ファッションとウイスキーの頂上コラボ【第2回/全3回】
重層的なイメージを駆使し、伝統を踏まえながら新境地を目指す。ウイスキーとファッションには、確かにクリエイティブな共通点がある。
文:ミリー・ミリケン
オリヴィエ・ルスタンとエマ・ウォーカーは、パリとエディンバラを往復しながら12か月がかりでブレンドを完成させた。プリンセスストリートにあるジョニーウォーカー施設の地下には神秘的な「ヴォールト」の空間があり、そこを歩くルスタンの姿は驚くほど居心地よさそうに見えた。
ニューヨークに戻ったオリヴィエ・ルスタンは、スコッチの巨人の精神と明らかに共鳴していた。冷静沈着で、思慮深い言葉がその真意を伝えている。
「これまでの限界を押し広げることで、あらゆるコラボレーションが本当に特別なものになります。パートナーシップを通じて感じたのは、ジョニーウォーカーが過去に確固たる基盤を持ちながら常に未来を見据えているということです」
完成したウイスキーの中味も分析してみよう。当初は1種類のみのブレンドを仕上げるという予定だったが、エマ・ウォーカーとオリヴィエ・ルスタンが話し合い、四季をテーマにした4種類のブレンドをつくるアイデアが発展した。
そうやって、中味のウイスキーとデカンタのスタイルを季節ごとに変化させるというコンセプトが生まれたのである。各バッチわずか25本限定という極めて希少なウイスキーで、価格設定は1本16,000ポンド(約320万円)だ。
エマ・ウォーカーの手元には、実験的につくられた希少な500種類の原酒があった。その中には古酒、若酒、ゴーストウイスキーなども含まれる。前任者のジム・ビバレッジがつくり、樽を移し替えたりしながら新しい香味へと進化したウイスキーもあるのだとエマ・ウォーカーは明かす。
「今回のブレンドのために、最高峰の原酒だけを選んでいます。ブレンドの芸術性と世代を超えた発展は、ジョニーウォーカーの強み。我々は長い歴史と巨人の肩の上に立っているのですから」
そしてオリヴィエ・ルスタンは、彼のデザイン作品にも見られる特有の鋭さと柔らかな特徴を併せ持つデカンタをデザインした。それぞれの季節を表現するため、ガラスのテクスチャーも金属も使い分けている。春はローズゴールド、夏はシルバー、秋はゴールド、冬はメタリックブラック。デカンタ本体はバカラのクリスタルガラスで制作され、オリヴィエ・ルスタンらしいオートクチュールの技法「ドレープ」を用いて金属製ケーシングを鎧のように包み込ませた。
オリヴィエ・ルスタンは、豊かな歴史的遺産をデザインに反映させた。その意図について本人が説明する。
「創造の行為において、最も美しいのは歴史的な遺産を内包していること。ジョニーウォーカーのアーカイブを閲覧するチャンスがあったので、その受け継がれた価値をデザインに取り入れたいと思っていました」
例えばスクエアデキャンタの形状は、創業者ジョン・ウォーカーがオリジナルブレンドを保管していたという立方体のボトルを再現したもの。翼を思わせる印象的なコルクキャップも、ジョニーウォーカーのキャッチコピー「飛べるようになるまで歩き続けよう」へのオマージュだ。オリヴィエ・ルスタン自身のジャケットでもあしらわれる翼のようなショルダー形状にもなぞらえ、天に昇るようなラインを描いている。
異業種のマスター同士が4つの季節を表現
それぞれのブレンドは、ジョニーウォーカーの原酒であるブローラ、ポートエレン、ポートダンダスの希少なモルトウイスキーを核にしながら、そこにそれぞれの季節をイメージしたウイスキーを重ね合わせている。エマ・ウォーカーは、それぞれの原酒の個性をブレンドに加えるだけでなく、ブレンドを構成する他の原酒の特徴をまろやかにしたり、強調したりする相互作用を慎重に検討しているのだという。
コレクションの幕開けとなる「春」は、新たな始まりを象徴する味わいだ。エマ・ウォーカーは次のように説明する。
「春は新しい生まれ変わりの季節。だから爽やかさや雨を受け取る土の香り、そして雨が上がった後の陽光などを想像しました。このイメージを具現化するモルト原酒は、やはりポートエレンです」。
このブレンドに1978年蒸溜のポートエレンを軸に、1985年蒸溜のクラガンモアがフルーティで甘い印象を強め、1977年蒸溜のカレドニアンがグレーンの滑らかさを加えている。リンゴの花、クリーミーなバニラポッド、刈りたての芝生、柑橘系などの香りが広がる。
次の「夏」について、オリヴィエ・ルスタンが口を開く。
「夏はエネルギーの象徴。ビーチでパイナップルカクテルを味わうような感覚。まばゆい太陽と暖かなビーチのイメージを想像してください」
香味はトロピカルフルーツのような印象が主役で、そこに砂浜のような柔らかいミネラル感や、パイナップル、マンゴー、柑橘などのジューシーなニュアンスもある。これらは世界的に評価の高い蒸留所からのブレンドだ:実験的なカードゥのワインカスクフィニッシュや、海っぽい1990年熟成のクライヌリッシュ、リッチな香味の1988年熟成のベンリネスなどが脇を固めている。
そして「秋」のブレンドは、4作品のなかでもっとも異色なアプローチだ。実験的なティーニニックのモルト原酒と1978年熟成のポートエレンをブレンドしている。チェリー、トンカビーンズ、チリフレーク、ダークチョコレート、焙煎したてのコーヒー、デメララ糖、生姜などのニュアンスが特徴だ。
オリヴィエ・ルスタンが「ルーツや起源への想いを込めた、内省的な趣きの香味」と語れば、エマ・ウォーカーは「この秋は本当に刺激的で、オリヴィエの一番のお気に入りだと思いますよ」と言う。これは2人が初めて共同でブレンドした作品でもある。エマ・ウォーカーは言う。
「オリヴィエの出身地について話しているうちに、スパイスや辛味がとても好きだということに気づいたんです。スパイシーなウイスキーの香味要素で、チョコレートモルトをすぐに連想したんです」
黒いケースに包まれた「冬」は、寒い季節にふさわしいスモーキーな味わいで力強いフィナーレを飾る。
「エマに伝えたんです。冬は強くて大胆な香味であるべきだと」
オリヴィエ・ルスタンが言う通り、そこには暖かな我が家に帰るような感覚や、家族との思い出が想起される。アイラモルトのポートエレンとブローラに、1988年熟成のベンリネスがジャムのような風味を調和させているのだとエマ・ウォーカーは明かす。
「私にとって、これはクリスマスそのものの香味なんです」
ナツメグ、石炭をくべた暖炉、オレンジ、ほのかなチョコレートの香りが凝縮されている。











