集中講義 樽を知る 【その2/全3回】
全3回にわたり樽がウイスキーに与える影響を特集する。今回は樽がもたらす味と香りの変化を比較するため、山崎蒸溜所と秩父蒸溜所のサンプルを提供いただき、テイスティングした。
←集中講義 樽を知る 【その1/全3回】
第2課 カスクの違いを味わう
シングルモルトの風味に、オークが重大な影響を与えるのはご存知の通り。しかしその効果を特定するのは難しい。そこで我々はサントリーとベンチャーウイスキーにサンプルを提供してもらった。同じ蒸溜所、同じスタイル、同じ熟成年ながら、異なる種類の木で貯蔵したウイスキー。テイスティング結果は、学びの宝庫である。
テイスティング:デイヴ・ブルーム
アメリカンオーク
色:淡い麦藁色。
香り:とても爽やかで、香り高く、濃厚。エステリーかつフローラルで、わずかにバニラやバターを感じる。レモンと焼きリンゴに、未熟な青いバナナの香り。加水すると苔の匂いを増すが、ペストリーのような甘味も覗かせる。
味:香りで感じるよりも豊満。畳、カスタードで包んだフルーツ、熟れた洋ナシ。フローラルな香りは、ライラックに変化する。爽やかな酸。
フィニッシュ:白桃。
ミズナラ
色:ゴールド。
香り:豊かで力強いアロマ。ココナッツ、パイナップル、バラ、軽やかな芳香、ラズベリー、焼いた果物。少しオイリー。爽やかな酸。旺盛な白檀の香り。
味:オーク由来の好ましい苦味と甘味。引き締まった味。赤い色の果実。タンニンはミディアム。アカフサスグリや、燻した木材。絹のような口当たり。コショウの風味。
フィニッシュ:サクランボ。
ヨーロピアンオーク
色:明るい赤褐色。
香り:広がりと深みがあり、樹脂の匂いと甘く豊かな香りを感じる。豊かな糖蜜、ダークラム、完熟バナナ、レーズン。
味:香りよりも捉えやすい味わい。ほのかな革の匂い。杉。ナツメヤシや煮スモモなどの黒っぽい果実。確かな甘味が中央でバランスを取っている。
フィニッシュ:プルーン。
結論
すべてに共通するのは、舌の真ん中で柔らかさと厚みを感じさせるフルーティーなスピリッツの重み。3種類のウイスキーはこの特徴を共有しながら、各々の個性を加えている。リミックスされた曲のように、ウイスキー自体は同じだが違いは明白だ。
最も繊細なのはアメリカンオークで、フローラルな特性の向こうから青っぽいフルーツがやってくる。このフルーツが赤くなり、より酸を感じさせるのがミズナラ。確かな酸味のそばにアメリカンオークよりずっと強い芳香が寄り添っている。木香の強さと類い稀な芳香がエキゾチックに感じるのだ。ヨーロピアンオーク(シェリー樽)ではそのフルーツが黒っぽくなり、ドライフルーツのような感触を伴う。このウイスキー最大の魅力は、タンニンが強調されていながら、スピリッツの確かな甘味がドライな特性とうまくバランスをとっている点である。
秩父蒸溜所 3年
フレンチオーク
色:非常に淡い色。
香り:わずかにイースト菌を感じさせ、やや粉っぽい若々しさがある。アセトン(マニキュア液)や黄色いスモモの匂いを感じ、やがてアグリコールラムのような青っぽい草花や野菜を思わせる特徴が開いてくる。
味:すっきりとしたスピリッツの甘味。ミントやカルダモンの繊細な風味を伴って、旺盛な香辛料が前面に押し寄せる。加水すると、ライム系の柑橘類やまだ熟れていないメロンの風味が現れる。
フィニッシュ:ウイキョウ。
シェリー
色:ゴールド。
香り:フレンチオークよりも丸みがあり、前面に出てくる感じ。はっきりとしたスルタナレーズンの香りと甘味がある。黄色い果物。加水するとバターのようなまろやかさが出る。
味:丸みがあって柔らかな味。ケーキの素(バター、砂糖、ドライフルーツ)。ハーブのような草を刈った風味もあり、やがてウイキョウとグリーンハーブに戻ってくる。
フィニッシュ:少しピリリとする。
ミズナラ(パンチョン)
色:鮮やかなゴールド。
香り:旺盛なスパイスに、ココナッツとカラメルのような匂い。全体を包むエキゾチックな芳香性。加水すると多量の丁香、桂皮、香木を感じる。
味:ナツメグ、バラの花びら、白檀などの香りを伴うスパイシーさ。切れ味と酸味がある。草の匂いは、竹の匂いにとって代わる。
フィニッシュ:すっきりと甘い。
アメリカンオーク(バレル)
色:淡い色。
香り:乾燥した草で、より甘味が強い。加水してしばらく時間をおくと、ココナッツクリームの香りが現れる。
味:これもピリッとくるが、旺盛な西洋スグリの風味を伴っている。例によって草っぽいが、口蓋はスピリッツの重みと甘味で満たされる。厚みがあって濃厚な味。
フィニッシュ:レモングラス。
アメリカンオーク新樽(ホグスヘッド)
色:鮮やかな琥珀色。
香り:即座にわかる熟れた果実、クレームブリュレ、タフィーなどの香り。スパイスの感触はわずかだが、若々しさは明確。わずかな松の風味、それに甘味。ナツメグ。
味:厚みと丸みを感じさせるテクスチャー。焦げた木の感触が少し。カラメルとブラックベリー。ピリリとした舌触りがここにもある。ハチミツのニュアンス。
フィニッシュ:ジューシー。
結論
明らかに若いスピリッツ(それでも非常にすっきりとよくできている)のテイスティングである。全体的に山崎よりも蒸溜所の個性が明確だが、オークの影響はまだ出始めたばかりだ。甘味、草の匂い、ピリリと明瞭な柑橘系の風味などを共通の基調としながら、それぞれのバリエーションがある。肝の据わったウイスキーだ。
フレンチオークにはわずかなトゲがあり、ドライフルーツの穏やかな風味をもたらしているリフィルのシェリーバットに比べて、明らかにまだオークが完全に目覚めてはいないことを示している。ここでもミズナラは酸と芳香を加え、ファーストフィルの樽らしく他のウイスキーよりもすでにオークの影響が強い。
リフィルのバレル(アメリカンオーク)は、爽やかなフレンチオークと柔らかなシェリー樽のちょうど中間に位置づけられる。それに対してアメリカンオークの新樽は、オークの影響がすでにスピリッツに統合されつつある。スピリッツとカスクの対話を、ほとんど支配しているような状態だ。
このテイスティングでは、それぞれのオークの特性を知る素晴らしい体験ができた。フレンチオークはスパイス。アメリカンオークはバニラやクレームブリュレ。シェリーバットはドライフルーツ。ミズナラはエキゾチックな芳香。しかしながら、フレーバーはフィルの回数によっても大きく異なってくる。