再生する樽たち

August 15, 2012

ニール・リドリーがディアジオの最新クーパレッジを訪問し、樽の寿命を延ばす手法についてレポートする(103号より)

ディアジオは1,000万ポンドをかけて昨年、クラックマナンシャイアキャンバスに最新式のクーパレッジを導入し、歴史的に職人技に支えられてきた伝統的な樽造りの将来を塗り替えた。しかし、このクーパレッジは樽という遺産にとってどんな意味を持つのだろうか?

私は初めてキャンバスのクーパレッジを訪れ、どんな体験になるのかと若干の懸念を覚えていたと告白しなければならない。樽の製造はウイスキーの熟成過程でおそらく最も重要な要素のひとつだ。21世紀に入った今、ウイスキーメーカーが効率を一層重視しつつあるために、熟練工としての樽職人の伝統が犠牲にされようとしているのだろうか、と考えていたのだ。高度な技能を持つ人が形作る樽板の一枚一枚に刻み込まれる人間的な味わい、機械がそれに取って代わるのだろうか?

もちろん、無用の心配だった。クーパリングは今や上り調子のビジネスであり、キャンバスでの新たな見習い工の任命と厳しい訓練計画を見る限り、世界的なウイスキー需要の増加に対応するための近代的な取り組みと並行してディアジオが熱意を持って伝統を維持しようとしていることは明らかだ。それと同時に、ディアジオが現在所有している700万丁以上の樽の寿命延長に重点が置かれていることも非常に明白だった。

木材の管理に関して、キャンバス樽工場には5つの異なる専門分野がある。再生、修復、拡張、そして異なる種類の樽板を使った2段階の再構成処理だ。キャンバスクーパレッジ・プロジェクトデリバリーマネージャーであるアラン・ハッデンにとって、クーパレッジの最も興味深い側面は再生によって樽をよみがえらせることにある。キャンバスクーパレッジは再生と再構成で毎年25万個の樽を生産するという厳しい課題を抱えている。「2009年にディアジオは2ヵ所の樽工場を所有し、あわせて毎年およそ20万個の樽を製造していました」と彼は言う。「私たちは樽の生産量を25%増やさなければならないという問題に直面し、残念ながら既存施設は拡張に適していませんでした」

ハッデンとそのチームにとって、自動化した専用の場所にすべての製造設備を統合することは、クーパリングに固有の危険性や物理的な側面が一層安全かつ効率的になることを意味した。

では、キャンバス工場における樽の「再生」はどのように行われるのか?

現行の使用寿命が尽きた樽(通常は5回目のフィルの後)は、まず解体して天板と締め輪を外すが、これらは自動製造ラインの最後に、取り外したパーツをコンベヤ上の樽と完璧にマッチさせる巧妙なRF(高周波)タグ識別システムを利用して元に戻すことになる。チャーされた部分を除去する(ディチャー)最初の工程では、独特な円形の「削り」処理を行う機械で樽の内側を3~4ミリ削り、使用済み木材の望ましくない部分を除去して新鮮な木材面を出す。

自動化された次の段階では、ロボット技術によりディチャー後の樽を加熱室に入れ、新鮮な木材面を焼いて3分間チャーする。その後、以前の締め輪と天板をはめ直す。始めから終わりまで全工程の所要時間は10分なので、1シフト当たりおよそ500個の樽を処理でき、1日2シフト制で各シフトには十分な訓練を受けた樽職人16人が投入される。

ディアジオの研究室では、樽の余命を最終的に判断するために、ウイスキーの色を測定する特殊なティントメーター(可視光線透過率測定器)を使って、再生処理が迫っている樽のスピリッツを綿密にモニタリングしている。疲弊した樽の運命を適切に判断する仕事を担うジェームズ・カーソンは、「この再生処理のお陰で、実際に既存の樽の寿命が延びています」と言う。「樽が使えなくなるまでに150年ほどもつ可能性もあり、持続的な資源の利用という点で明らかに有利です」

再生直前の段階にある樽と再生した樽それぞれで熟成したウイスキーを続けて試飲した結果は明らかで、このクーパレッジがそれほどまでに再生処理を重視する理由も納得できる。アメリカン・バーボン樽による5回目のフィルのスピリッツは淡くスピリティで、アロマの多くが失われている。しかし再生された樽はバニラとクローブの豊かなノートが加味された上、驚くほど顕著にウッディでスパイシーな特徴が出ている。

「当社の将来のブレンデッドウイスキーの一部には再生樽を使うことになります」とカーソンは言う。高品質のバーボンの新樽価格の急騰と、熟成施設の負担増大について少し考えてみれば、キャンバス樽工場が効率的で費用効果が高く、最終的に持続可能なウイスキービジネスを創り上げるための基準になることは明らかだ。

カテゴリ: Archive, features, TOP, テクノロジー, 最新記事