いつでも量より質を追求するのが、ベルギー人らしい職人気質。さまざまな穀物を駆使した自由な発想が、これまでにないウイスキーづくりを可能にする。

文:ジョセフ・フェラン

 

「ベルギーウイスキーは、新しい分野として急速に成長しています。ここ数年で世界的な評価が高まり、ニューワールドウイスキーの産地として活況を呈してきました。ベルギーのウイスキー蒸溜所は、すでに世界最高水準のウイスキーを生産していると言ってもいいでしょう」

そう明言するのは、ラダーマッハー蒸溜所6代目当主のリーネ・ツァハリアスだ。この言葉には、単なる大げさなマーケティング上のパフォーマンスに留まらない真実がある。

ブレックマンのシングルグレーンウイスキー「ブレックマン シングルバレル 12年」は、2021年にジム・マレーのウイスキーバイブルでヨーロッパおよびベルギーの年間最優秀ウイスキーに選ばれた。

権威ある国際的なアワードで、ヨーロッパ最高クラスの評価を受けているブレックマン蒸溜所のウイスキー。ポットスチルとカラムスチルの両方を備え、幅広い原料から独自のスピリッツを蒸留できるのが強みだ。メイン写真もブレックマンの中心メンバーたち。

ライ麦と大麦モルトからつくられた「ブレックマン シングルグレーンウイスキー」は、ファーストフィルのバーボン樽で12年間熟成された商品。アルコール度数66.1%のカスクストレングスでボトリングされた力強い味わいが特徴である。数量限定販売で、単一の樽からボトル242本しか生産されなかった。

世界最高レベルと評価されたベルギーのウイスキーメーカーは他にもある。リエージュ郊外のオウル蒸溜所は、2022年にシングルモルト「ベルジャン オウル アイデンティティ」で最優秀ヨーロピアンウイスキーに選出。その翌年、ジム・マレーはこのウイスキーを世界で5番目に優れた香味のウイスキーとして紹介している。

ベルギーウイスキー全体の売上も増加傾向にある。ベルギー国内におけるベルギーウイスキーの売上は、2018年の2億260万米ドル(約302億円)から2023年の2億7410万米ドル(約409億円)にまで上昇している。

さらに世界のウイスキー市場の状況に関する包括的な報告をまとめた『ベルギーウイスキー産業の展望 2022-2026年』によると、2026年までにベルギーウイスキーの輸出額は1億4,000万米ドル(約209億円)前後に達する見込みだ。これは2021年の1億1,300万米ドル(約169億円)に比べると際立った増加である。

ブレックマン蒸溜所は、酒造メーカーとしてすでに百年以上の歴史がある。代表のセバスチャン・ブレックマンは次のように語っている。

「近年のベルギーウイスキーの成長は、いくつかの要因で起こっています。ウイスキーというカテゴリーの世界的な人気が市場全体の成長を牽引し、いわゆるワールドウイスキーの人気も高まってきました。ベルギーのさまざまな蒸溜所が卓越した品質のウイスキーづくりに注力し、国際的な評価を得るようになっています。伝統の職人技や地元産の製品への関心が高まり、そのような背景もベルギーウイスキー部門の成長に寄与していると思います」

ユニークな風味、職人技による品質、そしてベルギーウイスキー業界全体の名声。さまざまな要因で、ベルギーウイスキーは愛好家たちの注目を集めている。スコットランドやアイルランドなどの伝統的なウイスキー生産国と比べても、肩を並べられるワールドクラスのウイスキー。ブレックマンの言葉には、そんな自負も感じられる。

「世界中のウイスキー愛好家にとって、ベルギーウイスキーは知れば知るほど刺激的で驚きに満ちた存在。職人技や生産地への関心が高まり続けるなか、私たちは市場シェアの拡大を目指し、輸出の増加などの新たな機会も開拓しています。国際的な舞台でもベルギーウイスキーの認知度と評価は高まっており、産業全体の将来にも期待できます」
 

あくまでサステナブルに高品質を追求

 
ラダーマッハー蒸溜所のリーネ・ツァハリアスも、ブレークマンと同様に前向きな見通しを持っている。ベルギーの蒸溜所はみな革新的なマインドセットで知られ、新しい製造工程や熟成技術を積極的に試しているというのだ。

「ウイスキー愛好家たちの間で、ベルギーウイスキーが成功を収めている理由のひとつは実験精神です。ウイスキーの蒸溜は、情熱を掻き立ててくれる仕事。私たちが育てているランベルトゥスのコレクションは、間違いなくベルギー最良の専門技術を体現しています。ファミリービジネスとして、私たちは自分たちの仕事に愛着を持ち、常に最高の製品をお客様に提供したいと考えています」

ベルギーは環境保護の意識が高い国としても有名だ。特に飲食料品の分野では、他国に先駆けた取り組みに定評がある。大手ビール製造メーカーであるABインベブは、ヨーロッパで保有する5大ビール醸造所を2028年までにカーボンニュートラルにすると2021年の時点で発表。この醸造所の中には、ベルギーのジュピユとルーヴェンにあるビール醸造所も含まれる。

ベルギーで最も歴史のある蒸溜所は、6代目のリーネ・ツァハリアスが率いるラダーマッハー蒸溜所。ジン、リモンチェッロ、ウォッカ、ベルモットなどの製造を経て、高品質なウイスキー「ランベルトゥス」やサステナブルな生産工程で業界全体の評価を高めている。

また今年初めには、高級チョコレートブランドのベルコラーデもカーボンニュートラルを宣言した。生産能力を倍増させながら、さらに環境に優しいメーカーを志すのはベルギー国内での大きな潮流でもある。

このようにサステイナビリティを重視する国民的な姿勢は、ベルギーのウイスキー蒸溜所にも影響を与えている。環境保護の一翼を担うように、業界全体が強い期待を感じているのだとブレックマンは語る。

「ソーラーパネルやLED照明を設置し、冷却水をクローズドサーキットで循環させて再利用するなど、環境負荷を削減するように取り組んできました。サステナビリティと高品質が共存できることは、私たちが証明済みです。穀物の調達や使用済み原料の再利用についても、地元の農家と協力関係を深めている最中。透明性も大事なので、ラベルのQRコードからサステナビリティ関連の詳細な情報を提供しています」

ラダーマッハー蒸溜所でも、製造工程にさまざまな工夫を凝らして環境に配慮している。近頃発売した「ランベルトゥス オーガニック シングルモルトウイスキー」は、ベルギー初のオーガニックウイスキーだ。リーネ・ツァハリアスが、サステナビリティへの本気度について説明する。

「最近おこなった設備投資の450万ユーロ(約7億300万円)のうち、約20%は環境負荷の削減に費やされました。すべての温冷回路の断熱化、太陽光発電パネルと三重ガラスの設置、LED照明への全面的な切り替えを完了しています。それだけでなく、エネルギー回収にも重点を置いています」

蒸溜機のコラムから熱を回収することによって、蒸溜所はマッシュタン、発酵槽、温水、建物の暖房システム、冷凍機、空調用の熱エネルギーを自前で供給できるようになったのだという。

「新しい設備で可能になったエネルギーの循環によって、卓越したアロマの濃度を維持しながらエネルギー使用量を50%削減できました。製造工程から生じてしまう廃棄物も、すべて家畜の飼料としてリサイクルされたり、パン製造やバイオメタネーションに利用されたりしています」

古い伝統と新しいアイデアをエレガントに融合させ、高い品質とサステナビリティを両立させる能力は注目に値する。ベルギーウイスキーが、世界の関係者にとって侮れない存在になりつつある証拠のひとつだ。

情熱あふれるベルギー人たちがつくるウイスキーは、その味わいと先進性で愛好家たちを魅了するようになるだろう。ベルギーの蒸溜所や職人たちは、世界のウイスキー業界において確固たる地位を築きつつある。