恒例の「東京 インターナショナル バーショー 2025」が、今年も大勢の来場者を魅了した。ジャパニーズウイスキーやバーテンディングの進化から、新しいドリンクの愉しみ方を体験する。

文:WMJ

 

恒例の「東京 インターナショナル バーショー」は、最先端のドリンクやバーカルチャーを体験できるビッグイベントだ。今年も会場には国内外のウイスキーブランドが出展され、急増するジャパニーズウイスキーブランドにも注目が集まった。

ウイスキーメーカーを代表して、メインステージに登壇したのは2009年よりサントリーのチーフブレンダーを務める福與伸二氏だ。岩井喜一郎(本坊酒造)、竹鶴政孝(ニッカウヰスキー)、鳥井信治郎(サントリー)の尽力で走り出したジャパニーズウイスキー黎明期を振り返り、100年超に及ぶサントリーのウイスキーづくりに思いを馳せた。

クラフト蒸溜所の創業ブームで、ジャパニーズウイスキーの進化は続いている。ベンチャーウイスキーのカウンターには、今年も長蛇の列ができた。

ここで福與氏があらためて主張したのは、ジャパニーズウイスキーという地理的呼称について日本洋酒酒造組合が定めたルールの意義だ。新しい定義は2024年から発効し、世界的なアワードの出品要件としても採用されている。さまざまな規定の中で、福與氏が注目しているポイントは2つあるという。

「他国では熟成樽をオーク樽に限定している例がほとんどですが、ジャパニーズウイスキーは『木樽』という表現で他の樽材によるイノベーションの可能性を残しています。その一方で、日本の水を使わなければならないという規制はスコッチウイスキーよりも厳しい内容です。日本洋酒酒造組合の承認マークを表示することで、世界中の消費者が正当なジャパニーズウイスキーを識別できるようになりました」

出展者のカウンターでは、嘉之助蒸溜所、キリンビール、サクラオブルワリーアンドディスティラリー、サントリー、静岡蒸溜所、長濱蒸溜所、ニッカウヰスキー、ベンチャーウイスキー、本坊酒造(50音順)によるジャパニーズウイスキーの試飲が提供された。ストレートで香味を分析する人たちや、斬新なカクテルを楽しむ人たちが列をなすのは例年通りの光景だ。

争奪戦の加熱が話題になる記念ボトルは、会場での有料試飲のみという形で提供された。投機対象ではなく、本当のウイスキーファンだけに味わってもらいたいという主催者の判断である。ベンチャーウイスキーは「イチローズモルト 秩父 2016年」、堅展実業は「厚岸 シングルモルト ピーテッドシェリー樽」、ガイアフローは「静岡蒸溜所 シングルモルトジャパニーズウイスキー」をそれぞれボトリング。なかでも静岡蒸溜所は、旧軽井沢蒸留所のスチルで蒸溜された原酒をロビン・トゥチェック氏(ブラックアダー創設者)が選定した。
 

カクテル史の講義が聴衆を魅了

 
バーショーにおけるメインステージとマスタークラスは、世界のバー文化を身近に感じられる貴重な機会だ。今年の目玉は、カクテルの歴史に詳しいデイビッド・ワンドリッチ氏の来日である。開催された2日間にまたがって、バーテンディングを大きく進化させたさまざまな歴史的転換点について教えてくれた。

ワンドリッチ氏によると、バーテンディングの起原は1730年頃。強いお酒を飲みやすくするため、アジア各国でハーブなどを混入させた飲料が消費されていた。それを英国人が船で持ち帰り、パンチ(ポンチ)と呼ばれるドリンクが定番化する。ロンドンのパンチハウスでは、女性の給仕がパンチにフルーツなどを加えて提供するようになった。

バー文化の最先端を実感できる「東京 インターナショナル バーショー 2025」が開催されたのは、5月10日(土)と11日(日)の2日間。今年も入場規制がかかるほどの大盛況となった。

そのパンチが大西洋を越えてアメリカに渡ると、新世界らしい個人主義がカクテルを進化させる。出来合いの品に満足しないアメリカ人たちは、自分仕様の特別なレシピを欲したのだ。新しいレシピには氷が必需品となり、古典的カクテルの原型ができた。初期の人気バーテンダーには、アフリカ系アメリカ人が多かったという。

フィラデルフィアのアイスパンチ、バージニアのミントジュレップ、ニューヨークのジンカクテル。アメリカ各地で独自のレシピが花開く。それらをバラエティ豊かに楽しめるニューヨークが、バー文化の中心地になった。クラッシュアイスを使ったカクテルなど、1830年代には華やかなミクソロジーのピークを迎えた。

アメリカで発展したカクテル文化は、やがて世界に広まっていく。ハリーズバーを創設したハリー・マッケルホーンや、キューバでダイキリを生み出したコンスタンティノ・リバライグアらの伝説的なバーテンダーが登場。シンガポールスリングなどのご当地レシピが人々を魅了した。革新的なレシピは、今でも世界中で開発されている。そんなトップバーテンダーの一人として、ワンドリッチ氏は日本の上野秀嗣氏を挙げた。

ドリンク愛好家はもちろん、現役のバーテンダーたちも聞き入ったステージ。講演を終えたワンドリッチ氏は、観客に力強く呼びかけた。

「さあ、今度はみなさんの番です。ぜひここから新しいバー文化の転換点を築いてください」

カクテル、ウイスキー、各種スピリッツ、ツール類などが一堂に会し、業界の巨匠やリーダーたちが集う「東京 インターナショナル バーショー 2025」。今年も出展社数50社が東京ドームシティ・プリズムホールに集い、約14,100名の来場者(2日間の延べ人数)が特別な時間を過ごした。