蒸溜所を創設し、再びウイスキーづくりに回帰したモリソン家。愛するグラスゴーと共に、大きく発展を目指している。

文:ピーター・ランズコム

 

クライドサイド蒸溜所の大麦は、ボーダーズ地方にある4箇所の農場で栽培される。製麦は、同じく家族経営のシンプソンズ社に任せている。

樽熟成の方針は、創設時から偉大なるウイスキーコンサルタントの故ジム・スワン博士に指導を仰いだ。ファーストフィルとリフィルのバーボン樽、シェリー樽、多彩なワイン樽、いわゆるSTR樽などの混合である。

グラスゴーの伝統を語り継ぐ歴史地区でありながら、クライド川岸はサステナブルな未来を志向している。クライドサイド蒸溜所は、グリーンな電力消費で周辺の事業者たちとの連携を模索中だ。

アンドリュー・モリソン社長は、父のティム・モリソンからゴルフへの愛情を受け継いでいる。この夏にロイヤル・トゥルーン・ゴルフ・クラブで開催された全英オープン選手権では、アメリカから渡英した輸入業者や木材業者たちをもてなしたばかりだ。

「ウイスキービジネスは、人間関係がすべて。これも父から学んだことです。私たちはケンタッキー州の家族経営のバーボンメーカーと直接協力関係を築いており、樽不足の現在でも高品質な樽が必要なだけ手に入ります」

ウイスキーの主要な原料といえば水もある。クライドサイド蒸溜所の水源は、グラスゴーの北にあるカトリン湖だ。

ポンプハウスの歴史を調べているうちに、モリソン家はさらに思いがけない一族とのつながりにも出くわした。ティムとアンドリューの先祖にあたるジョン・モリソンという人物は、グラスゴーで建築会社を経営していた。

この会社は1870年代にクイーンズドックを建設しただけでなく、グラスゴーの人口増加に対応してカトリン湖の水位を高める土木工事も手掛けていたのだとアンドリューは語る。

「私たちは蒸溜所の建設を始めるまで、ジョン・モリソンがクイーンズドックと関係していることに気づいていなかったんです」
 

新しいグラスゴーの船出を象徴

 
クライドサイド蒸溜所のビジターセンターは、モリソン家とウイスキー産業とのつながりを伝えながら、グラスゴーのスピリッツ製造とクライド川岸の造船業に関する歴史博物館としての役割も果たしているのだとアリステア・マクドナルド蒸溜所長は説明する。

「グラスゴーがスコッチウイスキー産業にとってどれほど重要な場所だったのか、ウイスキー業界関係者でも意外に知らない人は多いんです」

グラスゴー港の豊かな歴史遺産は、クライドサイド蒸溜所のブランディングでも大いに讃えられている。最初に発売されたウイスキー「ストブクロス」(2021年発売)は、クイーンズドックがあった地域名からその名を取っている。

クライドサイドの豊かなストーリーは、特別な品質のシングルモルトウイスキーによって支えられる。その中心にいるのが、アイラ島生まれのアリステア・マクドナルド蒸溜所長だ。

そしてこの夏には、シェリー樽のみで熟成させた「ネイピア」がラインナップに加わった。このブランド名は、クライド川沿岸地域における造船の父として知られた技師ロバート・ネイピアにちなんだもの。ロバート・ネイピアは船舶用の蒸気エンジンを最初に採用し、英国海軍のために初めて鉄製の船体を建造したことでも知られている。

汽船の煙突に描かれたネイピアのシンボルカラーは、海運王サミュエル・キュナードとの提携後に英国を代表するキュナード・ラインのデザインにも採用された。

グラスゴーの歴史に根ざした海運業のイメージは、クライドサイド蒸溜所のパッケージデザインにも色濃く表現されている。ラベル、箱、看板には水平のストライプが描かれているが、これは船の側面にペイントされた喫水線へのオマージュだ。喫水線とは、貨物を積んだ船が安全に航行できる最大深度を示すラインである。クライド蒸溜所のロゴも、波止場に立ち並ぶ倉庫や防火帯の形をイメージしている。

クライドサイド蒸溜所は、所在地が受け継ぐ海運業の歴史を誇りに思っている。そしてアリステアは、この場所からサステナブルな未来も見据えている。

アリステアとアンドリューは、蒸溜所で使用しているガス燃料からの脱却を計画している。隣接するスコティッシュ・イベント・キャンパス(音楽ホール「ハイドロ」やスコットランド展示会議センターのある場所)が提案する地域の暖房システムに参加しようとしているのだ。

当初の2交代制から週5日の3交代制に移行し、アリステア率いる生産チームは純アルコール換算での年間生産量を20万リットルから55万リッターにまで増やした。週7日のフル稼働にシフトすれば、年間生産量は約68万リッターに増加する。

クライドサイド蒸溜所は、さらなる設備投資によって年間生産量100万リッターの大台を超えていくのだろうか。その可能性を問うと、アンドリューとアリステアは意味ありげに視線を交わす。アンドリューは微笑みながら答えた。

「そういう計画は、もう話し合っていますよ」