熟成の年月【前半/全2回】

September 14, 2013

熟成期間を通して、様々な要素がニューメイクスピリッツの性格に影響を与え、モルトの最終的なフレイバーを決めていく

Report:イアン・ウィスニュースキー

熟成樽が満たされるや否や様々な反応が始まり、熟成が開始される。これは“減算”、“加算”そして“相互”の3つの要素に分解できる熟成過程である。

“減算”熟成は、未熟さを減じる作用である。例えばゴムや肉のような様々な特徴を持つ硫黄のレベルは、炭化した樽の表面に吸収されて、段々低くなって行く。これは単純な除去ではなく連続的な改良である。硫黄化合物はまた酸化されて、微かなより大人しいフレイバーへと変化していく。硫黄の特性は他の香りを覆ってしまうため、これを減じることは、エステル臭を目立たせることになり、スピリッツの性格に大きな影響を与えるのだ。

“加算”熟成は、スピリッツに色やオークからの性格を加える。バーボン樽はバニラやココナッツ、そして蜂蜜といった香りを加え、これに対してシェリー樽はフルーツケーキやレーズンの香りを与える。他の要素も加えながら、どちらの樽も豊かな甘みをもたらす。

“相互”熟成はスピリッツとオークの間に起きる複雑な反応のことである。これには酸化と蒸発が含まれる。ここでスピリッツもオークもどちらも単独では持っていない、新たな性格が生み出されるのだ。

酸化は樽が「新鮮な」空気を吸い、「飽和した」空気を吐き出す「呼吸」にともなってもたらされる。この「呼吸」は樽の上部空間(樽の中の液面の上部)が膨張したり収縮したりすることによって行われる。

温度が上昇すると、樽内の液体は膨張し、上部空間内の気体(様々な内容で占められている)も、より大きな比率で膨張する。上部空間の気体は液中にとけ込まず、樽を通して「呼気」として外へ出て行くのである

同様に、温度が下降すると液体も上部空間も収縮する。このことにより樽の外部から上部空間に空気が入り、さらに液体へと空気がとけ込む(酸素が重要な鍵である)。このことによって、液中のエステルやアルデヒドそして酸が新しい均衡状態へと向かって変化して行く。傾向として、この結果スピリッツは複雑さを増しながら、よりフルーティでバランスのよいものへと変化する。

樽からのアルコールと水の蒸発も、熟成に本質的な進化をもたらす一要素である。硫黄化合物などの望ましくない要素の除去を伴い、複雑さも増す効果がある。

蒸発率は、典型的なケースでは年間2%であるが、熟成庫の様式や倉庫内での樽の位置、周囲の温度、湿度のレベル、そして充填時のアルコール強度などによって影響を受ける。異なる蒸発率が正確にはどの程度熟成に影響を与えるかはまだ完全には解明されていないが、高い蒸発率が優れた結果に結びつくとは考えられていない。

蒸発作用は長期熟成に際しての最終ステージで主要な影響を及ぼすようになる。様々な反応、すなわち酸化や樽からの溶出などは、おおよそ25年から30年の熟成を経て落ち着き、均衡状態に向かうため、それ以降は蒸発が樽内の性格のバランスを変化させる主たる要因となるのである。

これら3つの主たる熟成の関係を(理想的にはパーセンテージで)定量化することは、とても単純な作業とは言えない。ある理論では“加算”熟成を主たる位置に置き、減算ならびに相互熟成をそれぞれ2番手、3番手に位置づけている。しかし一番重要な点はそれらの本質的な協調と均衡であり、それこそがあるウイスキーの特別なスタイルを創り出しているのである。

古典的な熟成モルトの特徴とはバニラであり、そこではバーボン樽がその要因として挙げられてきた。しかし、バニラの特徴はニューメイクスピリッツの中にも見いだすことができるものなのである

「バルヴェニーのニューメイクスピリッツの中には微かにバニラ香が生まれています。これをファーストフィルのバーボン樽に詰めると、最初の2、3年のうちにバニラの特徴が強くなることがわかります。バニラ香は樽によってもたらされる主要な特徴のひとつです。スピリッツはその後もバニラ香を取り込み続けますが、ゆっくりとした速度でしかもせいぜい10年位までが限界です。そして12年を越えると、バニラの甘さが均衡するようになります」こう語るのは、ウィリアムグラント&サンズデービッド・ステュワートである。

ニューメイクスピリッツ中のバニラ香がどのように生まれ、そして樽が提供するバニラの特徴とどのように相互作用を行うかは、さらに考察が必要である。

「ニューメイクスピリッツ中のバニラ化合物はグレンモーレンジィ・オリジナルの中に現れるものの、多分10から20%程度のものです。ニューメイクのバニラ香はペストリーやバター、そしてバタースコッチなどの特性と織り交ぜられたもので、その後10年のうちに樽からのヴァニリンと合わさってよりバニラ香が強くなり、ココナツやクリームブリュレの甘みが加わりデザートのようになるのです」こう話すのはグレンモーレンジィレイチェル・バリーである。

 

→後半へ続く

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