ドリンカーズガイド 横浜【その2・全2回】
ヨコハマ・マイクことマイク・マーフィー氏の案内で横浜を探索するWMJ(ウイスキーマガジン・ジャパン)チーム。後半の今回もウイスキーを美味しく楽しめるバーを訪ね歩く。
クラフトビアバーまでは7分で到着。横浜では新顔で、単にホテルバーや専門的なバーだけではない、進化し続ける日本のウイスキーバーシーンを象徴している。私たちにはぴったりの店だ。
WMJの考える「酒を飲む」こととは、優れたサービスと優れた演出、優れたバーテンダー、そして何より、優れたウイスキーを指す。つまり、優れたウイスキーバーとは、カクテルバーでもパブでも、あるいはマラソンランナーの鈴木哲也氏が経営するクラフトビアバーのような、モダンなビール専門のバーでも良いのだ。
実は、鈴木氏は藤沢に住んでおり、毎日横浜まで通っている。藤沢に戻る最終電車に乗らなければならないということで、彼の店は平日23:30、週末は22:00に閉まる。それは逆に平日は16:00から、そして週末は12:00と早い時間からオープンしている利点だ。
クラフトビアバーは実に明るく、清潔でミニマリズムに徹した簡素なバーで、低いスツールと3つのテーブルに、合計20人ほどが座ることができる。客層は若くトレンディなプロフェッショナルたちが占め、この日は全員が日本のクラフトビールを飲んでいた。
「まずはビールから始め、次にメニューを見るんです」と、鈴木氏はにこやかに言う。「そして、ウイスキーもちょっとはあることに気づいてくださいます」彼の言う「ちょっとは」とは、200種類のウイスキーを指し、そのほとんどがインディペンデント・ボトラーのもので占められている。それは伝統的なウイスキーバーをベースにした巧みな戦略で、最初はとっつきにくいウイスキーを親しみやすくし、ファンを着実に増やしている。芳醇な味わいの手作りビールが好きなら、ウイスキーもきっと好きになる、と鈴木氏は語る。実際、そこにいた客の半分が、ビールのジョッキをウイスキーのタンブラーに持ち替えているのを見れば、彼のメッセージが伝わっていることが判る。
伝統的なダフタウンは一度訪れる価値がある店だ。石川町駅に近い立地からサラリーマンに非常に人気が高く、金曜の夜は最も混みあっている。この店を最初に訪れることをお勧めする。というのも、ダフタウンは私が訪れた中で唯一、2階にあり、狭い階段を上がらなければ中に入れないからだ。入店の交渉が成立し、店内に入ると、そこは15席ほどの、まるで廊下のような造りの店で、300種類のウイスキーを取り揃えて店主の飛塚氏が迎えてくれる。ウイスキー専門の人が行くべき、お勧めの店だ。
マイクは、クラフトビアバーから最後の店まで歩いていくことを主張したが、彼のスケジュール管理能力が当てにならなくなっているため、私たちはタクシーに飛び乗った。最終電車を逃すと言う不安が頭を離れず、また歩いていては飲む時間が減ってしまう。
私たちは、山下公園の近くにあるスリー・マティーニに向かった。オーナーは山下氏。オープンして7年になるバーだ。クラシックな昔ながらのサロンで、アメリカの影響を色濃く残す古風な横浜のバーに対するオマージュが感じられる。
木と皮革に黒い鉛枠ガラスの店内は、工芸品が雑然と置かれ、ホワイトホースの看板が、無頓着な客の頭の上にぶら下がり、そして船の舵のミニチュアがカウンターの上に無造作に置かれている。客層は、様々だ。通勤者や昔のロッカー、芸術家、ビジネスマン、地元の人たち、学者等々……。集い、話し、美味しい酒を飲むことをこよなく愛する人たちだ。酒の種類もまた、多岐にわたる。
カクテルは、極めて古典的であり、ウイスキーの種類は1,600にのぼる。そして常に驚きとともに変わり続けている。しかもかなりのお手ごろ価格で供されている。横浜の愛飲家たちは、コストパフォーマンスに厳しいのだ。
私たちは、カウンターに寄りかかって注文をした。私は、マンハッタンをいただき(次いでクライスデールのグレンリベット13年、そしてゴードン&マクファイル社ボトリングのマッカラン1969と続く)、あわせて、山下夫人の伝説的な和牛バーガー(金曜と土曜のみ)をいただく。多くの国では不法とも言われてしまいそうな、実に官能的な味を、ジャズを聴きながら味わう。ジャズは全てレコード盤から、手作りのアンプ、手作りのスピーカーを通して流れてくる。
それは、椅子に深く座ったらすぐに隣の客との会話が始まる、そんな店だ。ここは世界で最高のバーでは? そうかもしれない。
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