アイリッシュウイスキーの深化を味わう

October 27, 2016

アイリッシュウイスキー最古の蒸溜所として知られるブッシュミルズから、長期熟成のシングルモルトが数量限定で新発売される。初来日したマスターディスティラーのコラム・イーガン氏が、テイスティングを通じてアイリッシュウイスキーの魅力を解説。

文:WMJ

 

ウイスキーの起源があるといわれるアイルランドで、400年以上の歴史を持つブッシュミルズ蒸溜所。2002年よりマスターディスティラーを務めるコラム・イーガン氏が待望の初来日を果たし、ブッシュミルズの今を伝える5商品をテイスティングで紹介するセミナーが開催された。

アイルランド屈指の歴史を誇るブッシュミルズ蒸溜所には、理想のウイスキーづくりに必要なすべての条件が揃っている。

「ブッシュミルズのウイスキーは、今も昔も原材料がたったの5つしかありません」

イーガン氏はそう語り始める。第1の原材料は水だ。1608年に国王からウイスキーづくりを認可されたのも、ここが素晴らしい水源に恵まれた場所だから。蒸溜所から4キロ離れた水源は、火山活動で生まれた有名なジャイアンツ・コーズウェーと同様の岩石地帯を経由して、ピュアで独特なミネラル構成の水を供給してくれる。

第2の原材料は大麦麦芽(モルト)。スコッチウイスキーのように燻すのではなく、自然に空気乾燥させて製麦するのがブッシュミルズの流儀である。そのためスコッチウイスキーにみられるスモーキーな風味はなく、クリーンでピュアな味わいが際立つ。

第3の原材料はアルコール発酵を促す酵母(イースト)で、第4の原材料は樽材となる木。アイルランドの法律上、少なくとも3年間はオーク樽で熟成しないとウイスキーを名乗れない。そして第5の原材料は「時間」だというのがイーガン氏の考えだ。

ウイスキーづくりの工程も、細部に特徴が現れる。まず糖化の工程では粗く粉砕した麦芽のグリストを63〜85℃の熱湯に混ぜ、硬い麦芽に閉じ込められていた糖分をお湯に溶け出させた麦汁(ワート)を作る。発酵に回さない殻(ハスク)は牛の飼料になるのだという。

この麦汁に酵母を入れて約50時間発酵させることで、アルコール度数約8%のもろみ(ウォッシュ、通称ビール)ができる。ブッシュミルズは他の多くのアイリッシュウイスキーと同様に、このもろみを3回蒸溜する。1回目の蒸溜で20%のアルコール度数になり、2回目の蒸溜で約70%にまで純度を高める。多くのスコッチウイスキーはここで蒸溜を終えるが、ブッシュミルズはもう一度蒸溜することでアルコール度数を70%から85%に上げる。

「私たちが求めている味を出すためです。3回蒸溜したスピリッツには、軽やかでフルーティーな花の香があり、風味も極めてスムーズになります」

蒸溜したばかりのニューメイクスピリッツは無色透明だが、オーク樽の中で熟成されると黄金色に染まってくる。新樽を使用しないのは、軽くまろやかなブッシュミルズの特徴が、木の抽出成分に圧倒されるのを防ぐため。バーボン樽とシェリー樽による熟成が基本になるが、ポルトやマディラなどの樽を調達してさまざまな熟成香のバリエーションも生み出す。

 

さまざまなブッシュミルズをテイスティング

 

シングルモルト商品もブレンデッド商品も、伝統の3回蒸溜によるスムーズなモルト原酒の味わいを最大限に活かしている。

テーブルには、ウイスキーが入った5つのグラスが置かれている。コラム・イーガン氏は、まずスタンダードな「ブッシュミルズ」のグラスを手に取った。

「とてもフレンドリーなウイスキーです。グラスに鼻を近づけると、さらにグラスに鼻を引き込まれるような感じがするでしょう」

刺々しさがなく、穏やかな香りで誘ってくれるのがブッシュミルズの特長だ。モルトウイスキーとグレーンウイスキーのブレンデッドウイスキーであるが、モルト比率は約50%とかなり高く、またブッシュミルズ蒸溜所のモルト原酒のみを使用している点が一般的なブレンデッドスコッチウイスキーと異なる。バーボン樽熟成の原酒のみを使用しているため、心地よいバニラやキャラメルの香りがたっぷりとある。まろやかな飲み心地で、飲み干した後に舌を動かすとバニラのフルーティーな風味が口のなかに広がる。

次のグラスは「ブラックブッシュ」だ。スタンダードの「ブッシュミルズ」に比べると明らかに色が濃い。これはシェリー樽熟成の原酒を使用しているためで、ヨーロピアンオークの風味がブッシュミルズのフルーツ香やスパイスを倍増させている。熟したベリー系フルーツやアーモンドのようなナッツ風味が印象的だ。モルト比率は80%もあり、グレーンウイスキーもリッチなタイプを合わせているようだ。

「舌の上にアロマが浮かぶ感触。飲むと、喉にナッツの風味があるでしょう。舌を動かして、フルーツ香が広がる感覚を確かめてください」

3つめのグラスから、シングルモルトになる。アイリッシュウイスキーでも、シングルモルトの定義はスコッチと同様だ。単一のブッシュミルズ蒸溜所で、100%大麦モルトからつくられたウイスキーである。

「ブッシュミルズ シングルモルト10年」には、実際には約13年までの原酒もブレンドされている。香りはバニラ、ハチミツ、モルト由来の穀物の甘味。3回蒸溜の滑らかさが際立ち、クリーンですっきりした特長が明確である。口に含むと、舌触りもやさしい。バニラ、リンゴ、菓子パンの香り。舌の奥はドライで、舌先では甘味。対象的な味が同時に感じられ、コントラストがエレガントにまとめられている。

「ニューヨークで、22種類のアイリッシュウイスキーを比較するテイスティングがおこなわれたときに、ベストに選ばれたのはこのブッシュミルズ10年でした。それくらいバランスのとれた逸品なのです」

次のシングルモルトは「ブッシュミルズ シングルモルト16年」。赤みがかった色がまず目を引く。バーボン樽とシェリー樽でそれぞれ16年熟成した原酒を、ポートワイン樽の中でマリッジさせて6ヶ月間後熟したものだ。3種類の樽の特長を授けられたウイスキーは豊かなアロマが特長になる。

赤みがかかった色は、ポート樽の影響だ。「1時間でも楽しめるようなアロマ」というイーガン氏の言葉に誇張はない。ミルクチョコレート、ハチミツ、アーモンドような香り。トロピカルフルーツのような後味もある。

「喉でポートワインの甘味、その少し上でナッツの香り、ほっぺたでハチミツの甘味を同時に楽しんでください」

 

長期熟成で輝くブッシュミルズの底力

 

比較テイスティングで、各ボトルの多彩な魅力を証明したコラム・イーガン氏。ジョークの絶えない陽気なマスターディスティラーである。

そして最後に味わうのは、新発売となる「ブッシュミルズ シングルモルト21年」である。長期熟成のため、数量限定の希少なウイスキーだ。最低19年間をオロロソシェリー樽とバーボン樽で熟成し、その後マディラ樽で2年間熟成している。苦味やスパイスを感じさせるダークチョコレートのような感触や、シェリー樽由来の芳醇で甘い香りがあり、ほのかなスパイスとオレンジピールも感じる。口に含むと舌触りは滑らかで、ハチミツや熟成した果実のような風味が舌に絡む。

「一度、唇を開けてから、また閉じてみてください。まだ同じ甘味が感じられるでしょう? この非常に長いフィニッシュが、素晴らしいウイスキーの証なのです」

テイスティングを終えたコラム・イーガン氏が、ちょっと変わったブッシュミルズの歴史を披露してくれた。1890年、ブッシュミルズ蒸溜所は自前の蒸気帆船「SSブッシュミルズ号」を建造してアイルランドを出港。大西洋を横切ってフィラデルフィアとニューヨークにウイスキーを届けた後、シンガポール、香港、上海、そして横浜にも寄港した。少なくとも120年以上前に、ブッシュミルズのウイスキーを味わった日本人がいたのは間違いない。

今回のテイスティングに同席したウイスキー評論家の土屋守氏も、ブッシュミルズの各ボトルを高く評価した。

「ひとつの蒸溜所で、これだけ方向性の異なるブレンデッドやシングルモルトを揃えるのは、スコッチには考えられないこと。ブッシュミルズは蒸溜所の拡張も進めており、まだまだ大きな潜在力を秘めています。これからが本当に楽しみですね」
 


ブッシュミルズ シングルモルト21年

容器・容量 : 瓶700ml

アルコール分 : 40%

発売日 : 2016年11月1日(木)

価格 : オープン価格

 

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