ファッションとウイスキーの頂上コラボ【第3回/全3回】

ニューヨークのファッションイベント「メットガラ」で、特別なウイスキーが開封される。時代を越えたインスピレーションが、唯一無二の香味に宿っていた。
文:ミリー・ミリケン
ハリウッド俳優や世界的ミュージシャンたちが集う会場で、このウイスキーシリーズを披露するにはそれなりのスペクタクルが必要だ。薄暗がりの中で、高台を囲むように座った観客たち。その眼前に、季節ごとのブレンドが巨大なホログラムとして現れる。
回転しながらメタリックな輝きを纏ったボトルが、音楽と映像を伴ってそのエネルギーに呼応する。「春」はボン・ジョヴィの「リヴィン・オン・ア・プレアー」と幽玄な雲のイメージ。「夏」はキム・ワイルドの「キッズ・イン・アメリカ」にあわせてオレンジ色の太陽が水面の波紋に揺れる。「秋」はリック・スプリングフィールドの「ジェシーズ・ガール」に合わせて万華鏡の光に包まれる。「冬」は羽根を冠し、M.C.ハマーの「U・キャント・タッチ・ジス」に合わせて麻ひもに包まれて現れた。
ドラマチックな演出の背後には、オリヴィエ・ルスタンとエマ・ウォーカーの化学反応が確かに宿っている。このような境地にまで達すると、表現者としてのそれぞれ思いや個性を分けて表現できなくなる。だが二人の協働体験について語るとき、この融合が真の精神的な出会いであったことは驚くほど明白だ。その結果から生まれた4種類の傑作ブレンドは、普遍的でありながらどこまでも個人的な響きを併せ持つ。
このようなウイスキーは、ラグジュアリーでありながら一種のやわらかさを伴っている。物語、記憶、感情、そしてそれらの中核にいる人々に焦点を当てた表現であるからだ。ディアジオのラグジュアリーグループを率いるジュリー・ブラムハムは語る。
「熟成年数は、かつて高級ウイスキーの代名詞でした。希少な古酒にはもちろん価値があります。でも今日のラグジュアリーは、はるかに広範な概念です。ブランドが築く世界へと消費者を招き入れ、繋がりを創出することこそがラグジュアリーなのです」
この境地に至る道程は、決して短くもなく、直線的でもなかった。エマ・ウォーカーにはさまざまなコラボの経験があるが、今回のコラボはおそらく最も注目を集めたコラボのひとつであると笑いながら語る。
「周囲の人々は、20歳の自分に戻りたいとよく話しています。でも20歳の自分に現在の仕事について話したら、どうせ嘘だろうと信じてもらえないでしょうね。超高級ウイスキーの開発に携わり、オートクチュールを代表するデザイナーとパリで一緒に仕事して、ニューヨークのメットガラでセレブに囲まれているわけですから。嬉しさと同時に、ちょっと恐ろしくもあります」
プレッシャーを感じていたのはエマ・ウォーカーだけではないオリヴィエ・ルスタンもコラボに関する責任感を語ってくれた。
「エマ・ウォーカーとの仕事を始めた時、自分が本当に小さく感じました。もう15年間もクリエイティブディレクターを務めてきたのですが、まだまだ世界は奥が深いと感じたんです。確固たる地位を築くうち、ともすれば自分を過信してしまうこともある。だから今回のコラボは、新たな始まりのように感じました。気後れがしたし、自分には荷が重すぎると思えて怖かったんです。でもそんな居心地の悪いチャレンジの感覚も大好き。生きているという実感が得られますから」
初めてのコラボで得られたもの
ウイスキーの創作プロセスで、もっとも驚いたことについて尋ねてみる。するとオリヴィエ・ルスタンは即答した。
「それは数学的な側面です。私がイメージをスケッチしている傍らで、エマは円を描きながらバランスに関する線画を描いていました。ウイスキーのブレンドは、まさに数学そのもの。この瞬間から、プロセスの複雑さがさらに強く感じられたのです」
一方のエマ・ウォーカーは、オートクチュールデザインのメカニズムについて驚きを語った。
「縫製や形状を守る構造、そして全体のバランスなど、目に見えない部分で作品の骨格を支えている要素が実に多いと感じました。私が感銘を受けたのは、2人それぞれの創造プロセスが密接に結びつきながら並行して進行したところ。その創造の旅路を一緒に歩みました。オリヴィエは大胆かつシンプルな筆致でボトルのデザインを構想してくれました。壮大な作品を生み出す過程を目の当たりにできて、素晴らしい経験になりました」
オリヴィエ・ルスタンも微笑んで答える。
「エマは本当に素晴らしい人です。プロフェッショナルとして多くを学べただけでなく、人間的にも成長させてもらいました。この4種類のブレンドを生み出すには、同じ言語を話す必要があると互いに気づいた旬ががりました。異なる楽器で、同じ交響曲を奏でなければならなかったのです」
ジョニーウォーカーというブランドにとって、新たな領域に進出するためのコラボでもある。新たな顧客層にリーチする大胆な決断が、今回のコレクションにつながった。ジュリー・ブラムハムは、そんな新時代の到来を嬉しそうに語った。
「オリヴィエ・ルスタンとのコラボにより、ジョニーウォーカーは新たな舞台でウイスキーの本質を提示できました。年間最大のファッションイベントである『メットガラ』にあわせて展開できたことは、我々にとっても素晴らしい瞬間になりました」
エマ・ウォーカーは、このようなコラボレーションをウイスキーにとって不可欠な道だと考えている。これはオリヴィエ・ルスタンのファッション観とも同様だ。エマ・ウォーカー自身が次のように語ってくれた。
「ジョニーウォーカーの創業期に遡れば、本質的に先人たちがやってきたことにも通じます。ウイスキーは過去に依拠しますが、同時に未来も見据えねばなりません。だから我々が問うのは、いかにして人々がウイスキーへの関心を持ち続けるかという未来への問いなのです」
そしてオリヴィエ・ルスタンにとって、個人的な記憶、物語、デザインを結びつけた4種類のブレンデッドウイスキーが「ヴォールト」の一部であることは特別な意味を持つ。彼の口から、またしても名言が飛び出した。
「私がもっとも愛するのは、時代を超えた価値を創造することです」
季節は移り変わっても、「クチュール・エクスプレッション」は永遠にジョニーウォーカーの物語の一部であり続ける。将来にわたって、どんなインスピレーションをもたらしてくれるのだろうか。











