トウモロコシと甘い穀物の味が、蒸溜された新しいウイスキーの中に現れてきます。他の穀物は、最初はトウモロコシのようにはスピリッツの中には現れません。しかし熟成が始まると様子が変わります。熟成の最初の年にはライ麦や小麦の特徴が現れてくるのです」こう話すのは、ヘヴンヒルのマスターディスティラー、パーカー・ビームである。

フレーバーという観点から言えば、バーボンを熟成させるにあたりトウモロコシは「中立」と言われる理由はここにある。たとえトウモロコシが熟成バーボンの中で認知されるとしても(例えばバターっぽさ)、基本的にはこれは底を支えるものであり、第一に認められる特徴ではない。

「柔らかいトウモロコシの調子はその特徴の奥に隠れていて、樽から与えられるカラメルとバニラと一緒に、いくらかのナッツのフレーバーへと成長します。こうしてトウモロコシはそれ自身のはっきりしたフレーバーではなく、他を助ける働きをするのです」とモリス。

また同様に、大麦麦芽は単に底に流れるビスケット、モルト、そしてチョコレートの雰囲気をいくらかのドライさとともに提供するだけである。こうした影響度の低さは、大麦麦芽が一般的にはマッシュビルの10〜15%を占めるに過ぎないことを考えると、驚くべきことではない。しかし、ノースダコタとサウスダコタで栽培され、ミルウォーキーで麦芽にされている大麦は、あらゆるフレーバーへの影響よりも、本質的にその含有酵素が必要とされているのである。
穀物が挽かれて(粉砕されて)、温水で加熱されたときから、酵素はその主要な役割を果たし始める。このとき穀物に含まれるでんぷん質を、酵素が糖に転換しているのである。得られた甘い液体は、次に酵母が添加されて発酵し、糖がアルコールへと転換される。この段階で得られるアルコール度数は8〜10%である。これを蒸溜してスピリッツにすることができる。結果として、トウモロコシは多くの場合本質的にフレーバーではなくアルコールを提供する「エンジン」とみなされ、大麦麦芽は酵素を提供する「働き手」として認識されている。これが意味するのは、ライ麦と小麦が熟成バーボンのフレーバーに最も影響を与える2大穀物だということだ。

「ライ麦の割合を高めれば高めるほど、できあがるバーボンはよりスパイシーになり、複雑さが増してドライになります」こう語るのは、バッファロートレース蒸溜所のマスターディスティラー、ハーラン・ウィートリーである。

ライ麦は、ナツメグ、クローブ、シナモンなどのスパイスの特徴に貢献している。これらは熟成によってより強調され得るものである。バーボンは、内部を炎で焦がしたオーク樽を使って熟成しなければならない。樽に加えられた熱が、オークに「閉じ込められて」いたバニリンやスパイスの調子などの様々なフレーバーの複合物を「解放」するのだ。時間の経過とともに、熟成がすすむスピリッツがオークからバニリンとスパイスの性質を抽出する。

「いくぶんかのクローブやシナモンの特徴も樽から得られます。こうしてライ麦由来のスパイスの特徴が樽によって強調され増量されるのです」とモリス。

主にノースダコタから供給される小麦を利用しているブランドは、おそらく少数にとどまるものの、これもまた伝統的なものである。記録によれば、小麦は19世紀の中頃からバーボン蒸溜所のマッシュビルに登場している。小麦はライ麦に比べて全く異なる貢献をするが、これは小麦とライ麦が熟成中にオークの影響と相互作用する方法が異なることに由来している。

「小麦を使うと、より甘い味のバーボンになります、しかしこれは小麦がより甘い穀物だからではありません。小麦はライ麦ほどリッチではないので、オークからさらに多くのバニラの甘みを引き出します。対して、ライ麦はこうした甘いフレーバーを押さえてしまいます」こう語るのは、フォアローゼズ蒸溜所のマスターディスティラー、ジム・ラトリッジである。
言うまでもないが、どちらが望ましいかは、各蒸溜所がつくりたいと思っているバーボンのスタイルによって決まる。他のやりかたとして、通常用いられる3種の穀物ではなく、ウッドフォードリザーブ・マスターズ(2005年リリース限定版)に用いられたような、4種の穀物をマッシュビルに含めるやりかたもある。

「私たちは、大麦麦芽とともに小麦を加えるために、トウモロコシとライ麦の割合を調整しました。通常のウッドフォードリザーブでは、ナッツの本当に繊細なヒントがあるだけですが、4種の穀物から得られたのは、ピーカンやクルミに代表される強いナッツの特徴でした。これは味にも反映されました。このナッツの特徴は小麦と他の穀物との間の相互作用に由来するものです」とモリス。

このようにマッシュビルがバーボンのフレーバーの特徴に影響を与えるのは間違いない。しかしそれはどの程度だろうか?

マッシュビルは最終的なフレーバーの20%程度に影響を持ちます。発酵過程、酵母のタイプ約10%の影響。蒸溜が影響するのが20%で、残りの50%は熟成過程によって影響を受けます」とウィートリーが語ってくれた。

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