小規模だからこそ、細かなニーズに応えられる。クラフト精神旺盛な製麦業社が、新しいウイスキーメーカーの革新を後押ししている。

文:ガヴィン・スミス

 

クラフトモルトスター組合の理事会メンバーでもあるジェイソン・パーカーは、シアトルのコッパーワークス・ディスティリング社の共同設立者だ。パーカーいわく、火入れ時間の違いがウイスキーの風味に現れるという。

「今リリースしている『49』と『50』は、どちらもまったく同じ品種の大麦を使用しています。ペールモルトとして火入れしたものと、ウィーンモルトとして火入れしたものでウイスキーをつくってみました。その結果、少し火入れするだけで、風味が豊かになることがわかったのです。これこそが、真のテロワールではないでしょうか」

トッド・レオポルドと弟のスコット・レオポルドは、2人でミシガン州に小さなビール醸造所とウイスキー蒸溜所を設立した。その頃は、まだカスタム製麦など存在していなかったとレオポルドは言う。

「あの1995年当時に、ウェイヤーマン(バルクのビールを醸造する大手メーカー)みたいな会社に電話で希望の麦芽タイプを伝えたりしたら、ほとんど笑い草になるほど酔狂な行動に見えたでしょう。麦芽のカスタマイズなんて、当時はまったく考えられませんでしたから」

クラフティ・モルトスターズ社を経営するダン・ミルンとアリソン・ミルン夫妻。農家と製麦業者を兼ねるかつてない形態で、スコッチに新風を吹き込んでいる。メイン写真もアリソン・ミルン。©︎Lisa Ferguson Scotsman

レオポルド・ブラザーズ社は、やがて蒸溜所をコロラド州デンバーに移転して製麦所を建設した。デンバーでは良質な麦芽用大麦が手に入るので、それが移転先の決め手にもなったのだという。

コロラド州では、クラフト麦芽、クラフトスピリッツ、そしてアメリカンシングルモルトウイスキーの新しい流れが来ている。ブームが起こった原因のひとつには、デンバーのすぐ西に位置するゴールデンの町にクアーズのビール工場があるからだとレオポルドは言う。

「クアーズがなかったら、デンバーに移転していなかったでしょう。クアーズは1800年から製麦を手がけていて、大麦の品種改良にも取り組んできました。窒素の含有量を調整して、水をあまり使わなくて済むような改良に成功したんです。可能な限り最高品質の大麦から始めれば、お酒づくりはとても楽になります。あとは農家の努力を台無しにしないように注意すればいいのです」

そしてこの同じクアーズが、まったく別の理由でコロラド・モルティング・カンパニー設立の決定要因にもなった。

ジェイソン・コーディは、一族で大麦を栽培する農家だ。ジェイソンの曽祖父が1930年代に開拓した農場で、家族はクアーズ向けの麦芽用大麦を栽培してきた。だがクアーズとの契約が途絶えたことで、一家は何世代にもわたって育ってきた農場の売却を迫られていた。

売却の準備が整い、買い取りの申し出があって、売渡証が手元に届く。だがその時になって、ジェイソンの祖母は契約書への署名を拒否したのだという。

そしてコーディ家は、麦芽製造を始めようと考え始める。すでに大麦の栽培方法は熟知している。その付加価値を上げられるかもしれない事業が製麦だからだ。そして地元のビール醸造所各社に、ハガキで簡単な質問を送った。「地元に麦芽の供給元があるとしたら、購入を検討しますか?」という問いかけに、返事が続々と返ってきた。その内容を見て、家族みんなが驚いたとジェイソンは振り返る。

「ハガキを送ったビール醸造所のほとんどが『イエス』と答えてくれたんです。製麦に乗り出すべきだと思いました。当時はコロラド州でクラフトビールのムーブメントが高まりつつありました。そんな噂にも乗って、自分たちの強みを生かし、楽しみながら大麦に付加価値をつけていくチャンスだと本気で思ったのです」

ジェイソンの祖母であるフィリス・コーディは、貯蓄のすべてと1年分の収穫で最後の賭けに出た。コロラド・モルティング・カンパニーは500ガロン(1,893リットル)の酪農用タンクを穀物用の急勾配タンクに改造し、2008年から本格的に製麦を開始。事業は波に乗って、すぐに新しい追加のタンクが必要になった。
 

製麦事業でファイフの名士に

 
アリソン・ミルンは、農業事業の経営パートナーやクラフティ・モルトスターズ社のディレクターとして多忙な日々を送っている。それだけでなく、飲食料品業界のサプライチェーンにおけるコンサルタントとしても活躍してきた。

さらにアリソンは「スコットランドの飲食料品業界の人々を育成し、支援し、支持する」ために設立された団体「スコットランド・フード・アンド・ドリンク」の理事を務めている。 さらに空き時間でスコットランド・ラグビー・ユニオンのカストディアンディレクターも務め、2020年にはスコットランド農村部と農業への貢献が認められてMBE勲章を受けた。

テロワールにこだわるウイスキーファンが増える中で、農場から大麦モルトの品質を管理できるクラフティ・モルトスター社は注目すべきオプションだ。©︎Lisa Ferguson Scotsman

ここまでの忙しい日々を振り返って、アリソンは言う。

「クラフティ・モルツスターズ社を設立しようと話し始めたとき、みんながそんなのは無理だと言いました。 大手の製麦業者と肩を並べることなどできないと言われたけれど、私たちはそもそも大手と競争したくなかったんです」

もちろんウイスキー業界には、大量の大麦モルトが必要だ。だがクラフティ・モルツスターズ社には製麦の全行程を観察する時間的な余裕があったのだとアリソンは言う。

「水分や窒素レベルなど、気候の観点からもモルトを理解しています。 土壌の健康は穀物に大きな影響を与えるのでとても重要。 私たちは小規模だからこそ機敏です。実績、風味、先進性の3要素は他にないものだと自負しています」

ファイフ郡は、ウイスキー蒸溜と製麦の長い歴史がある。その両方に携わってきた一族のひとつがボンスローン家だ。アレクサンダー・ボンスローンは1829年にオーチタームフティでストラスエデン蒸溜所を設立し、1924年まで操業を続けた。蒸溜所は1926年に閉鎖されたが、製麦設備は1970年代まで稼働していた。

アレクサンダー・ボンスローンの弟であるジョン・ボンスローンは、スコットランドで最初期の専門製麦業者とされている。オーチタームフティから東に約13kmのピットレッシーにプリーストフィールド・モルティングズ社を設立し、地元のビールメーカーとウイスキーメーカーに麦芽を供給した。 最終的にはディスティラーズ・カンパニーに買収され、その子会社スコティッシュ・モルト・ディスティラーズが1968年まで運営していた。

アリソン・ミルンとダン・ミルンは、クラフティ・モルトスターズ社の創設と発展によって、かつての製麦王国に事業を再興したことにもなる。スコットランド内外の目の肥えたビールメーカーやウイスキーメーカーにとって、産地にこだわった貴重な麦芽の新しい供給源となっているのだ。