ブナハーブン蒸溜所の現在【第3回/全3回】
文:ガヴィン・スミス
ブナハーブン蒸溜所の仕込み水は、マーガデイル川の湧き水を使用している。純粋な湧き水だけでウイスキーをつくるアイラ島で唯一の蒸溜所である。
モルトはノンピートとヘビリーピーテッド(35~45ppm)の併用だ。伝統的な容量12.5トンのステンレス製マッシュタン(天蓋は銅製)で、12時間ごとに糖化がおこなわれている。発酵はオレゴンパイン材の木製発酵槽が6槽(容量100,000Lに66,500Lを入れて使用)。発酵時間は55~100時間である。
蒸留設備は、ウオッシュスチルが2基(容量各16,625L)とスピリッツスチルが2基(容量各9,500L)。年間生産量は純アルコール換算で250万Lだ。
昨年からの大改修で、古い貯蔵庫は解体された。それでも、アンドリュー・ブラウン蒸溜所長はウイスキーの貯蔵と熟成にかつてないほど力を入れている。
「ブナハーブンとして、シングルモルトウイスキーの品質にしっかりと注力していきます。すべてとは言えませんが、蒸溜したスピリッツの多くをアイラ島内で熟成する予定です。さまざまな大きさで建設される貯蔵庫の収容力は、14,500本程度になるでしょう」
創業当時から残っていた数棟の建物が改修され、新しい樽詰めエリアが建設されている。生産設備のある建物も改装が進められ、やや手作業が多めだった生産工程もかなりオートメーション化が進むことになった。アンドリュー・ブラウンが説明する。
「生産プロセスをモニタリングするテクノロジーが導入されます。ニューメイクスピリッツの生産を管轄するのは、経験豊富なオペレーターのチームです。彼らがいるおかげで、スピリッツの品質をテクノロジー任せにすることがありません。このような情熱が、最終的に製品のなかで輝きを発するのです。ここで生産したスピリッツの50%以上がシングルモルトウイスキーとして販売されますが、特に大きな市場は英国、米国、フランス、ドイツ、台湾です」
ブナハーブンは、長年にわたって「アイラでもっともマイルドなシングルモルト」という定評で知られてきた。アイラらしい強烈なピート香はなく、大型でゆっくりと加熱するスチルが蒸溜時の還流を促す。その結果、アイラの中でも比較的軽やかなスタイルのスピリッツに仕上がるのだとアンドリュー・ブラウンは語る。
「ウォッシュスチルの高さは、アイラ島でナンバーワン。形状は玉ねぎ型で、スチルの容量の47%だけを使ってもろみを蒸溜しています」
ヘビーなピート香も織り交ぜた最新のラインナップ
エドリントン傘下の時代には、ヘビリーピーテッドのスピリッツも相当量を生産していた。その習慣は今でも続いており、ピート香の効いたブナハーブンは「モーイン」と呼ばれる。モーインとはゲール語でピートのこと。現在、年間生産量の40%はピーテッドモルトを使用したスピリッツとなっており、ピートの強さも35〜45ppmに高められた。
ピートの効いたアイラ産のスピリッツは、サードパーティーのボトラーやブレンダーからの需要が多い。ブナハーブンのピーティーなスピリッツは、近年特に人気が高まっている。伝統的なアイラ産のピーテッドウイスキーが入手困難になっていることも需要増の一員だ。蒸溜所がオフィシャルで発売したピーテッドモルトのウイスキーは、2004年に「モーイン」の名でリリースされた6年熟成のウイスキーだった。
現在のブナハーブンのコアレンジには「ブナハーブン12年」「ブナハーブン18年」「ブナハーブン40年」、それに熟成年数を表示しない「ステュウラーダー」もある。これはファーストフィルとセカンドフィルのシェリー樽で最初から熟成されたウイスキーだ。ピートの効いたシングルモルトは「クラックモナ」と「トイテックアダー」である。「クラックモナ」は積み上げられて乾燥中のピートを指す言葉。「トイテックアダー」にはバーボン樽とシェリー樽で熟成されたモルト原酒が使用されている。
ディステルの「リミテッド・リリース・コレクション 2019」には、「ブナハーブン 2007 ポートパイプフィニッシュ」「ブナハーブン 2007 フレンチブランデーフィニッシュ」「ブナハーブン 1988 ポマルサラフィニッシュ」が含まれていた。今年はさらに同様のボトリングのリリースが期待されており、蒸溜所の公式ウェブサイトを見れば他にも豊富な豊富な特別エディションが予定されている。
2010年以来、ブナハーブンは以前なら40%または43%だった主要製品のアルコール度数を46.3%でボトリングしてきた。そしてすべてのウイスキーが着色料もチルフィルターも使用していない。
アンドリュー・ブラウンは、2020年にもエキサイティングなリリースを予定していると教えてくれた。ウイスキーファンなら、今年も進化するブナハーブンから目が離せない。