モルトマニアの聖地でアランを語る【後半/全2回】
キャンベルタウン・ロッホ店主の中村信之氏が、「アラン」の真髄に触れる。スチュワート・ボウマン蒸溜所長は、とっておきの秘密を明かしてくれた。対談:スチュワート・ボウマン(ロックランザ蒸溜所)+ 中村信之(キャンベルタウン・ロッホ)
構成:WMJ
写真:高北謙一郎
スチュワート・ボウマン
今度は、2つの原酒を10年熟成したウイスキーを比較テイスティングしてみましょう。まず本土産モルトの「アランモルト10年」はロックランザ蒸溜所の主力商品で、アランブランドの生産量の約45%を占めます。まさにクラシックなアランで、リンゴやオレンジなどの果樹園のフルーツ風味や、かすかなシェリー風味も感じさせます。この「アランモルト10年」の約20%がオロロソシェリー樽(ホグスヘッド)の原酒で、それ以外はバーボンバレルで熟成した原酒です。フレッシュで軽やかな風味は、バーボンバレルから来ています。
中村信之
この「アランモルト10年」の美味しさに、あらためて驚いています。本当に素晴らしいバランスですね。
スチュワート・ボウマン
もうひとつの「アラン バーレイ10年」はいかがですか? 洋梨のキャンディや、わずかな石鹸のような香りは、ロックランザ蒸溜所のスピリッツに共通の要素です。そのなかにあっても、「アラン バーレイ10年」は繊細な花やハーブの香りが旺盛で、甘味を強く感じさせます。
中村信之
ニューメイクスピリッツとは少し違って、かなり繊細に変化した印象ですね。熟成樽の比率はどうなっていますか?
スチュワート・ボウマン
ファーストフィルのバーボンバレルが90%で、オロロソシェリー(ホグスヘッド)が10%です。最初は「アランモルト10年」と同じ比率でブレンドを組んでみたのですが、シェリー樽で熟成した「アラン バーレイ10年」の原酒にかすかな刺々しさを感じたので、最適のバランスになるまで減らしました。香味バランスは完全な円形を目指しているので、突出した香味要素があると気になってしまうのです。
中村信之
比べてみると、やはり「アランモルト10年」はフルーティで、「アラン バーレイ10年」はスパイシーな印象です。「アラン バーレイ10年」には重みもあって、香りの繊細さも感じますね。ざらついたような余韻は、私の好みでもあります。「アラン バーレイ10年」の余韻は舌の上に残りますが、「アランモルト10年」の余韻は鼻の奥に残ります。
スチュワート・ボウマン
舌の上に残る余韻は、おそらくオイリーな酒質と高めのアルコール度数(50%)に由来するものでしょう。確かに、まるで口内をコーティングするような感触です。その原因が、完全にはわからないのもウイスキーづくりの面白いところです。
中村信之
ウイスキー初心者なら「アランモルト10年」がおすすめで、スコッチウイスキーを飲み慣れた人には「アラン バーレイ10年」をおすすめしたいですね。
スチュワート・ボウマン
完全に同意します。ビールやバーボンが好きな私の弟も、他のスコッチウイスキーは飲めないけど「アランモルト10年」は好きだと言っていました。この飲みやすさは「アランモルト10年」の大きな特長だと思います。
中村信之
あらためて「アランモルト10年」は本当にすごいウイスキーだと再認識しました。こういう店をやっていると、継続している商品は飲むチャンスが少ないんです。この「アランモルト10年」には、昔のウイスキーを飲んでいるような趣があります。無理に余計な香味を加えず、あくまで実直なウイスキーづくり。飲んでいて、あたたかい気持ちになりますね。多彩なスコッチウイスキーのゲートウェイとして、誰にでもおすすめできる1本だと思います。
アランの30周年を祝って
中村信之
現在のウイスキー市場は、情報に左右されて特有の銘柄が売れてしまいがちな傾向もあります。でもファンのみなさまには、優れた定番銘柄の重要性をわかってほしい。この「アランモルト10年」の一貫性には、いつも感謝しています。ところで、30年以上熟成したウイスキーを商品化する予定はありますか?
スチュワート・ボウマン
ちょうど今、30年熟成の商品化を目指して頑張っているところです。樽の影響を強く受けている原酒が多いのですが、それでも蒸溜所の特徴が表現できている原酒を探しました。実は試作品をお持ちしたので、ここでテイスティングしてみましょう。
中村信之
この30年熟成のウイスキーには、どんな樽で熟成された原酒が使われているのですか?

スチュワート・ボウマン
すべて1995年に蒸溜した原酒だけを使用しています。リフィルのバーボン樽(ホグスヘッド)が、とてもいい効果をもたらしています。同じ樽タイプは、2022年発売の「アランモルト18年」にも使用したことがあります。色が明るいので熟成感が軽いのではないかと疑う人もいますたが、パイナップル、パパイヤ、ライチなど素晴らしいトロピカルフルーツの香りがあるんです。この試作品には、20種類くらいの原酒を調合しました。バーボンバレル、バーボンホグスヘッド、シェリーホグスヘッドの組み合わせです。風味はいかがですか?
中村信之
コメントは何もありません(笑)。ただただ美味しいという感じです。
スチュワート・ボウマン
樽の影響が強すぎない原酒を慎重に選びました。長期熟成であっても、ロックランザらしいスピリッツの特性が表現されているウイスキーです。
中村信之
現在の日本のウイスキーファンには、1990年以降にダンカンテイラーなどの長期熟成ウイスキーに親しんだ人も多いので、オーキーな味わいに寛容な人も多いのです。そのようなウイスキーに比べて、樽の影響が強すぎると感じる人はほとんどいないでしょう。
スチュワート・ボウマン
熟成の長さにかかわらず、あくまでロックランザらしい特性を表現するのが私たちの目標です。とても嬉しいコメントをありがとうございます。
中村信之
さざ波のように穏やかで、非の打ち所がない美味しさ。仕事中も飲めそうなくらい、まったくストレスのない味わいです。以前から「アラン」のオールドボトルをたくさんキープしていますが、第2のラグ蒸溜所も未見なので久しぶりに行きたくなりました。
スチュワート・ボウマン
ぜひアラン島にいらしてください。そのときは、貯蔵庫でとっておきの樽をいくつか開けてみましょう。
![]() アランモルト10年容量:700ml
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![]() アラン バーレイ10年容量:700ml |
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