ラグ蒸溜所が初めてのシングルモルトを限定発売【後半/全2回】
文:WMJ
グレアム・オマンド蒸溜所長は、新しいラグ蒸溜所で最高品質のシングルモルトスコッチウイスキーづくりを志している。特に意識しているのは、18〜19世紀のクラシックなウイスキーづくり。伝統的な敬意を表しながら、ピートの効いたモダンで個性豊かな味わいを追求する。蒸溜所の設計からわかるのは、力強く、複雑で、土っぽく、ヘビーな酒質を目指していることだ。
ロックランザ蒸溜所(旧名アラン蒸溜所)がロッホ・ナ・ダヴィ湖の水を使用しているのに対し、ラグ蒸溜所は地下水を使用している。そのためラグのほうがややミネラル感が強いという。ピートはスペイサイドのセントファーガス産で、木や草の香りを含んでいる。これが消えかけた焚き火を思わせる穏やかなアロマになるのだ。
原料の大麦モルトは、フェノール値50ppmのヘビリーピーテッド。ピートの効果を分析するため、ノンピートや90ppmの超スモーキーな原酒もつくっている。ロックランザ蒸溜所は軽やかな花の香りを特徴としているが、ラグ蒸溜所の濃厚に曇った麦汁はオイリーで草っぽい味わいを生みだす。
平均72時間の発酵から、2回の蒸溜を経てスピリッツが取り出される。ウォッシュスチルは容量10,000Lで、スピリットスチルは容量7,000L。ウォッシュスチルのネックは太く、ラインアームは下向きだ。あえて還流を控えめにする設計なので、蒸溜速度は毎分11.5Lとかなり速い。毎分6Lのロックランザとは対照的である。
ラグ蒸溜所のスピリッツは、大半がまずバーボン樽で熟成される。その後はオロロソシェリー、ソーテルヌ、ラム、コニャック、カルバドス、ポートなどの多彩な樽で後熟しているのだという。オマンド蒸溜所長は、ラグ蒸溜所から開業第1弾の「イノーギュラルリリース」3種類を日本に持ち込んでくれた。最初の3年間を総括するウイスキーから、ラグ蒸溜所の現在地を確かめてみたい。
期待をはるかに超えた完成度
最初に味わったのは、ニューメイクスピリッツ。度数63.5%で、大麦の香りが濃厚だ。フルーティな香りに、草原を思わせる青っぽい香味。洋ナシやゴムのようなニュアンスもあり、スピリッツ自体の甘味も強い。オマンド蒸溜所長は、おもむろにグラスの中身を手のひらにこぼしてみせた。
「スピリッツを両手にこすりつけ、掌の匂いを嗅いでみてください。まるで大麦畑の中で深呼吸しているような感じになりますよ」
このニューメイクスピリッツは市販されていないが、力強い味わいに蒸溜所チームの明確な意図が表れている。
限定商品の「ラグ イノーギュラルリリース バーボンカスク」は、ファーストフィルのバーボンバレルで36ヶ月間(3年間)熟成している。オマンド蒸溜所長いわく、ラグの個性がストレートに感じられる基本の味わいだ。香りは軽やかで甘く、大地や海の香りも漂っている。口に含むと、舌を包み込む濃厚なテクスチャーに驚く。液体がグラスに張り付くほどの粘度があるため、じんわりと温かな余韻が続く。樽由来のバニラ香とハーブのようなピート香がバランスよく調和している。
2つ目に味わったのは「ラグ イノーギュラルリリース オロロソシェリーカスク」。ファーストフィルのバーボンバレルで30ヶ月間熟成後、小型(容量55リッター)のオロロソシェリーカスクでさらに6ヶ月間熟成したものだ。香りにはココア、レーズン、フルーツ、ナッツなどのシェリー感。口に含むと、甘さの背後に隠れていたピートの風味が前面に出てくる。クリーミーな飲みやすさは、度数50%と思えないほど。たっぷりのフルーツ香に焚き火のようなスモーク香が混ざり合い、最後には塩キャラメルのような余韻が残る。
そして最後の「ラグ イノーギュラルリリース レッドワインカスク」は、ファーストフィールのバーボンバレルで30ヶ月間熟成後、リオハの赤ワイン樽でさらに6ヶ月間熟成したもの。このワイン樽もラグ蒸溜所が特注した小型樽(容量55リッター)だ。クラシックなワイン樽熟成に見られる赤いベリー系果実の風味。そしてやはり焚き火のようなスモーク香があり、最後には良質な赤ワインのようにドライな余韻が残る。水を少し入れるとミネラルの感触が引き出され、フルーツ、ハーブ、塩気などが強まってくる。
グレアム・オマンド蒸溜所長は語る。
「アルコール度数は、ラグらしい香味の濃度を実感していただける50%。着色料とチルフィルターは使用していません。樽を小型化するほどスピリッツとの接触が増え、比較的短期間の熟成でもしっかりと熟成感が得られます。世界で各10,000本の限定販売ではありますが、日本のコアなファンの皆様にはぜひ味わっていただきたいと思っています」
ボトルデザインを担当したストレンジャー&ストレンジャーは、ボトルを一周する切れ目のないデボスラインでアラン島の山々を表現した。薄いグリーンのガラスは、海と山に囲まれた島の自然を思い起こさせる。特徴的な丸いウッドキャップもモダンな仕上がりだ。ボックスにはピートカッティングを想起させる黒いラインと「LAGG」のロゴが映える。
初めてのリリースから、明確な個性を主張してくれたラグ蒸溜所。個性の異なる2つの蒸溜所によって、アラン島は新しいウイスキーの聖地になりつつある。
ラグ イノーギュラルリリース バーボンカスク容量:700ml
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ラグ イノーギュラルリリース オロロソシェリーカスク容量:700ml |
ラグ イノーギュラルリリース レッドワインカスク容量:700ml |
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