熟成の年月【後半/全2回】
前半で熟成に関わる加算、減算、相互という3つの作用を紹介した。樽がどのように「呼吸」しニューメイクにいかなる効果をもたらすのかを理解いただいたところで、さらに具体的にその効果を見ていこう。
では、樽のどの部分が影響を与えるのだろうか?
バーボン樽の内部炭化作業(チャーリング)で、内部の表面には2mm程度の炭の層が形成される。その炭の下には炭化作業中の熱によって変性した2~3mmのオークの層がある。
「結果として、様々な香りの化合物を放出するのは、この炭の下にある層なのです。シェリー樽を焦がしても同じような影響はあるのですが、程度は比べ物になりません」
「私たちのアメリカンオーク材を使ったシェリー樽からは、バニラの影響を見ることができますが、バーボン樽ほど顕著なものではありません。このため主役というよりも脇役にまわることになります」こう話すのはゴードン&マクファイルのイーウェン・マッキントッシュである。
樽から抽出されるバニラ香のレベルは最終的にはある最大値に達する(液中のバニラ香の濃度がオーク中の濃度と同じになったときに、抽出は止まる)。
この飽和にかかる期間は、もちろん様々である。それは充填アルコール強度や、上部空間、オークと接するスピリッツの面積、そして熟成庫内でのスピリッツの温度などに影響を受ける。
ニューメイクスピリッツのなかのフルーツ香も樽から引き出されたフルーツ香と相互作用して強化される。これはただ時間の問題である。
「ベンローマックのニューメイクには、爽やかな青林檎や熟したバナナのエステル香が、特徴的なピートの煙香とともに含まれています。バーボン樽で5、6年の熟成を経て、フルーツ香の複雑さが増して行きます。樽からはバニラの微かな甘い香りが、果物をテンパリングした土臭いスパイシーさとオークの香りとともに与えられ、その果実がさらに熱を加えられた香りへと変化して行くのです」
「バーボン樽で10年熟成したスピリッツは、モルトらしさとフルーツらしさが、個々の香りをしっかりと保ちながら、よいバランスで折り合いをつけた地点へとたどり着くことになります」と、イーウェン・マッキントッシュは付け加えた。
フルーツ香の出現、すなわち柑橘類の香りなどの出現は、もちろんどのような樽を選ぶかに依存している。
「柑橘香の化学的本質を特定することはとても難しいのです。それらはニューメイクスピリッツのなかでは強い風味として存在しています。そして樽の選択に依存して、柑橘香は様々なステージへと展開して行きます。オークの活性が低ければ、レモン風味として残り、ファーストフィルバーボン樽なら甘みが解放されて、口の中を甘やかな味で満たす柑橘香が生み出されるのです」と、バリー。
1970年代から80年代に遡る熟成に対しての、より詳細な理解が進んでいる。ニューメイクスピリッツと熟成モルトウイスキーを解析する技術の開発が後押しをしているからである。
フレーバーの創成に関しては、いまや一段と進化した段階に来ている。未だに十分に答えられていない謎は、例えば丸み、滑らかさそして口ざわりといった「高品質要素」がいかにモルトの中に与えられるかである。
その答えはもう少しだけ待たなければいけないようだ。
モルトウイスキーの最終的な個性の最大70%程度は熟成によって決定される。熟成したモルトウイスキーが本当に興味深い点のひとつは、同じバッチで蒸溜され、同じタイプの樽に詰められて、同じ熟成庫の中で隣合わせに置かれたものでも、結果は同じにならないということである。その違いはわずかなこともあり、大きなこともある。なぜならとても多くの要因が働いているからである。例えば蒸発率と酸化率は、個々の樽が熟成庫内のどこに位置しているかに影響を受ける、なぜならそれぞれの熟成庫の中には、「ミクロな気象の変化」が存在するからである。