大地と海のコニャック【前半/全2回】
フランスのカミュ社が、2つのプレミアムコニャックを日本で新発売する。どちらのボトルも、生産地の風土が育んだユニークなフレーバーが特長だ。2回シリーズの前半は、コニャック地方の心臓部ボルドリーから「カミュボルドリーVSOP」をご紹介。
文:WMJ
ブランデーは果実酒からつくられる蒸溜酒。なかでもフランスのコニャック地方で生産されるブドウ原料のブランデーだけがコニャックと呼ばれる。AOC(原産地統制名称)で規定され、グランド・シャンパーニュ、プティット・シャンパーニュ、ボルドリー、ファン・ボワ、ボン・ボワ、ボワ・ア・テロワールという6つのクリュに区分され、ブドウの品種はユニ・ブランを主体にフォルブランシュやコロンバールも用いられる。どれも酸が強めの品種だが、熟成中にこの酸が重要な香味成分に変化するのだ。ブドウを収穫した年の10月1日から翌年の3月31日までにシャラント式ポットスチルで蒸溜し、1度目の蒸溜で約28%、2度めの蒸溜で約70%の「オー・ド・ヴィ・ド・コニャック」と呼ばれるスピリッツができる。コニャックを名乗るにはオーク樽で最低2年以上の熟成が必要であり、熟成期間の長さで等級が決まる。VS(Very Special)は2年以上、VSOP(Very Superior Old Pale)は4年以上、XO(Extra Old)は6年以上の熟成を経た原酒をブレンドしたものだ。このたび日本で新発売される「カミュボルドリーVSOP」は、コニャック地区で最も希少なボルドリー地区のブドウ(コニャック全体の5%)のみを使用しており、数量限定のためボトル1本ごとにナンバリングが施されている。カミュ社はこの地区では最大となる180ヘクタールの畑を所有し、5世代にわたって個性的なコニャックをつくり続けてきた100%自己資本の独立系家族経営コニャックメーカーだ。
ボルドリーというクリュの名は、コニャック地方で最初にワイン造りを始めた農家の名前に由来している。地区の中央にはシャラント川が流れ、かつては水上交易で英国やオランダへワインが運ばれた。カミュ社の創設者であるジャン=バティスト・カミュが、この地で初めてコニャックをつくり始めたのは1863年のこと。そんな歴史からも、ボルドリーは「すべてが始まる場所」と呼ばれるコニャックの心臓部なのである。
「カミュボルドリーVSOP」が注がれたグラスを片手に、テイスティングが始まる。手引きしてくれるのは、カミュ社のグローバル・ブランド・アンバサダーを務めるフレデリック・ドゥゾジエ氏だ。グラスを鼻に近づけると、花やバニラのようなアロマに包まれる。ほんの少量だけ口に含むと、滑らかな口当たりとリッチな味わいが印象的だ。
「カミュボルドリーVSOPには、4年から32年熟成の原酒をブレンドしています。熟成の秘密を少しだけ明かすと、ポイントになるのは2種類のセラー(貯蔵庫)。湿度の低いドライセラーは乾燥しているため、水分が揮発してアルコール度数の高いドライな原酒になります。一方のヒュミッドセラーは水よりもアルコールの揮発が多いためアルコール度数が低くなり、丸みのある飲み口になります。このふたつをうまく管理することで複雑なフレーバーが生まれるのです」
ヒュミッドセラーのほうが、いわゆる天使の分前が多いのだと説明するフレデリック氏。年間2.8%も蒸発するというから、この地方の天使たちは毎年2,200万本ものコニャックを飲み干していることになる。
風土の特性を最大限に引き出す
フレデリック氏いわく、ボルドリー地区はマイクロクライメートに富んでいる。ブドウ畑の限られた範囲内でも、気候や土壌などの微妙な差異が豊かなのだ。
「収穫直前にブドウ畑を歩くと、果皮に焼けたような色がついているのに気づきます。ちょうどバカンスで日焼けしてきた人のような色ですが、重要なのはこの果皮に含まれるベータカロテン。ベータカロテンは醸造の過程でベータイオノンに変化し、スミレやアイリスのような香気成分になります。フローラルな香りがお好きな女性なら、香水にも使えるほどですよ」
そしてボルドリーには、素晴らしいテロワールもある。他のコニャック地方とは、土壌の層が微妙に異なるというのだ。
「コニャック地方のクリュがどこも石灰質の土壌であることに違いはありませんが、ボルドリーは同じ石灰質でも土壌が3層構造になっています。一番深い石灰岩は、爽やかさや酸味のもと。水はけのよい中間の粘土層はふくよかさのもと。そして表層の火打石からはミネラル感がもたらされます。地中深くまで張ったブドウの根から、複雑な味わいの要素が得られるのです」
蒸溜の方法は、150年以上前から変わっていない。特にワインの底に沈殿した澱(おり)ごと蒸溜するのが、カミュ社のこだわりだ。
「この澱には、豊富な香気成分になるエステルや、リッチな風味のもとが含まれています。大量生産を目指さないカミュ社では、今でも小型のポットスチルで高品質を維持しています。自然なフレーバーが最大の優先事項なので、オーク樽のタンニンは最低限に抑えるよう配慮しています」
ストレートのカミュボルドリーVSOPとは別に、フレデリック氏は特別なカクテルも用意してくれた。その名も「ボルドリー・フレシェール」。まずはミネラルウォーターにレモンジュースとショウガを入れて軽く煮立て、粗熱をとってから凍らせる。こうしてできたジンジャーアイスを、ボルドリーVSOPが入ったグラスの中に落とせばできあがりだ。ショウガの温かな風味が、ボルドリーのフレッシュさ、ミネラル感、フローラルな特長などを際立たせる。
「温度が変化するにつれ、アロマが徐々に変化していくのがわかりますか? このスミレを思わせるフローラルな香りが、ボルドリーの真骨頂なのです」
(つづく)
カミュ社の歴史、哲学、商品に関する詳細情報はこちらから。
WMJ PROMOTION