蒸溜所ツーリング【6日目&7日目/全7日】

June 22, 2013

蒸溜所をバイクで巡り、「ジャーニーブレンド」をつくりあげるツーリングもついに最終回。ブラドノックから最終目的地グレンギリー、グレンタレットへ向かい、長い旅路の集大成となるブレンドが完成する。

旅のチームは以下の3人。ウイスキーマガジンのロブ・アランソン(RA)、BBCスコットランド代表のトム・モートン(TM)、そしてカメラマンのケン・ハミルトン(KH)である。それぞれの手記を紹介する。

6月7日

ブラドノックからオールド・メルドラム
280マイル

RA:トムは早起きして、早く出発した。エア・クラシック・バイクショーで栄えあるリボンカットの役を引き受けているのだ。シングルモルトTVのクルーとケンと私はオールド・メルドラムグレンギリーへむけて先行グループとして北上することに決めた。トムとはグレンギリーで会うことになる。これが今回の旅で一番長い移動になるだろう。エンフィールドのペースで進むには賢い選択だったと思う。それでもバイクこそスコットランドを探索するのに真に役立つ道具なのだ。

ここまで、この土地の多くを眺めてきた。オークニーからアイラそしてボーダース。どの土地も満足とスリルを与えてくれた。フォート・ウィリアムの緊張感のある夜でさえ、不思議な魅力を兼ね備えていた。

目的地グレンギリーに到着するまでは、特に障害はなかったが、到着したときには既に閉まっていた。メルドラム・アームスでの一夜はとても楽しく、我々は存分にリラックスした。明日の早起きは無しだ。

KH:最初にさしかかったのは、ギャロウェイ・フォレスト・パークからニュー・ギャロウェイに至る風の強い道だった。風景、地形に口をあけて見蕩れ、クラッターリングショーズ・ダムではバイクの写真を撮った。

グレンギリーは閉まっていたが、守衛は我々にホテルへの道を教えてくれた。ロブとポールは明らかにこのあたりの方言であるドリックには不慣れであるようだ。だから彼らが熱心に頷いたり、顔をしかめたりしながら運転して、間違った角を曲がったりするのを見るのは面白かった。ホテルに着くと、既にトムがいて、エンフィールドの悪口を受付係に吹き込んでいた

TM:この先のバイクでの旅はバスタブに浸かっているように簡単である。天気も良い。アバディーンまではすべて車両専用道路だ。グラスゴーグラナイトの間の道はスコットランドの中で私が一番移動する道なので、ほとんど自動操縦のようなものだった。

オールド・メルドラムに着いたのは午後3時である。そして一度訪れた事があったにもかかわらず、蒸溜所を見つける事ができなかった。

1992年の記憶通り、グレンギリーは大きく、古く、そして印象的だった。今は行われていないが、当時はフロアモルティングを全面的に採用していた。品質のために必要だったのだ。多くの人たちから評価はされなかったが、私はデリケートでバターっぽいモルトに惹かれるものがあった。とはいえ私もマイケル・ジャクソンも他の人々同様に、あまり評価してはいなかったのだが。

 

6月8日

オールド・メルドラムからマットヒルへ
125マイル

RA:グレンギリーではマネージャのケニー・スミスに会った。ケニーは我々を直接熟成庫に連れて行き、カスクを一緒に選んだ。蒸溜所の説明や案内は無しだ。ただ我々が探しているものの説明と、ここまでの旅の様子を話しただけである。

繰り返すが、運転をしなければならないので、もちろん飲むわけにはいかない。ノージングだけでサンプルを選び出した。グレンギリーお馴染みの甘く、トフィーの香りがあり、樽のヒントが微かに残るものである。

ついに、歓声を挙げながら我々はグレンタレットの門をくぐった。巨大なグラウスの置物の横を通り過ぎた。ここはフェイマスグラウス本拠地であり、マスターブレンダーのジョン・ラムゼイに会うための完璧な場所である。ここでラムゼイ我々が集めて来た4種類の部品(モルト)をブレンドしてくれるのだ

5番目の部品グレンタレット自身から提供される。ディスティラリーマネージャーのニール・キャメロンが熟成庫の重い鉄の扉を開けると。お馴染みの支え木と熟成の匂いがやってきて、毛布のように包み込む。

さあ魔法の始まりだ。ときどき私は他人の考えに直接触れたくなる。ジョンがブレンドを行っているときに、その頭の中で何が起きているかを本当に知りたいのだ。

言葉はいらない。これは実直で実際的な手法なのだ。少しの熟成、少しのスパイス、素性の良さ、そしてピートのヒント。

彼によるブレンドをとても素晴らしいと表現するだけでは、まだまだ控え目な言い方である。

1,000マイルに及ぶ珍妙な旅が、旅の味わいと忘れられない風景の全てが、ひとつのグラスに集められた。別れを告げ、最後のホテルに向かう私の頭の中は旅の思い出に満ち満ちていた。このようなことを成し遂げたとはとても信じられない。

KH:グレンギリーの熟成庫は素晴らしかった。我々はサンプルを収集したが、味見(サンプリング)できない。運転しなければならないのだから。

ジョン・ラムゼイに会うためにクリエフへ向かう。これは仕事である。ついにこれまでのサンプル達が取り出され、ブレンドのために我々は会議室へと向かった。

ジョンは器具を広げていた、ビーカー、ピペット、湿度計、比色計、グラス。そしてまず、すべてのサンプルのノージングから始めた。次にそれぞれをテイスティングする(もちろん酒は吐き出す)。ジョンの表現はこれまで聞いてきたマーケティングやジャーナリズムによる表現とは全く異なっていた。

ジョンが最初のブレンドを混合した。10mmのサンプル、それで十分だった。素晴らしい香りがする。グラスを回すとまた違った香りを感じる事ができる。仕事は完成した、と考えたが、最初のブレンドで完結してしまうとは考えにくくはないだろうか……。我々はさらに、もう少しブラッドノックを使って試してみた。

これは一体どういうことだろうか。実際のところ、今度の結果はあまり良くないのだ。よし、もう一度、今度はもっとピーティなウイスキーを目指してキルホーマンをもう少し足そう。いや駄目だ。やはり最初のものが正解なのだ。

この地を去る前に、ジョンを片隅に連れて行き聞いてみた。「ジョン、銅とスピリッツの相互作用についてなんだけど……」ジョンは説明してくれた。これで多分謎は解けたものと思う……。

TM:グレンギリーは素晴らしいダネージ(樽の支え木)の倉庫を持っていて、乱雑な通りや芝生の上にそれは広がっていた。

我々はふたつのサンプルのノージングを行った(前出の通りバイク移動の日なので、口に含むことはしない)。1999年のバーボンカスクを選んだ。私にとって、グレンギリーの良い所を見せてくれるものだった。バタースコッチ、やや強めのバニラ、微かなピートのヒント

さて、出発だ。マスターブレンダージョン・ラムゼイが呼んでいる。ジョンは半袖の白いシャツにネクタイ姿のビジネスマンのような出で立ちである。この組み合わせは、私の中で恐ろしくデキる奴という印象と結びついている。

我々は熟成庫に向かってゆっくりと歩いた(バイク用ズボンを穿いているので、ますますゆっくりとした足取りとなった)。
樽は事前に選んであった。3つとも素晴らしい出来である。ザ・フェイマスグラウス・エクスペリエンスのレストランで味見をするために、我々は再びゆっくりとした足取りで戻った。

次に我々に起きたことは、天啓と教育である。ほとんどは天啓となった。ウイスキーに対する「わかったような態度」や「ありきたりの褒め言葉」がすべてはぎ取られるような経験だったのだ。

ジョンはプロだ。それぞれのサンプルは正確に20%の水が加えられて試された。彼の表現の基準は精密で意図的に制限されている。蜂蜜、ドライ、ピート、シェリー、オーク、スイート、柔らかい。まるで偉大な技術者アイザムバード・キングダム・ブルネルの前でメカーノ(知育玩具)を手にした少年のような気持ちにさせられた。

核となるスキルは永年にわたる経験に基づくものである。それに鼻、口、そして直感が加わる。ジョンの驚異は真に特徴的で肯定的なやり方ではないかと思う。注ぐ、完了、加水、完璧。これはまさにグラスの中のスコットランドである。スコットランドに点在する蒸溜所を訪れて完成したのだから。

3人の1000マイルにも及ぶ、長く、楽しくも辛いツーリング「ジャーニーブレンド」はこのブレンドの完成を以て幕を閉じた。ジョン・ラムゼイの力によってこのブレンドは成功したが、これが終わりにはならないだろう。
スコットランドにはまだ訪れるべき蒸溜所があるのだから。
蒸溜所を巡るなら、彼らのようにバイクで訪れてみてはいかがだろう。 ただウイスキーを楽しむのではなく、スコットランドを体感する旅になることだろう。

 

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