ラグ蒸溜所のコアレンジ2商品を味わう
文:WMJ
アラン島で150年ぶりにウイスキーづくりを復活させたロックランザ蒸溜所に続き、島の反対側でラグ蒸溜所が始動したのは2019年のこと。昨年は数量限定のシングルモルト「ラグ イノーギュラルリリース」を発売し、さらに秋から待望のコアレンジ商品も登場させている。
風光明媚な観光地としても有名なアラン島は、島内をいわゆるハイランド境界断層が通っている。そのためロックランザ蒸溜所がある北部は山がちなハイランド地方で、ラグ蒸溜所がある南部は穏やかなローランド地方にあたる。変化に富んだ自然環境は「スコットランドのミニチュア」として名高く、住民わずか4,500人の島に年間10万人もの観光客が訪れる。
同じアイル・オブ・アラン・ディステラーズの蒸溜所でありながら、ラグ蒸溜所は先行のロックランザ蒸溜所と鮮やかな対比を成している。ロックランザはノンピートで、ラグはヘビリーピーテッド。ロックランザの麦汁はクリーンだが、ラグは攪拌して濁らせている。ラグの蒸溜器はロックランザよりもネックが太めで、ラインアームは下を向いている。これによって還流は控えめになり、蒸溜速度もロックランザよりはるかに速い。
ラグ蒸溜所の設計は、細部に至るまで力強くヘビーな酒質を指向している。清澄な湖の水を使用しているロックランザに対し、地下水を使用しているラグはミネラル感も強い。そして何といっても、ラグ蒸溜所で使用する大麦モルトはフェノール値50ppmのヘビリーピーテッドだ。ハイランド産のピートは木や草の香りを含み、ドライな感触がアイラモルトとも大きく異なる。ロックランザ蒸溜所のシングルモルト「アラン」を愛するファンも、ラグの個性には新鮮な驚きを覚えるだろう。
際立つ個性の堂々たるバランス
このたび新しいラグのウイスキーを携えて日本に降り立ったのは、ブランドアンバサダーのマリエラ・ロマノ。美食の国イタリアに生まれ、ロンドンでスコッチウイスキーに魅せられた。今回の来日では、比較のためにラグ蒸溜所のニューメイクスピリッツも持参してくれた。
最初に味わったのは、ニューメイクスピリッツ。度数は63.5%で、フルーティな大麦の香りが濃厚だ。草原を思わせる青っぽい匂いや、洋ナシやゴムのようなニュアンスもある。マリエラの言葉を借りれば、ヒースの花が咲いた草原の匂いに似ているのだという。そこに潮気を含んだ海風が吹き抜け、焚き火のようなピート香を遠くから運んでくる。
このスピリッツをファーストフィルのバーボン樽で3年間熟成したシングルモルトウイスキーが、昨年秋から発売されているコアレンジ商品の「ラグ キルモリー エディション」だ。キルモリーとは、蒸溜所があるラグ村の教区の名前である。
ニューメイクと同様のスモーク香や、柔らかな甘い樽香がグラスから漂っている。口に含むと風味は濃厚で、クリーミーな舌触りも印象的だ。レモンやビスケットのような甘みが心地よく、土っぽい草のようなスモーク香が鼻から抜けていく。度数は46%だが味わいはまろやかで、樽由来のバニラ香とハーブのようなピート香がバランスよく調和している。
もう1つの「ラグ コリクレヴィ エディション」は、このたび日本で新発売となる2つめのコアレンジ商品。明るいゴールドのキルモリーに比べて、深い琥珀色がしっかりとついている。キルモリーと同様にバーボン樽で熟成させた後、ヘレスのミゲル・マルティン社から調達したオロロソシェリー樽で6ヶ月間追熟したウイスキーである。
シェリー樽の影響は、すでにグラスから立ち上がっている。ダークチョコレートや赤いベリー系の果実。ピートのスモーク香は、スパイシーなハーブ香とまろやかに溶け合っている。口に含むと、甘さの背後から心地よいスモーク香が押し出されてくる。舌触りはどこまでも滑らかで、度数の高さ(55%)を感じさせないほどに飲みやすい。たっぷりのフルーツと焚き火のようなスモークが、驚くほど濃密な余韻を残す。
コリクレヴィという名も、蒸溜所から数キロ北西にある地名に由来する。かつてその美味しさで悪名を馳せた密造酒「アランウォーター」の蒸溜が、コリクレヴィの集落でおこなわれていた。往時のアランウォーターと同様に、2つのウイスキーはチルフィルターや着色料を使用していない。
極めて個性的なスピリッツを丁寧に熟成し、それぞれ予想を遥かに超えたバランスと完成度に到達させた2つのウイスキー。このコアレンジを楽しみながら、成長するラグ蒸溜所と伴走することになるだろう。ウイスキーづくりへの情熱とアラン島の美しい風土に想いを馳せ、それぞれのシングルモルトをじっくりと味わってみたい。
ラグ キルモリー エディション容量:700ml
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ラグ コリクレヴィ エディション容量:700ml |
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