高品質なカルバドスづくりの伝統から、独自のシングルモルトウイスキーを生み出したシャトー・デュ・ブルイユ。飲料王国の誇りを胸に、フレンチウイスキーが世界を驚かせる日はもうすぐだ。

文:マリー=エブ・ベンヌ

 

IT業界で成功を収めたフレデリック・デュサールが、経営の傾いたシャトー・デュ・ブルイユを購入したのは2020年のこと。だが新事業であるフレンチウイスキーづくりは、セラーマスターのフィリップ・エティニャールが2017年に思いついたことだ。

ウイスキーの生産は、論理的に正しいプロセスで始めなければならない。次のステップは、ブランドの総支配人を25年以上にわたって務めてきたディディエ・ベデュに任された。ディディエは当時のことを回想する。

「フレンチウイスキーの将来性は、みんなが期待していました。ついに自分たちの番がやってきたのかという感慨です。考えてみれば、フランスではみんなスピリッツづくりの知識を持っています。でも本気でウイスキーづくりに取り組んだことはありませんでした。そこへ来てイギリスがEUを脱退し、おまけに新型コロナウイルスの感染が広がったことで状況が変わり始めています。地元産の製品を購入したいという消費者が増え、地域ごとの流儀について知りたがる人もたくさん現れましたから」

シャトー・デュ・ブルイユでのウイスキーづくりは、ゴールデンプロミス種100%の大麦を原料にしたシングルモルトという路線に決まった。このゴールデンプロミス種は1950年代に開発された品種で、1960年代半ばから1980年代半ばまでスコッチウイスキーの黄金時代を支えた実績がある。

この大麦を伝統的な手法で製麦し、穏やかにキルニング(火入れ)を施す。これは大麦本来の穀物香をなるべく保全するためだ。熟成樽の種類や構成にこだわるウイスキーブランドは多いが、シャトー・デュ・ブルイユは、まず大麦原料の個性を優先することで他社との差別化を図ることにしたようだ。フレデリックが語る。

「どうせウイスキーをつくるのなら、我々のカルバドスと同レベルの高品質を主張できなければ意味がありません。そこでまずは、特別な大麦の品種を選ぼうと考えました。世界でつくられているウイスキーは、そのほとんどが似たようなウイスキー向けの品種を原料としています。でもシャトー・デュ・ブルイユのセラーマスターは、もう使われなくなった昔の品種を試してみたいと考えました。それがゴールデンプロミス種を選んだいきさつです。この大麦品種へのこだわりは、未来を見据えた戦略でもありました。誰も使わない大麦品種を探すハンターのような存在になりたいんです」
 

ユニークなモルト香で勝負したラインナップ

 
シャトー・デュ・ブルイユがまずリリースした3種類のウイスキーは、いずれもアルコール度数46%でボトリングされた。これらのウイスキーには、それぞれ異なった3種類の樽熟成を施している。

「ル・ブルイユ シングルモルト オリジン」は、フレンチオークの新樽とアメリカンオークのバーボン樽(バレル)で熟成したもの。蒸溜所チームにとっては、これがゴールデンプロミス種の大麦モルトをもっとも純粋に表現した味わいなのだという。テイスティングノートには、モモ、洋ナシ、ヘーゼルナッツ、繊細な木香、フレッシュなモルト香などの用紙が記されている。口に含むと甘いアーモンドや亜麻仁のアロマがあり、後からライム、バニラ、ドライフルーツなどの味わいが強まってくる。フレッシュでまろやかな口当たりが舌を包み込むようだ。

クラシックな大麦品種で香り高いスピリッツを蒸溜し、フランスならではの樽熟成を施す。発売された3種類のシングルモルトは、この国の高いポテンシャルを証明している。

「ル・ブルイユ シングルモルト シェリーオロロソフィニッシュ」は、オリジンにオロロソシェリー樽でフィニッシュを加えたもの。この後熟によって、ウイスキーにクルミ、プラム、ヘーゼルナッツ、リコリスなどのフルーティでリッチな香りをもたらしている。もともと備わっているモルトの甘味や、軽やかなバニラの樽香も健在だ。口に含むとサワードゥ、ココア、生のイチジクなどの風味が現れる。その後からチェリーの風味が現れ、キルシュ、赤いフルーツ、オレンジの砂糖漬けのような印象も感じさせる。うっとりするような味わいと甘味が混ざりあい、素晴らしいまろやかさに包まれている。

「ル・ブルイユ シングルモルト フィニニシオントゥルべ」は、ピート香の強いスコッチウイスキーを熟成した樽で後熟を加え、スモーク香のベールを通って蒸溜所特有のシリアル香が輝くような印象になっている。テイスティングノートによると、香りは少しスモーキーな香水のような趣き。そこに藪、月桂樹、シリアルのような香りも伴っており、トーストやローストを施した樽材の香りもある。口に含むとピートの風味が満ち溢れ、コショウ、グレープフルーツ、カルダモンのような味を包み込んでいる。フィニッシュには繊細なプラリーヌ、エキゾチックなフルーツ、マンゴーメロンを思わせる余韻がある。

まだ発売されたばかりの「ル・ブルイユ ウイスキー」だが、その知名度はもう世界中に広がっている。ワールドウイスキーアワード2021(WWA)では、ゴールドメダル2つとシルバーメダル1つを獲得した。高品質のウイスキーを首尾よくつくり上げ、ポジティブな反応が世界中から聞こえてくる。このような状況を踏まえ、フレデリックのチームはいよいよ国際市場に本格参入をすべく準備を整えている。

「現在、フレンチウイスキーへの関心は非常に高まってきています。私たちの野心的な目標としては、近い将来にジャパニーズウイスキーのような評判を定着させること。これはきっと叶えられる望みだと確信しています」
 

アジア市場を重視したデジタルマーケティング

 
シャトー・デュ・ブルイユのチームの意欲をかき立てている市場のひとつはアジアだ。マーケティングにも大掛かりな投資をおこなう予定で、特にデジタルマーケティングに力を入れるのだという。オンラインストアを一気に現代化し、3Dで情報が見られるようにする。これはEコマース体験を増強して、主に中国市場へ打って出るためだ。

その次に待っている計画は、ウイスキーの増産だ。すでに巨費を投じて新しいワイナリーを建設し、新樽の大掛かりな調達にも投資している。そして新しい蒸溜所も建設する予定なのだという。

フレデリックが欲しいのは、新しい建物だ。その建物は生産設備を収容しながら、現在の古い建物と同じような煉瓦を使って、新旧の建物で一体感を表現しなければならない。これは16〜17世紀に建てられた古城の周辺の景観を一定に保つためだ。こうすることで、蒸溜所がある土地の産業遺産としての価値を高めたいのである。

これらの業務拡張プロジェクトを推進するため、フレデリックは蒸溜所チームの人員を購入時の27人から36人に増やした。もちろん有名なカルバドスの事業を廃止する気などさらさらない。フレデリックは語る。

「私たちが大切にしている価値観は2つ。それは伝統と確信です。私たちがとるすべての行動の背景では、この2つの価値観が原動力となっています。これまでに培ったスピリッツづくりの知識を使って、卓越した製品をつくりたい。それと同時に、絶え間なく進化も続けたいのです。2023年からは、10万〜20万本のスピリッツを生産するのが目標です」

輝かしいフランスのスピリッツをつくるシャトー・デュ・ブルイユのチームが、新しいウイスキーづくりへの挑戦を加速させていく。そのスピードが滞る予感はまったくない。