コニャックと白酒が育んだ注目のチャイニーズウイスキー【後半/全2回】
ブランデーと白酒の技術を融合させた新基準のウイスキー。熟成が完了する頃には、世界中の愛飲家たちを驚かせる存在になるだろう。文:ジャンヌ・ペイシアン・チアオ
現代の中国は、生産効率を重視する国になった。それでも蒸溜酒製造のDNAは、依然として地道な手作業に根ざしている。職人の技能こそが古奇蒸溜所の確固たる基盤であり、その伝統に科学的精密さが融合しているのだ。
発酵研究者の曹潤傑は、中国伝統の酵母である大麹(ダーチュー)の微生物起源と香りの可能性の解読に没頭している。彼の情熱と厳密さは、このプロジェクトの成功に欠かせない要素だ。
古奇蒸溜所でのスピリッツ蒸溜は、芸術的なまでの精密さによって支えられている。この哲学はカミュのコニャックづくりをヒントに、新しいウイスキーづくりのために再構築された。
銅製の蒸溜器(ポットストル)は2組あり、この形状がスピリッツの個性を形作る。シングルモルト用には容量10,000リットルの初溜器と容量5,000リットルの再溜器を使用し、ジンにも似た「ハーバルウイスキー」用には容量2,500リットルの初溜器と容量1,500リットルの再溜器をそれぞれ備えている。
伝説の漢方医として名高い「華佗」に敬意を表し、シングルモルト用の蒸溜器は伝統的な瓢箪(ひょうたん)型を採用した。香りの精錬に重要な役割を果たす「アランビック・シャランテ」の設計思想も取り入れたスタイルだ。
古奇蒸溜所の個性は、ウイスキー製造では珍しい手法を採用している点にある。具体的には、手作業で蒸溜液を取り出すカットの厳密さだ。初溜では「ヘッド」「ハート」「テール」の3段階に分けられるが、再溜ではさらに精密になる。
その再溜はコニャック特有の「セカンド」を含む4段階に分類されて、それぞれを慎重に処理している。カミュ社の特徴的な手法は、「ヘッド」の最良部分を選別し、「ハート」に再統合することだ。こうすることで、最終的な香りのプロフィールがさらに豊かになるのである。
製造技術を統括するヨナエル・ベルナールは、まるでマエストロのように手を動かしながら説明する。
「私の仕事は、指揮者が交響曲を構成するのとよく似ています。香りを無理に共存させるのではなく、適切な楽器を選び、ヴァイオリンとピアノを出会わせたり、オーボエ同士を温め合わせたりするのです」
練習室からコンサートホールへ、ゆっくりと演奏の精度を上げていくのだとヨナエルは語る。音楽と同様に、ウイスキーにおける真の調和も決して瞬時には生まれない。
「それはリハーサルを重ねて技量が磨き上げられ、ついに時が熟した時に初めて旋律が流れ始めるのです」
蒸溜と熟成の芸術を極める
蒸溜過程で得られる数多くの香味要素から、ヨナエルは異なった2種類のスタイルのスピリッツを創り出す。それは軽やかな香味のスピリッツと、リッチな香味のスピリッツだ。
前者は軽やかで親しみやすく、蒸溜の後半に現れる芳香化合物に焦点を当てたものだ。優雅にして繊細な香りがあり、短期の熟成で味わうのに適している。
後者は「ヘッド」と「セカンド」を厳選して再蒸溜したスピリッツで、リッチかつ複雑な香味を備えたスピリッツだ。こちらは濃密な香りを放ち、熟成には長い時間を要する。
音楽に例えるならば、前者がピアノとヴァイオリンの二重奏で、後者はフルオーケストラのようなものである。二重奏は即座に調和をもたらしてくれるが、後者は完成までにかなりの時間を要する。だがその時間の長さは、深みのある味わいで報われるのだ。
古奇蒸溜所のシングルモルトウイスキー「古奇(グーチー)」は、この軽やかさと深みを併せ持つスピリッツのブレンドで構成される。現在のところ、2027年に国外でも発売される予定だ。カミュXOコニャック樽、沃林橡木桶(ウォリン・クーパレッジ)の提供するモンゴリナラ樽、バーボン樽、ワイン樽の4種類で熟成される。曹潤潔によると、話題のSTR樽は使っていない。
中国市場向けに開発された「ハーバルウイスキー(草本威士忌)」は、2026年に発売予定だ。ジンと同様に蒸気にハーブの香味を付加する製造法と、詳細は非公開ながら「シングルモルト」の名称を維持する製造法の2種類が採用されているという。
初期の運転資金を支援してくれた国内の投資家向けに、2025年6月にはシングルカスク用の樽100本が1樽あたり15,000ユーロ(約270万円)で個人販売された。この料金には、10年間の熟成期間とパーソナルな各種サービスが含まれる。
この企画は、中国で高まる共同樽購入の潮流を捉えたものとなった。2025年9月にオープンしたビジターセンターは、高さ30メートルのタワーが人目を引く。これはコニャックを製造するカミュのアトリエをモデルに着想を得たもので、内部ではビジター自身がブレンディングとボトリングを体験できる。
中国産のウイスキーには、新たな国家基準が施行されたばかりだ。シングルモルトの定義は、欧州連合(EU)の基準とほぼ一致している。穀物原料は大麦モルトのみを使用し、ポットスチルで蒸溜し、最低3年間の熟成が求められる。国際基準に適合させることにより、中国産シングルモルトはグローバルに認知を高める可能性を秘めている。
ただし特筆すべきは、日本などでも議論の的となっている原料の定義だ。中国産のウイスキーは、穀物の産地について制限を設けていない。初期段階から高い品質基準を確保するため、「古奇(グーチー)」は現在のところ輸入モルトを100%使用している。
中国国内での大麦栽培は、いまだ発展途上なのだとライアンが説明する。
「現時点で、中国産の大麦はプロジェクトの基準を満たしていません。でも幸いなことに、中国産ウイスキーの規制には柔軟性があります。穀物原料が国産でなくとも、中国の国内で蒸溜と熟成をおこなえば中国産ウイスキーと定義できるのです」
もちろん、中仏の協働による中国産ウイスキーの創出には課題も伴う。あるチームメンバーは一定のリスクも認めている。
「このプロジェクトは、容易なことばかりではありません。ウイスキーの経験がまったくない国有企業グループと共に、教育と共同構築を進めている最中です。言語の壁は言うまでもありません」
それでも、このような文化のぶつかりあいから独創性が生まれることもある。中国ウイスキーの品質水準を単独で確立しようというチャレンジは、燃えるような野心を感じさせてくれる。
東西の伝統とプライドが火花を散らすとき、その閃光は弾丸に火をつける。世界のウイスキー地図に、真っ向から挑むパワーを獲得するかもしれない。











