ウイスキーブランドは、なぜスポーツチームやアスリートとコラボするのか。その目的は、共通の価値観を通したターゲット層の拡大にある。

文:ブラッドリー・ウィアー

 

シーバスリーガルは、以前からフォーミュラワン以外のスポーツチームとも提携してきた。イングランド屈指の人気サッカーチームであるアーセナルFCとは、2024-25シーズンから複数年の公式パートナー契約を結んだ。シーバスリーガルは男子チームと女子チームの両方を支援し、両チームの選手をフィーチャーした舞台裏コンテンツやグローバルなライブ体験も制してする。

アーセナルとの提携の一環で、数ヶ月前にはコメディアンのモー・ギリガンがホストを務めるオンライン番組「パイとパンチライン(Pie & Punchlines)」をスタートさせた。カイ・ハヴァーツ、ミケル・メリーノ、レアンドロ・トロサールといったアーセナルの主力選手たちが、軽妙な笑いを誘うコンテンツに登場している。

アーセナルの祝勝会に提供されたウイスキー風味のパイ。サッカーとパイは、さまざまな比喩を通して広い文脈を獲得する。

そして今春早々、この提携が楽しい形で実を結んだ。シーバスリーガルと共同で開発されたウイスキー風味のパイが、1-0で勝利したニューカッスル戦の後に供されたのだ。イングランドのサッカー界で、パイは自己管理の敵とされている。有名な「パイを全部食べたのは誰だ」というチャントは、太り過ぎで動きにキレのない選手への糾弾ソングだ。

このような「ネタ」の訴求について、シーバスリーガルのグローバルマーケティングディレクターを務めるニック・ブラックネルは語る。

「現代のウイスキー愛好家は、ただ好きな製品を選んでいるだけではなく、共感できるライフスタイルを購入しています。だからこそインパクトのあるデジタル主導のキャンペーンは、提携先のカルチャーを理解して感情的な共鳴を引き起こすものでなければなりません。スポーツやファッションなど、消費者の情熱に根ざした提携を進めることで、ブランドはファンと心からのつながりを築いて幅広い消費者層への訴求力を高められるようになります」

オンライン空間で、異なったカルチャーのオーディエンスを惹きつけること。そんな渇望こそが、シーバスリーガルとブラックネルの原動力になる。世界的な超人気ブランドとの提携を通じて、シーバスリーガルは大きな達成が得られるのだ。

しかもコアな数千人のファンにターゲットを絞った小規模なコラボレーションではない。フェラーリとアーセナルはどちらも、世界中に数千万人規模の圧倒的なファンベースを持っている。この層のわずか0.5%さえ惹きつけられれば、シーバスリーガルにとっては画期的な成果になるのだ。

特にフォーミュラワンは、ティーンエイジャーから30代までの巨大な支持層を抱えている。まだウイスキーを深く経験したことのない若年層をターゲットにすることで、ウイスキー業界全体に好影響が波及することも期待できる。シーバスリーガルが入口となり、別のブランドのウイスキーに興味を持つのは極めて自然な流れだからだ。
 

ターゲット層をシフトさせる戦略的なコラボ

 
シーバスリーガルは、Z世代やライフスタイル志向の消費者層にターゲットを移行させてきた。その結果、ブランドに関心を持つ人々の数を維持することで、主要な消費者市場での成長を牽引しているのだとブラックネルは説明する。

「現代のウイスキー市場で成功するには、消費者との文化的な関連を保っていくことが鍵になります。シャルル・ルクレールのような影響力ある人物とコラボすることで、現代のスポーツ文化やライフスタイルにおけるシーバスリーガルの存在感が高まり、『チームみんなで勝利する』というブランド価値を強化できるのです」

こうした提携は、典型的なウイスキー愛好家に対する旧来の認識を変えるきっかけにもなるのだとブラックネルは説く。

シーバスリーガル18年のブランドイメージは、精緻なメンテナンスが勝敗を分けるF1の世界と共鳴できる。異業種のコラボが、奥底の価値観で結びつける好例だ。

「戦略的なコラボは、Z世代以降の新世代に共鳴します。F1のように新鮮でダイナミックな世界に、シーバスリーガルのブランドを位置付ける助けとなるのです。アスリートたちとの協業や連携を通じて、より広範なライフスタイル消費者層にアプローチできます。そこではラグジュアリー、カルチャー、クリエイティブなイメージと影響力をブランドの核心的なアイデンティティに織り込めるのです」

ルクレールを起用した最新のプロモーションキャンペーンは、モンツァで開催されたイタリアグランプリで公開された。ジョージ・ザ・ポエットが脚本を担当した新作ショートフィルム「A tribute to the Scuderia Ferrari HP Pit Crew(スクーデリア・フェラーリHPピットクルーへのオマージュ)」では、7度も世界チャンピオンに輝いたチームメイトのルイス・ハミルトンも登場し、ルクレールがフェラーリのピットクルーの努力に敬意を表している。

この映像作品の内容は、シーバスリーガルのウイスキー製造も反映して制作されている。キャンペーンで提示されている価値観は、シーバスリーガルとF1チームが共有する創造力と持続的な強さや、さらには創造への意欲である。

これまでも、有名人が名前だけを貸すような広告は数えきれないほどあった。しかしシーバスリーガルとのコラボが始まってから数ヶ月で、シャルル・ルクレールは単なるスポーツ選手以上の存在であることを証明してくれたのだ。

ブラックネルの言葉によれば、この提携を促したのはシャルル・ルクレールの「粘り強い精神、卓越性への献身、そして個人的な情熱」である。

現在のウイスキー業界では、スポーツとのコラボレーション(特にフォーミュラワンとの提携)がたくさん進行中だ。その中にあっても、シーバスリーガルのビジョンは誰の目にも明らかである。

今シーズンのフェラーリは、F1ドライバーズチャンピオンやF1コンストラクターズチャンピオンをまだ獲得していない。それでも独創的、献身的、かつ創造的なウイスキーブランドとの提携という点において、フェラーリがポールポジションにいるのは間違いない。