蒸溜所ツーリング【5日目/全7日】
ジャーニーブレンドの完成を想像しながら3つ目のサンプルを求め、ローランドのブラドノック蒸溜所を訪れる。
旅のチームは以下の3人。ウイスキーマガジンのロブ・アランソン(RA)、BBCスコットランド代表のトム・モートン(TM)、そしてカメラマンのケン・ハミルトン(KH)である。それぞれの手記を紹介する。
6月6日
ポート・アスケイグからブラドノック
240マイル
RA:6時15分の乗船は、これまでで最も早い出発だ。フェリーの上での朝食となり、そしてみな半ば気を失うように目を閉じた。私はなんとかガレーの座席に、棺桶の中のように横たわり、到着の20分程前に生き霊のように起き上がった。インバラレイ城とその先へ。今日は長い日になる予定だ。
このあたりの風景は壮観である。湖や峡谷の珍しく雅な眺めが続く。曲がりくねった道もまた楽しい。グラスゴーに向かうこの本当に険しくうねる道を、風景をただ賞賛しつつ抜けて行く事ができるのだ。
我々を出迎えてくれるのはブラドノックのオーナー、レイモンド・アームストロング。今回の蒸溜所訪問の3ヵ所目だ。それにしても、なんという場所だろう。元々はディアジオがブレンドと貯蔵のために所有していた場所であり、施設はとても巨大だ。レイモンドは熟成のために興味深い他社の樽を預かっているが、その中にはオークで熟成されるジンも含まれている。
サンプルはみな華やかで、我々は古いローランドの甘さとバニラを兼ね備えた小さなバーボンリフィルを選び出した。3番目の要素が揃った。あとはふたつを残すだけだ。
KH: 朝食は1杯のカルマック(フェリー)の粥だった(期待していたほど旨くはない)。インバラレイへ向けて1杯の紅茶、スコーン、新しい防水ズボンを求めて出発だ。
エイルザ・クレイグの眺めは素晴らしかったが、速度の出る道だったので、観光の余裕はなかった。エンフィールドはその速度ではいっぱいいっぱいなのだ。バラントレーで給油の為に停車した。作家ロバート・ルイス・スティーブンソンの描く旅の趣をみせてきた。昨日は「誘拐されて」、明日は「バラントレーの若殿」。「宝島」にはいつ着くのだろうか?
ブラドノックには辿り着く事ができた。蒸溜所オーナーのレイモンド・アームストロングが迎えてくれる。彼はスピリッツがスティルの銅と反応することに触れたが、どのようにそれが起きるかは説明できなかった。答えは2日目、4日目と同様に「ジョン・ラムゼイに聞け、彼なら知っている」。
TM:フェリー上で朝食。それから全員が数時間の間、泥のように眠った。
この旅で奇妙なことは、真剣な飲みが欠如していることだが、要するに旅がハード過ぎるのだ。毎日バイクに乗り、ウイスキーを嗅ぎ、食事をして1、2杯のエールを流し込んで眠る。その繰り返しだ。
インバラレイで休憩。この頃には体が冷えきってしまっていた。この原因の一部は脂肪摂取の不足によるものだ(カルマックフェリーの朝食は中途半端に健康を思いやる代物だった。粥とヨーグルトだと? 間抜け、痴れ者、愚か者め)。他の原因の一部はジャンパーを持っていないことによる。我々はカフェのフルーツスコーンを全て平らげ、珈琲を飲み干した。
バラントレーから私はひとりで飛び出した。時間が押していることに気が付いたからだ。ダンディーの大出版社DCトムソン発行の「ブルーンズ」の最高責任者で旧友のデイヴ・ドナルドソンがブラドノックで我々を待っているのだ。ひとりで移動するのは奇妙な感じだ。他の仲間より平均で時速15マイルは速く移動した。
そして、ようやくブラドノックへ。街道が分岐し、橋があり、鮭の川がある。そしてパブと蒸溜所。これでもし海がなければまるで天国のような場所だ。
デイヴがいた。2時間前に着いたということだが、威勢の良い蒸溜所のアイリッシュ・オーナー、レイモンド・アームストロングが川のほとりにある素晴らしい庭園でデイヴを接待してくれていた。
スーパーブレンドのために、レイモンドは出し惜しみをしなかった。11種のサンプルが用意されたのだ。11も、だ。シェリーカスク、バーボンカスク、リフィル樽、巨大なホグスヘッド。ロブと私はテイスティングに挑んだが、過剰なる熱狂というべきだっただろう。結局バイクは一晩中停められたままだった。